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19.彼氏探しをやめることにした理由
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「パンが旨い」
もしゃもしゃと頬張るパンは、ミフェルからの差し入れだ。
『団長、身体が疼く時は呼んでくださいね』だなんてにこやかな笑顔付きだ。
あの野郎、人の悩みを的確に押さえて来やがって。
これ以上、変な空気にならないように、ミフェルには早番がやる掃除を代わりにやらせている。
自分で淹れたコーヒーを飲んでいると、次々と仲間が出勤してきた。
「おはようございますぅ~」
トムがトボトボとデスクに座った。昨日の浮かれポンチはどうしたのか、肩を落としてゲッソリしている。
昨日の美女とのデートは失敗に終わったのだろうと、見かねた仲間たちがポンポンとの肩を叩いた。
・水槽鍵の締め忘れでナメクジ3匹脱走。無事回収。
朝礼でカイザが俺のことを伏せた上でナメクジの件を報告した。別担当がナメクジの水槽の鍵を閉め忘れたことが分かり、口頭のみの注意だけしておく。
カイザはその間、チラリとも俺を見ない。昨日のことなど何もなかったかのようだ。
午後になると、近くの農場でモンスター被害があった報告を受け、団の何人かと共に現場に向かう。広範囲の稲作被害。大きな足跡が残っていた。その被害と足跡の大きさから冒険者ギルドに任せた方がいいと判断し依頼した。
調査団は様々な職業ギルドと連携をとっている。ギルド農場から種を譲ってもらい農夫に渡した。こういう後始末は調査団のすることではないが、持ちつ持たれつ。何かの情報があれば調査団にということだ。
忙しい中で、昨日のことは頭から吹き飛んでいたが、現場から戻ってきて、一息ついた時にカイザと視線がかち合った。
一瞬にして色々と記憶が蘇る。
「団長、お疲れ様です」
「うぉ!? おぉ、おぉ……お疲れー」
滅多に声をかけられないため、カイザの方から声をかけられると動揺する。昨日の件の礼をまだ言えていないが、人目があると話しにくい。
とりあえず団長室へと誘う事にした。
座るように促すと、彼は俺が椅子に座ったのを見てから椅子に腰をかけた。
「昨日の件だが、かなり迷惑をかけた」
「いえ。自分もその件で声をかけました。お身体大丈夫でしょうか」
「この通り大丈夫だ。……少し聞きたいのだが、仮眠室まで俺をどうやって運んだんだ?」
カイザは女性より少し骨格がしっかりしているくらいで小柄だ。
あの後、自分で歩いて仮眠室に行ったとは思えず、転がしたにしては身体が痛くなく不思議に思っていた。
カイザは椅子から立ち上がり、俺の方に近づいてくる。
どうしたのかと思っていると、彼がやや状態を曲げ俺の顔に近くなる。
ドッ……と心音が強く鳴った後、俺の身体は宙に浮いた。
「俺の種族は、力があります」
「……う、ぉ。はは。マジか」
お姫様だっこ。
カイザは自分より上にも横にもデカい相手を軽々と抱き上げた。
安定感があり、浮遊感が心配になることもない。
「このやりとりも二回目です」
「……そうか。前の俺もさぞや驚いただろうな」
「まぁ、そうですね」
カイザは俺を椅子に下ろした。まだ至近距離でいる彼は俺の額を指で撫でる。昨日と同じような距離感に汗が出た。
「額赤くなっています。どうしましたか?」
「あ、あぁ、これか。ベッド柵にぶつけたんだ」
「気を付けてください。少し失礼」
ペロリと俺の額をカイザが舐めた。
「唾液には治癒効果があります」
「……」
真顔でそれ?
目をぱちくりさせて驚いていると、「では」と部屋から出て行こうとするので、思わず彼の腕を握った。
「なんですか」
「あー……、昨日、の。お前に……恋人がいたら申し訳ないなと思って」
「……」
カイザが眉間にシワを寄せた。
返事が滞るので、胸の奥で靄がくすぶる。その時、朝ミフェルに言われたことを思い出した。
『カイザが好きなんですね』
掴んだ手が振りほどかれて、思わず身を乗り出した。
「団長が気にすることないです」
「……」
「では」
パタンと閉められた扉を見て、俺は彼氏をもう探さないことにした。
例え、そいつが現れたとしても、今の俺はカイザが気になって仕方がない。
もしゃもしゃと頬張るパンは、ミフェルからの差し入れだ。
『団長、身体が疼く時は呼んでくださいね』だなんてにこやかな笑顔付きだ。
あの野郎、人の悩みを的確に押さえて来やがって。
これ以上、変な空気にならないように、ミフェルには早番がやる掃除を代わりにやらせている。
自分で淹れたコーヒーを飲んでいると、次々と仲間が出勤してきた。
「おはようございますぅ~」
トムがトボトボとデスクに座った。昨日の浮かれポンチはどうしたのか、肩を落としてゲッソリしている。
昨日の美女とのデートは失敗に終わったのだろうと、見かねた仲間たちがポンポンとの肩を叩いた。
・水槽鍵の締め忘れでナメクジ3匹脱走。無事回収。
朝礼でカイザが俺のことを伏せた上でナメクジの件を報告した。別担当がナメクジの水槽の鍵を閉め忘れたことが分かり、口頭のみの注意だけしておく。
カイザはその間、チラリとも俺を見ない。昨日のことなど何もなかったかのようだ。
午後になると、近くの農場でモンスター被害があった報告を受け、団の何人かと共に現場に向かう。広範囲の稲作被害。大きな足跡が残っていた。その被害と足跡の大きさから冒険者ギルドに任せた方がいいと判断し依頼した。
調査団は様々な職業ギルドと連携をとっている。ギルド農場から種を譲ってもらい農夫に渡した。こういう後始末は調査団のすることではないが、持ちつ持たれつ。何かの情報があれば調査団にということだ。
忙しい中で、昨日のことは頭から吹き飛んでいたが、現場から戻ってきて、一息ついた時にカイザと視線がかち合った。
一瞬にして色々と記憶が蘇る。
「団長、お疲れ様です」
「うぉ!? おぉ、おぉ……お疲れー」
滅多に声をかけられないため、カイザの方から声をかけられると動揺する。昨日の件の礼をまだ言えていないが、人目があると話しにくい。
とりあえず団長室へと誘う事にした。
座るように促すと、彼は俺が椅子に座ったのを見てから椅子に腰をかけた。
「昨日の件だが、かなり迷惑をかけた」
「いえ。自分もその件で声をかけました。お身体大丈夫でしょうか」
「この通り大丈夫だ。……少し聞きたいのだが、仮眠室まで俺をどうやって運んだんだ?」
カイザは女性より少し骨格がしっかりしているくらいで小柄だ。
あの後、自分で歩いて仮眠室に行ったとは思えず、転がしたにしては身体が痛くなく不思議に思っていた。
カイザは椅子から立ち上がり、俺の方に近づいてくる。
どうしたのかと思っていると、彼がやや状態を曲げ俺の顔に近くなる。
ドッ……と心音が強く鳴った後、俺の身体は宙に浮いた。
「俺の種族は、力があります」
「……う、ぉ。はは。マジか」
お姫様だっこ。
カイザは自分より上にも横にもデカい相手を軽々と抱き上げた。
安定感があり、浮遊感が心配になることもない。
「このやりとりも二回目です」
「……そうか。前の俺もさぞや驚いただろうな」
「まぁ、そうですね」
カイザは俺を椅子に下ろした。まだ至近距離でいる彼は俺の額を指で撫でる。昨日と同じような距離感に汗が出た。
「額赤くなっています。どうしましたか?」
「あ、あぁ、これか。ベッド柵にぶつけたんだ」
「気を付けてください。少し失礼」
ペロリと俺の額をカイザが舐めた。
「唾液には治癒効果があります」
「……」
真顔でそれ?
目をぱちくりさせて驚いていると、「では」と部屋から出て行こうとするので、思わず彼の腕を握った。
「なんですか」
「あー……、昨日、の。お前に……恋人がいたら申し訳ないなと思って」
「……」
カイザが眉間にシワを寄せた。
返事が滞るので、胸の奥で靄がくすぶる。その時、朝ミフェルに言われたことを思い出した。
『カイザが好きなんですね』
掴んだ手が振りほどかれて、思わず身を乗り出した。
「団長が気にすることないです」
「……」
「では」
パタンと閉められた扉を見て、俺は彼氏をもう探さないことにした。
例え、そいつが現れたとしても、今の俺はカイザが気になって仕方がない。
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