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しおりを挟む「リオンお兄様ぁ!」
「アルミ!」
妹は僕を見ると駆け寄ってきて抱き着いてきた。
「こら、レディがそのように走ってはいけないよ。──……あ、まさか、父上がまた問題でも?」
「まぁ、違いますわ! お兄様に会いたかっただけですのよ!」
てっきり父が詐欺まがいの高価な物を買ってきたのではないかと思ったが違うようで安心した。
抱きつく妹を離しながら、横にいる男性を見て驚いた。
深緑のジャケットを羽織りいい身なりをしている。僕を見て深く頭を下げた。
「ご無沙汰しております。リオン様」
「スパーダ。見違えたよ、君かい?」
僕は長身の彼の元に向かい握手を交わした。
スパーダもかつてこのグノワール家の奴隷だった者だ。彼は一番最後まで僕の元に残り僕とこの家を支えてくれていた。
彼を手放したのはもう一年前になる。
「リオン様に働き口を紹介して頂いたおかげで、まともな暮らしが出来るようになりました」
彼の行き先は、近辺地域で一番安定した工場だったが、頭のよく真面目なスパーダはすぐに仕事を覚え管理を任されているそうだ。
「そうか。君にいい仕事を紹介出来て誇りに思うよ」
久しぶりの再会にゆっくり話がしたいと二人を応接間に案内した。
「グノワール家の元奴隷は皆、各地で上手く働いているようです」
スパーダは奴隷達をまとめるリーダー役であった。今でもかつての奴隷たちと連絡を取り合っているとは驚いた。
「リオン様が社交界でどんなに辛酸を舐めたか知っております。そこまでして皆にまともな働き口を探してくださったこと感謝しております」
「僕の意志というよりも母の意志だ」
母の希望は、奴隷達が誰かに虐げられるのではなく人間らしく生活を送れるようにすることだった。母の教育のおかげでグノワール家の奴隷は皆、読み書き・計算が出来る。
彼女が病死した時から僕がその希望を叶えるべく準備を始めたのだ。
僕は社交界で彼等の働き口を探した。
オメガという性のせいで娼婦だの婬乱だのおかしな噂を立てられていたのは知っている。スパーダが辛酸を舐めたというのはこの点だ。
ただの噂に過ぎない。今はもうどうでもいいことだ。
「まさか貴方様があのガレとご結婚なさるとは思いもしませんでした」
「あぁ。急な結婚だった為、報告も出来ずに申し訳ない」
「いくらなんでも早急すぎやしませんか」
「なるようになっただけさ」
スパーダは当然、ガレが奴隷だったことを知っている。
まさか、かつての奴隷が主人の結婚相手になろうとは誰も想像しなかっただろう。
スパーダは僕の様子に頭を抱えた。
「ガレに他の融資先を全て潰され婚姻をするように仕向けられたそうですね。あの恩知らずの恥知らずめ。離縁してください。今こそ、私共がグノワール家を支える番です」
「待って。どうしてそんな話になっているんだ?」
アルミが大きく頷いている。そうか。アルミの口からスパーダに話したからだな。元々、もうこのグノワール家には他に融資を受けられるほどの魅力はなかった。遅かれ早かれグノワール家は見放される。
「グノワール家には魅力はありませんが、リオン様にはございます。昔からご自分には無頓着であられる。オメガで美しい貴方様は一流のアルファと番えるのです。ガレ程度と番っていい相手ではありません」
スパーダの話では、僕ならばガレと離縁しても他の縁談話が押し寄せるそうだ。そういった話が僕の耳に入らなかったのもガレが裏で操作していたに違いないと。
スパーダ、元主人だからって僕の事を美化しすぎではないのだろうか。
「そうですわ! リオンお兄様は騙されておりますのよ。世界一美しいお兄様があんな奴と結婚生活を送るなんて許し難いことですわ!」
「アルミ、君が話に加わるとややこしくなるから少し黙っていなさい!」
僕が彼女を嗜めると、彼女は一冊の地域の情報誌を差し出し見開いた。
「こちらご存知ですの?」
「え?」
アルミが指をさした文を読む。
「事業家、ガレリア・グノワール。ヘルグレア伯爵家の令嬢ミランと密会。貴族の仲間入りしたガレリアに早くも女性の影…………」
「そうなのですわ! リオンお兄様という方がおりながら酷いお人!」
僕は全て文章を読む前に震える指でその雑誌を閉じた。
「お兄様?」
「……」
僕は思った。
初夜で身体中に噛み痕を残されて熱く抱かれて勘違いをしていたのかもしれない。やっぱりこれは彼の復讐なのだ。
『絶対に見返してやる!』
泥と涙。憎しみ籠った目で睨まれ、僕はその彼をさらに突き飛ばした。あの時の僕は憎まれてもいいと思っていたはずなのに。
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