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8.感謝の1日 前
しおりを挟む木田と一緒に帰った日の次の日。
だるい物理の授業を終えて教室を出ると、廊下ですれ違った翔真と目が合った。
不思議なことにいつ会っても“馴染み”感があって、「よっ」「おう」と互いに近づいて会話する。
クラスが離れてめっきりつるまなくなったし、連絡を取り合っているわけでもないけど、友人関係と居心地の良さは続いていた。
翔真が「最近、どう?」と大きく開いた質問をするので、大きく最近のことを伝える。
ハマっていることは陰陽師の漫画とコンビニ新発売のカレー焼きそばパン。最近見たものは──翔真と彼女……いや、それは言わんでいいか。
「昨日はバイト休みだったから、寝た。八時に寝て七時に起きた。寝る子は育つ──ていうのはデマだと思うな」
「ふは」
すると、翔真が俺の頭を高いところからヨシヨシと撫でてくる。
「やっぱり、千春は“ふくちゃん”そっくりだな」
「そんなコンパクトじゃないって。──……ふくちゃん。あのキーホルダー、凄い流行ったよね」
ふくちゃんは翔真が全国大会で優勝した時に持っていたと噂になり、学園の流行りの火付けとなった。
「ふくちゃんはちゃんと家に置いてる」
「え? まだ持っているんだ」
「うん。学校だとやたらベタベタ触ってくる奴がいてさ。嫌なんだよな、自分のものに触られるの」
その嫌と言う時の顔がしかめっ面で、本当に嫌そうなものだから首を傾げる。
俺の視線に気づいた翔真はハッとして、なんでもないと誤魔化した。
俺は手を前に出して、ニギニギと開け閉めする。
「俺もベタベタ触ってしまった気がするけど」
「それは……千春が触るのはいいんだよ」
「そう? 俺って愛されてんなぁ」
その言葉は拾われず、沈黙。
会話が滑ってしまったかと見上げたら、翔真の目元がちょっと赤くなっている。何照れているんだと次の言葉を言おうとした時……。
「あ———、んもー! すぐに二人の世界になるんだから、俺、オレェ! 愛され木田くんもいますよぉ!? 見えますか!? お二人、見えますかぁ!?」
「「すまん、いたのか」」
「いるわい!!」
いつものノリツッコミにより、言いかけた言葉は引っ込んだ。
「はは、木田は相変わらずだな」
そう言う翔真の表情はいつも通りだった。
昨日、住宅街で見かけた大人みたいな翔真じゃなく、同年代の知っている奴だ。
そのことに安心して、久しぶりに三人で昼食を摂ろうと声をかけると、翔真は少し苦笑いしたあと、「分かった」と頷いた。
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