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17.前世のツガイは俺にご執心です

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「ごめん! 翔真、昼間電話無視した!」

 勢いよく玄関ドアを開けながら謝ると、そこにいるスウェットとデニムジーンズ姿の翔真は、俺を見て申し訳なさそうな顔をした。

「いや、こっちこそごめん。突然来て」
「いいよ、なにか用事あったんだろ」

 昼間は翔真のことを見ることが出来なくて──でも、少し時間が立てば落ち着いた。それに学校と違って自分の家だからか余裕が持てる。

「……あ、よかったら家に入る?」
「突然で手土産がない」
「あは、そんなのいいよ。叔父さん今日もいないし。友達なんだし、堅苦しいのいらないって」
「……」


 暑いから飲み物でも出すよ、と言いながら翔真を家に招く。

 どうぞ、と一応客用スリッパを出したが彼は玄関に突っ立ったまま、靴も脱ごうとしない。

「?」
「聞いて欲しいことがある」

 いつもはそんなこと聞かずに質問してくるのに、どうしたのだろうか。
 それに彼の様子は、どこか緊張しているような感じがする。
 言いにくいことなのかと、こちらも身構える。その場の雰囲気がぴり……とした時、彼が口を開いた。

「今日の朝、千春も中庭にいたよな?」
「……中庭?」 

 翔真が女子に告白されていたことを言っているのだとすぐに分かった。


「──……いたっけ?」

 話題を変えたくて、「リビングに来いよ」と声をかけた。
 けれど、彼は動かない。
 どうやら、彼が話したいのは中庭のことらしく、胸に棘がチクチク刺さる。

「俺が好きな人は」
「いいよ! 聞きたくないから‼」
 
 思わず強めに声が出てしまった。

 慌てて「恋愛話とかに興味ないの知っているだろ?」と動揺したことをあやふやにする。
 でも空気は緊張したまま、翔真の表情も硬いままだ。

「悪い。デカい声を出したな」
「……」
「あ~……中庭だっけ。確かに翔真のこと見かけたけど、すぐに立ち去ったから何も聞いてないよ。それにさ翔真と俺、恋愛観とか違うからさ、聞きたくないかも」

 話を遮ったからか、彼の視線が強くなった。
 俺が木田に相談したかったように、翔真も俺に悩みを打ち明けたかったのかもしれない。
 けれど、翔真が好きな人のことなんて聞く勇気はない。多分高校生のうちは無理だ。いや、社会人になっても暫く無理。

 気まずい沈黙に居心地の悪さを感じていると、翔真が「木田が……」と呟いた。


「木田?」
「さっき木田から電話があった。千春が同性愛や出会い系についてどう思うかって聞いてきたから変だって」
「…………え、と」

 頬が引きつるのを翔真が見ている。
 俺の大したことないポーカーフェイスは、彼ならすぐ分かってしまうだろう。

 じりっと足を後ずさりした時、彼の一歩と手が伸びる。それだけで距離を詰めるには充分で俺の右手は彼に掴まれた。

「その反応まさかなのか?」
「……っ」

 またギクリと顔が強張る。黙っていても自分の反応が墓穴を掘っている。近くで見られたくなくて、その手を上に挙げて振りほどこうとしたけれど、離れない。
 右手には携帯を強く握っていたから、自分の親指が認証を長押しした。ロックが外れ、顔の横で画面がつく。

 翔真の目が俺から少し離れ携帯を見て、目を見開いた。
 だけど、彼の目が見開いたのは一瞬で、睨むような目に変わっていく。「それ」と言った声は今まで聞いたどの台詞より低かった。


「……男」
「え?」
「それ、出会い系サイトだろ」


 掴まれている自分の手の中にある携帯を見る。言い逃れようのない画面を開いていた。

 ──上半身裸の男のプロフィール画面。
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