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18.悶えた次の日

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 物置部屋と化している狭い仮眠室のベッドで目を覚ました。

 室内は誰もおらず、カーテンからの隙間から見える外は薄暗く夜明けの近さを感じる。ぐっすり眠っていたのだろう。
 起き上ると、ちゃんと服を着ているし身体も汚れていなかった。
 誰が親切に仮眠室まで運んでくれたのか、身体を拭いてくれたのか、それが分かる程度に記憶が残っている。

 ゴンッと目の前のベッド柵に頭を打ち付けた。
 忘れたい!

「はぁあああああ~~、なんつーことをしでかしたんだ」

 でっかい溜息と独り言を零した。
 ナメクジの催淫効果でおかしくなった俺はカイザにオナニーを見せつけ、さらに、性的行為を強要した。
 ナメクジの催淫効果とは言え、乱れに乱れてしまった。

 ──あんな……、自分が存在するなんて……っ!

 悶絶しながら、ゴンともう一度頭を打ち付けた。今度は強めだ。

 記憶よ、また消えてしまえ! と願うがそんなに都合よく消える訳もなく、仕方なく事後を確認するためベッドから起きた。

 廊下は薄暗く、静まり返っている。
 この一件でナメクジが嫌いになったが、モンスター預かり部屋に入った。水槽にはきちんと鍵。ナメクジの数も合っている。
 それから、床に変な液体が落ちていることもなかった。カイザが掃除してくれていたのだろう。

 カイザは面倒見がいい。不機嫌な顔をしていても何だかんだ助けてくれる。

「帰ったのか」
 そりゃそうだ、帰るよな。




 朝はすぐに来るだろうが、皆が出勤してくるまでは時間がかなりある。
 中断していた書類整理に戻り、そのあとはデスクに戻って調査報告を読む。
 
 寝たのに、書類を一人で読んでいると眠気が出てくる。催淫効果はもう身体から抜けきっているが、疲れが溜まっているのかもしれない。
 洗面所に向かい、バシャバシャと顔を洗った。

 さっぱりして顔を上げると、目の前の鏡に映るオッサンと後ろに壁に静かに立つミフェルの姿。
 あまりに物音がなかったため、人がいて驚いた。

「おはようございます、団長」

「ミフェル……出勤が早すぎやしないか……」


 早すぎる出勤に思わずツッコみを入れたが、言うのはそれじゃない。
 タオルでゴシッと顔を拭いた後、後ろを向いた。

「昨日はすまなかったな」
「謝る必要ありません。初めから団長は約束していなかった。俺が勝手に言っただけですよ」
「だが」


 ミフェルの表情は怒りはなかったが、笑顔もない。なにより雰囲気がいつもより少し暗い。
 普段の彼はこんなに早く出勤しないことを知っている。勤務態度は真面目だが、それ以上のことをしない。
 きっと俺と話すために来たのだろう。
 
「きちんと断わりを入れるべきだったと反省している」
 
 優柔不断な態度をとってすまないと頭を下げた。
 どちらにしても断るつもりなら聞きたくないと当たり前の反応が返って来る。

 ミフェルは困った顔で頭を掻いた。


「やっぱり俺では駄目で、カイザが好きなんですね」

「────……え? 何を……突拍子ないことを」

 俺がカイザを好き?

 考えもしなかったが、そう言われた途端、酷く動悸がし、目が泳ぐ。
 突拍子ないことだと言いながら、動揺しているのがミフェルにも悟られて「顔赤いですよ」と指摘される。


「……昨日の夜、下心ありで差し入れを持って行ったんです」
「……っ!?!?」

 昨日!? 昨日の夜!?

「み……見たのか」
「えぇ、滅茶苦茶乱れるエッチな団長がカイザにおねだりしていましたね」


 おねだり、したな……。したよ。
 あの時、確かに廊下側で物音が聞こえた。
 コイツが見ていたのか……。

「残念です。今度は俺を好きにさせるチャンスだと思っていたんですが」
「…………今度?」

 “今度は”と言う彼の一言に引っかかる。
 俺の調査によれば、ミフェルが彼氏で。
 あぁ、でも今のいままで、一度もミフェルのことを思い浮かべなかった。それは俺にとって部下以上に思っていない証ではないか。


「一つ質問するが、ミフェルは俺の彼氏ではないよな?」
「え?」

 この流れじゃ多分違うだろうなと思いつつ、もう色々見られているならと直接聞いた。
 ミフェルが驚いている。
 自分でもおかしなことを質問している自覚はある。

「団長、記憶が……」
「記憶が?」
「────あの、昨日は何故、あのようなことに?」
「あぁ……」


 実は捕獲したナメクジが水槽から抜け出して、探している最中に身体に引っ付かれるマヌケな事故を起こした。催淫効果で身体が反応した俺をカイザに処理を頼んだことを説明した。
 カイザに迷惑をかけないためにも出来るだけ淡々と事情を説明する。

「それは災難でしたね」
 靜かに報告を聞いていたミフェルだが、鼻で笑った。


「俺は彼氏じゃないですよ」
「……お、おう。そうなのか」

 彼氏じゃないとなると、ミフェルの一連の行動は片想いってことになるよな。
 こんなおっさんに片想い……不憫なと思いながら、断わりの一言を入れようとした時だ。


「彼氏が見つからないなんて、身体が可哀想ですね。俺でよければいつでも欲求を満たしてあげますよ」

「?」

 さっきまでの静かなミフェルと違って、楽しそうな彼の表情。

「いや、すまん。俺はお前のことなんとも思ってない」

「はい」

 頷いたがミフェルが俺の乳首を服の上からをツンと突っついた。昨日弄り過ぎて、いつもよりも敏感になって身体が大袈裟跳ねてしまう。

「っ!!」

「でも俺、団長のこと愛情たっぷりでイかせてあげられます。身体全部舐めて弄り倒して、それに……」

 団長、ちょっと強引にされるの好きでしょ。


 そう耳元で囁く声に、飛び上がってしまった。
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