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27.俺の記憶

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 目覚めると、朝日が窓から差し込んでいた。
 
 朝になっちまっている。
 
 関節は痛いし、あちこちだるい。おまけに喉がイガイガする。けど、風邪でも何でもない。
 静かで周りにはカイザの姿はいない。
 
 身体を起こすと、俺の身体はこれまたキレイに拭かれて、服まで着せてくれている。
 シーツも新しいのと交換してくれており、どうりで朝までぐっすり眠ったはずだと納得した。


 ……カイザ、絶対、俺のこと嫌いじゃないよな。
 昨日の様子は絶対脈ありだ。

 欲求不満が解消されてスッキリして、身体のだるさなんて吹き飛ぶほど、気分がいい。

「ふ……」

 ベッドから出て、キッチンへ向かう。 
 昨日、カイザと酒を飲もうと思い夕食を食べなかったから、急に空腹だ。
 まずは水をコップに入れて、喉を潤していると、キッチン前のテーブルに一枚の書置きに気が付いた。


【帰ります。鍵を閉めておきますので、一度お預かりします。職場で渡しますので】

 ……カイザ、真面目だな。
 彼は素っ気ない態度だから勘違いしやすいが、やっぱりいい奴なんだよな。あれもこれも面倒みてくれるところ、付き合うと溺愛に変わりそうだ。

 そう思った後、何か引っかかった。

「ん?」

 何が引っ掛かったのか分からない。けれど、カイザのことで引っかかったことだけは確かだ。
『素っ気ない態度?』いや違う。『勘違い』『溺愛』……何にひっかかった?


 暫く考えたが、寝ぼけた頭では冴えないため、水浴びしようとバスルームに向かう。すると脱衣室でシーツが干されていた。
 俺の家の中は干す場所がないから、ここに干したのだろう。
 
 ホントまめまめし…………あ、れ?

「前にも、ここにシーツを干されたことがあった……っけ」

 俺はこんなところに干さない。
 なのに、既視感。
 何かを思い出せそうな気がして、頭をガリガリ掻く。

「……頭?」
 頭、昨日意識を飛ばす直前、頭を撫でられた。その感触が残っている。

 ────……そういえば、セックス中に、俺は自分ばかりが気持ち良くていいのかとカイザに聞いたんだ。

 あの時、彼は「それが気持ちいいだから」だと言った。その時は、快楽で何言っているのか考えもしなかった。
 

「……種族」

 種族。カイザは人間とモンスターのハーフだ。


 欠けている記憶な気がしてならない俺は、水浴びを止めて寝室に戻った。図鑑や生物学などの書簡を置いている本棚がある。

 まるで、一冊の本を手に取った。
 開くと、一箇所おかしいページがある。そこを捲るとページが破られていた。


「ナガレが記載されたページだ……」

 俺はそのページを記憶していた。正しくは今思い出した。

 ナガレ。この破ったページには、人型に近いモンスターのナガレが掲載されていた。


 ナガレは、人に寄生する淫魔系モンスターだ。人に頼らないと生きていけない弱いモンスター。

 カイザ達が暮らす村の集落が出来た発端も、ナガレが人間を魅了させたからだと言われている。
 そして今から50年ほど前、ナガレが原因で村同士の抗争があった。

 ナガレも数が減り、今ではカイザがいる集落にだけ生息している。ナガレは外にほぼ出ないから俺もそれくらいしか把握していなかった。


 だが、この破ったページにはナガレという弱いモンスターが生き延びる最大の特徴が書かれていた。

 ナガレは双子を産む。
 ナガレと人間だ。
 ナガレの腹から生まれた人間の特徴は、世話を焼くことに多幸感を覚える。そして必ず強い独占力を持つ。それがナガレを守らせて来た。

「そうだ。カイザは……」


 思い出したくない、と俺の中でゾワゾワと寒気に似た何かを覚える。

「────生まれながらに定められた番がいるのに、俺の恋人だった」

 
 それを知ってしまったから、過去の俺は彼を突き放した。

 報復なんてとんでもない。傷つけられたのは俺の方だ。
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