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20.団長はとにかく誘いたい

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「よぉ、カイザ。食堂で飯食いに行かないか?」

 休憩時間に、サッとどこかへ行こうとするカイザの腕を掴んで声をかけた。

「いえ」
「そう言うなよ。たまには上司に付き合えって。ほら記憶喪失でお前のこと忘れているだろ? 少しでも打ち解けたくてな。奢るぞ!」

 直属の上司っていう武器を堂々と使いながら、強引に誘う。
 気軽なノリでどうにか丸め込もうと思ったが、スッと手を離された。

「いえ、自分は弁当がありますので」
「……あ、そう」

 カイザはペコリと頭を下げてスタスタと一人で出て行ってしまう。
 どうにか彼との接点を増やそうと試みているも、取り付く島もない。

 可哀想な俺を見ていたトムが「代わりに俺が団長に奢られて差し上げますよ」と。その横でミフェルが「俺が慰めてあげましょうか」と。二人が俺を左右に挟み、強引に食堂に連れて行かれた。 

「カイザより俺の方が一緒にいて楽しいですよ」
「団長は俺が一番好きっスよねー」
「……早う食え」

 二人はいつの間に仲良くなったのだろうか。この前までトムが一方的にライバル視していたのに。
 謎だとトムに言えば、ミフェルがゲイでタイプが俺であることを知って和解したのだそう。
 それで、ミフェルがトムの前だというのに堂々と“慰め”発言か。……早めに諦めろよ。




 二人に昼食を奢る羽目になり不貞腐れ気味で昼寝する場所を探していると、モンスター保護室にカイザっぽい小さいシルエット。
 思わず立ち止まって、廊下から中を覗くと、モフモフの赤ちゃんモンスターを抱っこするカイザ姿。


 白いモフモフの毛に円らな瞳、小さいくちばし、太い尻尾。ちんちくりんの脚の珍獣だ。カイザも見た目は可愛い系。(いつも不機嫌な表情なので周りからは可愛いとは思われていないが)
 なんてコラボ。

 カイザのデカい手で撫でられるモンスターが羨ま……ゴホンと自分の考えに咳払いして保護室にいる彼に声をかけた。


「どうしたんだ? それ?」
「はい。外回りで動物に食べられそうになっているのを見つけました。周囲に母親はおらず育児放棄された可能性があります」
「そのようだな」

 このモンスターは成長するまで母親の背中で過ごす。
 そして通常は灰色の毛なみをしている。この子は白い毛で、毛色の違う我が子だと認識出来なかったようだ。

 カイザの腕の中で綿のような白い毛がフルフル震える。

「餌は?」
「はい、ヤギのミルクをもらってきました」

 人肌程度に温めている最中だと、お湯を張った耐熱容器にミルクの入った哺乳瓶が入れられている。

「手伝おう」
「はい」

 細いスポイトを持って、カイザからモンスターを預かる。
 モンスターはすぐには口を開かなかったが、トントンとくちばしの端をつつくと口を微かに開けた。

「団長、流石です」
「慣れだな。結構な数のモンスター面倒見てきたから」

 コクンコクンと飲み始めたモンスターにホッとしていると、カイザが俺を腕を指で撫でた。

「……なに?」

「腕、擦りむいてます。コイツ、結構前足の爪伸びていますから」

 モンスターを抱きしめる腕に一筋つぅっと赤い線。僅かな擦り傷だ。
 ただの傷か。
 ちょっといい雰囲気ににまりとする。

「そうか。お前が俺に触れたいのかと思ったよ。こんなもん、舐めときゃなお────……」
「……」


 ペロ。
 躊躇なく、カイザが俺の腕を舐めた。その唇から見える生々しくて赤い舌。相変わらず長いまつ毛。
 そして、何を思ったか、もう一度ペロリと舐めた。

「傷なんてつけたら駄目ですよ」

「……お、前」

 なんつーことしやがるんだ。
 額のペロッとする件といい、なんなんだ!?
 誘いは断られるし、なんならちょっと嫌われているような気がするのに、こういうことを平気でする……ので気持ちがつい興奮してしまうだろ。

 無意識なのか、その気分屋な振る舞いに振り回さそうだ。


「カイザ、俺と付き合わないか?」


 だからって、脈のない相手にこんなことを言うのは早まり過ぎだ。
 
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