催眠術をかけたら幼馴染の愛が激重すぎる⁉

モト

文字の大きさ
上 下
5 / 29

5

しおりを挟む
 セスはゆっくりと目を開けた。

 パチパチと瞼を開閉して視線が彷徨っている。どこかまだ放心状態だが、視線が合うとその目は大きく見開かれた。

「リュリュ?」

「あぁ、俺だ。大丈夫か?」

「……どうして……?」
「──ん?」

 彼の唇は半開きのまま閉じず、何か変なものでも見ているかのような驚きようだ。

 セスは俺の方に手を伸ばしてきた。──だが、その手は俺に触れる前に下ろされる。

「昨日まで短かったリュリュの髪の毛が伸びている……?」

「は? 何だそれ? 認知の歪みかも……なぁ、この指は何本に見える?」

 催眠術の副作用かもしれない。
 彼の様子をみながらいくつか質問をする。
 人物名や家族構成、魔術式など、セスは俺の質問に怪しみながらも答えた。
 質問を続けていると、セスに重大な記憶障害が見つかった。
 セスには近年の記憶がごっそり抜け落ちていたのだ。
 催眠術で忘れるように言ったからだろうか。
 “企み”の一部記憶だけを忘却するつもりだったが、曖昧な指示に彼の記憶がごっそり抜け落ちてしまったようだ。

 ──責任重大。

 一瞬青ざめたが、よくよく考えればセスの人間関係は狭く、人付き合いで影響が出るとは思えないのだ。

 そして学力に問題ないときた。この程度の記憶喪失ならば、すぐに日常生活に戻れるのではないだろうか。

 支障が出なさそうだと判断したが、セスは深刻な表情のまま背を丸める。

「何故、俺は平然とリュリュと一緒にいるのだ? ……いや、思い出せない。何故、この教室にいるのかも分からない」
「──あぁああ、あのな、セス! 無理をして記憶を思い出す必要はないさ。深呼吸でもして気分を落ち着かせよう!」

 彼の背をポンポン叩きながら宥めて、もう一度椅子に座らせた。
 蹲る彼の手を握って、「俺は味方! セスの良き理解者だぞぉ。ずっと仲良しなんだから!」
 暫く彼は蹲っていたが、暗示を強めるように何度もそう声をかけると、ようやく顔を上げた。

「……有り得ない」

「有りえ……い、かよ。そうかい、はい分かったよ。…ところで君はいくつだい?」

 彼は担任の名を覚えていなかった。もしかして年単位で記憶がないかもと判断し、そう質問をした。

「先ほどからおかしな質問ばかりだな……お互い、十五歳だろ」

 ……十五歳。

 思った以上に記憶が抜け落ちている。
 その時期何があったか──そうだ……十五才と言えば、丁度自分が非魔法使いであると診断を受け、魔法使いになるのを断念した年だ。セスに嫌味を言うのも馬鹿らしくなり、突っかかることを止めた時期。
 ……いつから俺の事を嵌めようと企んでいたのだろう。
 胸の内がモヤモヤしてきたが、それを堪えて彼に本当の年を話す。

「今、俺達は十八歳だよ。セス」
「──十八歳?」

 三年も記憶が抜け落ちているなら、それは仰天するだろう。
 そう予想したが、年齢を伝えたことで彼は腑に落ちた様子を見せる。「そうか、では……」と自分を納得させるかのように頷くと彷徨っていた視線は真っすぐに俺を見る。

 注がれる視線の強さは顔に穴が空いてしまうのではと思ったが、ことの責任を感じている俺は我慢した。


「可憐だ」

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~

トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。 しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。 貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。 虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。 そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる? エブリスタにも掲載しています。

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...