奴隷アルファに恋の種

モト

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いい匂いがした。
目を開けると褐色の太い腕の中にいる。唇を柔らかく塞がれて、それからゆっくりと揺さぶられる。
「——……ぁ、あ」
「リオン」
その声が耳元で囁く。ジンと耳に熱が持ち甘噛みされ濡れていく。浅く、浅く、ゆっくり深く。
心地よくてドロドロになって溶けてしまいそうだ。


「俺は、やっぱり貴方の一部になってもいい。それくらい……」

子供の君も同じことを言っていた。
僕はその褐色の身体に密着して、この肌の色が好きで、目が好きで、鼻が好きで、鼓動が好きで、一部になったら勿体ないと言った。

すると、唇を塞がれた。好きな部分を伝える度に唇が塞がれ、もう言わないでくれ。と懇願される。

こんな幸せな夢はいつぶりだろう。
「——ふふ」








「————ん」

真っ暗な寝室で僕は目覚めて、ざぁっと血の気が引いた。
身体が動かない。尻には先ほどまで何か入っていた——違和感。
服は着せられている。だが、性行為したことは間違いなかった。

プロセードの発情に当てられて、ヒートを起こして……あのまま僕は……。覚えていないが身体の異変がそう物語っている。

夢の中でガレとずっとセックスしていたけれど、現実はプロセードだった? 確かに初夜の時よりずっと優しかった。

じわぁっと泣きそうになるのをグシッとシャツで拭いて、僕は首を触った。
——大丈夫。番にはされていない。

重だるい身体を起こした。
やっぱり、あのホテルの一室だ……。
プロセードは今……奥の部屋か。僕は急いでベッドから立ち上がったけれど、足がふらついて転んでしまう。
物音に気づいて、足音がこちらに向かってきた。

隠れるにも早く身体が動かない。せめてもの抵抗にシーツを頭から身体にぐるぐると巻きつけた。

カチッと電気をつけられて、シーツを巻きつけた僕を抱き上げられる。

力は弱いけれど絶対にこのシーツを離さないと身体を固くする。そんな僕の身体をあちこち撫でてシーツの上から唇を押し当ててくる。


「……っ!」

——優しい。触り方がとても優しい。

やっぱりガレじゃないんだ。
涙を溢れるのを我慢すると、嗚咽が漏れる。それに気づいたのか、シーツを剥ぎ取ろうとしてくる。

「どこか痛いのか?」

都合のいい幻聴が聞こえる。でも、シーツから出たら、この人はプロセードなんだ。

「手加減が下手で悪い……」
「…………ガ」

ガレ、ガレ、ガレ……。
こんなところに彼が都合よくいる筈はないのにそう呼びたい。

「ひっく……」
シーツを剥ぎ取られた。そこには褐色の肌。黒い髪の毛の……、僕の……。

「リオン?」
その顔を見て、耐えていた涙がポロポロ零れてくる。

「ガレェ」

一度溢れた涙はなかなか止みそうになくて、なのにガレは何も言わず僕を抱きかかえてくれた。



「—————んん?」

泣き止んでくると、ガレが僕の唇に唇を押し当てて来た。いや、キスなんだけど……。
あれ? やけに甘いキスだ。嬉しいけど、あんまりこういうキスしたことがないから口が溶けそう。

夢だと思っていたことは、やっぱり現実だった? 僕はガレとセックスしたのか。
だけど、初夜の時よりもっと覚えていない。


「何を考えている?」
「——君が来てくれたことも、何もかも覚えていない」
「あぁ」

勿体ない。約二か月ぶりのガレとのセックスを覚えていないなんて。


何も覚えていない僕にガレはここに来た経緯と結果を報告してくれた。ミラン令嬢の件が誤解だと分かっただけで大喜びだ。

スパーダの大きな勘違いは、妹のアルミの説明もあるだろうとガレに伝えると、ガレは首を振った。

「いいや。きっとそれだけじゃない」
「そうかな」
「あぁ、スパーダだけじゃない。皆が、身分不相応すぎて反対する。この国ではそうだ」


ガレが話しながら、口づけてくるのもだからどうしたものかと思う。甘い。

——昨日? 一昨日? 僕らに何があった?

疑問符しかない頭で懸命にガレの口づけに応える。しかし、口づけが深くなってきて、身体が熱くなる。
止めて欲しいとガレの服を引っ張るとガレは、巻きつけていたシーツを剥ぎ取った。

ガレが、僕をじっと見つめるので、ゴクンと息を飲んだ。そんな僕をベッドに寝かせてガレは覆いかぶさってきた。


え? これは、まさか。今から!? そう思ってギュッと目を閉じると優しい声が降ってきた。


「俺と貴方じゃ釣り合わない。横にいるべき人間じゃない。そう俺も皆も思っていたのに、貴方だけが違ったんだな」


そろりと目を開ける。褐色で真っ黒な髪のガレが睨むんじゃなくて昔みたいに微笑んでいた。

昔から、それは、ひと目見たときから僕の大切なお気に入り。


「貴方が蒔いた種は実っただろうか?」
「…………」

僕は、彼の頬に触れるため手を伸ばした。

色々欲張ったけれど、実って欲しい種はたった一つ。

傍にいて、ずっとずっと傍にいるために……。





「あぁ、僕の恋は、実ったよ」








END
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