奴隷アルファに恋の種

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13 ガレ視点

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※ガレ視点、




「どうしてこの部屋に!?」

俺はホテルの一室を訪れていた。

貴族御用達の特別ルーム。そのドアの施錠を開ければ、部屋の中にいた人物は目を見張って驚いた。
そのあんぐりと口を開け間抜け面している人物は、辺境伯プロセード・スコット。どうしてこの部屋に来たのか、それは先程スパーダが口を割ったからだ。


「それはこちらの台詞だ。俺の妻をどうするつもりだ」


部屋を開けた瞬間から、クサイ匂いが充満している。俺は目の前のプロセードを睨んだ。

この部屋のクサイ匂いは紛れもなく、この男がヒートを起こしている証拠。苦しいのか、はぁはぁと額に汗を掻いている。

上品そうな顔面が潰れる程殴ってやりたいが、その前に同行しているはずのリオンの姿が見えない。目だけリオンをさがしていると目の前の男が鼻で笑った。


「どうしてここに来れたかは知らないが、私を敵に回してタダでは済まされないぞ」
「ええ。感情は置いておいて、貴方様に歯向かう程の力は今の俺にまだありません」

「はっ、当然だ。身の程知らずめ。卑怯な手であの方を掻っ攫って何が結婚だ。誰もお前など認めていない!」

プロセードは俺を早く追い出したいのか、どんなに俺がリオンに相応しくないか御託を並べる。


「言いたいことはそれだけ?」

俺の後ろで控えていた女性が前に出た。プロセードは、その女性を見て驚いたのと同時に後退る。

俺と一緒にいたのは、ヘルグレア伯爵家のミラン嬢だ。

「ミラン……」
「本当に馬鹿な人ね!」

ミランは髪をゆらしカツカツと高いヒールを鳴らし、プロセードの右頬を叩いた。スパンと小気味いい音が響く。

「フンッ! 貴方は産まれた時から私の許嫁でしょうが」
「ミラン、それは親が勝手に決めただけだ。諦めてくれ。何度も言っているが私は……」

今度は、プロセードの左頬を叩いた。

「貴方のドMは私以外に調教出来るわけがないでしょう? まだ分からないのかしら? ほほ。逃がさないわよ!」

名だたる貴族であるプロセードがドMか、いいことを聞いたとニヤリと俺はほくそ笑んだ。

ミラン孃は、プロセードの正式な婚約者だ。だが、リオンに焦がれるプロセードは彼女を拒んでいた。ミランはこのような性格であるししつこさ故、プロセードは今まではっきりと婚約破棄をしていなかった。


「ミラン、貴方の魅力を教えて差し上げろ」
「任せなさい! 人の奥様に恋慕するなんて馬鹿げているわ。さ、行くわよ!」
「ミ、ミラン……、近寄らないでくれ。今、私はっ……はっ!」

後退ったプロセードだが、ヒートで力が入らないのだろう。女性の力で引っ張られて部屋から出て行った。


プロセードのことはミランに任せ、俺はリオンを探した。
この部屋からリオンの香りがしているが、姿が見えない。

プロセードは服を着ていて事故にはなっていないはずだ。



グズ、グズ……と啜り泣きが聞こえる。

「……ガ、レ……」
「リオン、そこにいるのか!?」

トイレのドアノブに手をかけると、鍵がかかっていた。ピッキングで鍵を開ける。
ドアを開けると、リオンの匂いで充満している。
眩暈を起こしそうな匂いだ。

やはり、過剰反応を起こしているのかとリオンを見ると、彼は便座の後ろに小さく丸まって蹲っていた。チョーカーの上からさらに首を守るように手で押さえている。
服は着たままではぁはぁと呼吸の度に大きく背中が前後する。


「リオン……」
近付くと、怯えたように縮こまる身体。
触れようとした瞬間、リオンの声とは思えないほどの大声を出した。

「触らないで!!」

思わず手を引っ込める。だが、このままにしておけるはずがなく蹲るリオンを抱き上げようとすると暴れ出した。

「嫌っ!!」

俺の手を叩き、もう一度小さく蹲る。

ぐず……、ぐず……。ひっくひっく、はぁはぁ……。グズグズ。

まるで幼子のようなリオンを呆然と見た。
リオンはヒートで意識がないようだ。だが、触れようとすると激しく拒んでくる。

こんなリオンを初めて見た。少し見える頬も服の裾も涙で濡れている。

……俺も同じことをした。リオンは、あの時も内心こんな風に苦しんで悲しんでいたのだろうか。

「……ガレ」

小声で呼ばれた声にハッとする。だが、リオンが俺に気づいた様子はなく単に呼ばれただけだと分かった。


「……ガレ、じゃないと……いや」
「————……え」

俺じゃないと嫌? 

もう一度手を伸ばすと、やはり叩かれた。だかもう一度「ガレ」と呼ばれる。

「リオン……」

彼の声、その様子に胸がやけそうだ。

可哀想な状況なのに、今俺はおかしいくらいに歓喜している。

そうか。
リオンが、何故俺を追い出してアルファの施設に入れたのか、何故金を受け取らなかったのか、奴隷からのし上がった今なら分かる。
違和感の正体がようやく分かった。


「リオン、俺だ」


俺が横に立つのを待っていてくれたのか。







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