催眠術をかけたら幼馴染の愛が激重すぎる⁉

モト

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 男の名はセス・ファレル。
 サーシャベルト家に仕える庭師の息子だ。魔法学園に通う同級生でもある。
 だが、その筋肉が盛り上がった褐色の肌、百九十センチを超える身長、強面の容姿は、とても同じ年にはない迫力がある。
 昔から見知った仲だというのに、鋭く尖ったダークグレーの瞳に睨まれると、たじろいでしまう。

「……っ、睨むな!」

「……」

「なんだよ⁉ 文句があるのか⁉」

 俺が声をかけているというのに、この男──無言だ。

「おい、だんまりかい?」

 またか、と溜息が出そうだ。

 俺とは話をする気にもならない、ということか。
 よほど、セスは俺のことを毛嫌いしているようだ。

 セスは俺が誰かと話す度に、無言の圧をかけて邪魔をする。それが度重なって、今では俺は声をかけるだけで、生徒達は去るようになってしまった。
 だが、単にセスの顔が怖いから生徒が怯えているわけじゃない。

 白い髪の毛は膨大な魔力を持っている証と言われている。かつてこの国の創設者である大魔法使いも真っ白な髪の毛を持っていた。

 実際、セスの実力は大人以上と言われている。術の完成度、魔力、想像力すべてにおいて魔法学園ではセスの右に出るものはいない。

 “強すぎる魔法使いへの畏怖と尊敬”生徒達はセスに憧れている──でなければ、彼が魔法を使う度に飛び交う黄色い声に説明がいかない。
 ゴホン、と咳払いをして空気を切り替える。

「いいかい。これ以上邪魔されたくないから正直に話すけれど、俺は学園生活を満喫したい。ゆくゆくは恋人を作って青春を謳歌したいのだ」
「……」

 過去、魔法使いになるために勉強漬けで積極的に交流を持たなかった。自分のせいでもあるが、この通りひとりぼっちだ。
 ぼっちに慣れ過ぎて淋しいとも思わなかったが、あと一年で学園生活も終わるとなると感慨深い。
 青春がしたいのだ。あわよくば恋人をつくって充実させたい。──でなければ、学園事務就職内定が決まっている俺は、今よりさらに人との交流が少なくなり、非モテが続く未来が待っている。
 せめて、友人だ。卒業後もイベントやパーティーに誘ってもらえれば、そこで出会いが生まれるかもしれないだろう。
 目標を正直に話したというのに、この男は眉間のシワをよりいっそう刻んで、睨んでくるだけだ。

「馬鹿らしい動機だ」

「……ふ、ようやく話したと思えばそれか。君には俺の気持ちはこれっぽっちも分からないだろうね」

「分からん」

「あぁ、そうかい! 君には関係のないことを話して悪かったね!」

 とっとと彼から離れようと後退りした時だ。地面に小石が落ちていることに気が付かず足をくじいてしまった。
 思わず体勢を崩し前方によろけた俺にセスの手が伸びてきて──……

「ギャワワワワァア──⁉ ギャヒィ! 腕が潰れるぅううう!」

 セスに腕を掴まれて、俺は非モテな叫び声を上げた。
 すると、セスは掴んでいる腕をパッと離すものだから、そのまま鈍い音を立て、尻餅をつく。腕も痛ければ尻も痛い!

「……軟弱」
「くっそぉ……。馬鹿野郎め、俺は軟弱じゃなくて、君の握力がゴリラ並なんだ! ちょっと握っただけ
で痛いんだ! 自覚しろ、骨が折れるだろうがっ!」

「……」

「分かったなら向こうへ行け! それとも脳筋だから俺の言っている意味が分からないのかな⁉」

 セスの目元がピクリと引きつるが、また黙った。

 ──脳筋は少し言い過ぎたか?

 だが、屈辱を味わったのだ。このくらい言いたい気分になる。

「っ、な……なんだよ⁉」

 睨むような視線に耐え、俺も睨み返す。
 すると、セスはおおげさに溜息を吐き、踵を返した。
 ──よし、と圧迫感が消えたことに少し喜んだ俺だけど、去っていくセスのうしろ姿を見て、惨めな気持ちになる。
 俺は立ち上がり、衣類についた汚れを叩き落とした。

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