一番うしろの席にいる奴とは、前世で一生を添い遂げました。

モト

文字の大きさ
上 下
8 / 24

8.感謝の1日 前

しおりを挟む
 
 木田と一緒に帰った日の次の日。
 だるい物理の授業を終えて教室を出ると、廊下ですれ違った翔真と目が合った。

 不思議なことにいつ会っても“馴染み”感があって、「よっ」「おう」と互いに近づいて会話する。
 クラスが離れてめっきりつるまなくなったし、連絡を取り合っているわけでもないけど、友人関係と居心地の良さは続いていた。

 翔真が「最近、どう?」と大きく開いた質問をするので、大きく最近のことを伝える。

 ハマっていることは陰陽師の漫画とコンビニ新発売のカレー焼きそばパン。最近見たものは──翔真と彼女……いや、それは言わんでいいか。

「昨日はバイト休みだったから、寝た。八時に寝て七時に起きた。寝る子は育つ──ていうのはデマだと思うな」

「ふは」

 すると、翔真が俺の頭を高いところからヨシヨシと撫でてくる。

「やっぱり、千春は“ふくちゃん”そっくりだな」

「そんなコンパクトじゃないって。──……ふくちゃん。あのキーホルダー、凄い流行ったよね」

 ふくちゃんは翔真が全国大会で優勝した時に持っていたと噂になり、学園の流行りの火付けとなった。

「ふくちゃんはちゃんと家に置いてる」

「え? まだ持っているんだ」

「うん。学校だとやたらベタベタ触ってくる奴がいてさ。嫌なんだよな、自分のものに触られるの」

 その嫌と言う時の顔がしかめっ面で、本当に嫌そうなものだから首を傾げる。
 俺の視線に気づいた翔真はハッとして、なんでもないと誤魔化した。
 俺は手を前に出して、ニギニギと開け閉めする。

「俺もベタベタ触ってしまった気がするけど」
「それは……千春が触るのはいいんだよ」
「そう? 俺って愛されてんなぁ」


 その言葉は拾われず、沈黙。
 会話が滑ってしまったかと見上げたら、翔真の目元がちょっと赤くなっている。何照れているんだと次の言葉を言おうとした時……。


「あ———、んもー! すぐに二人の世界になるんだから、俺、オレェ! 愛され木田くんもいますよぉ!? 見えますか!? お二人、見えますかぁ!?」

「「すまん、いたのか」」
「いるわい!!」

 いつものノリツッコミにより、言いかけた言葉は引っ込んだ。

「はは、木田は相変わらずだな」

 そう言う翔真の表情はいつも通りだった。
 昨日、住宅街で見かけた大人みたいな翔真じゃなく、同年代の知っている奴だ。
 そのことに安心して、久しぶりに三人で昼食を摂ろうと声をかけると、翔真は少し苦笑いしたあと、「分かった」と頷いた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

酔った俺は、美味しく頂かれてました

雪紫
BL
片思いの相手に、酔ったフリして色々聞き出す筈が、何故かキスされて……? 両片思い(?)の男子大学生達の夜。 2話完結の短編です。 長いので2話にわけました。 他サイトにも掲載しています。

騎士は魔王に囚われお客様の酒の肴に差し出される

ミクリ21
BL
騎士が酒の肴にいやらしいことをされる話。

俺は勇者のお友だち

むぎごはん
BL
俺は王都の隅にある宿屋でバイトをして暮らしている。たまに訪ねてきてくれる騎士のイゼルさんに会えることが、唯一の心の支えとなっている。 2年前、突然この世界に転移してきてしまった主人公が、頑張って生きていくお話。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

捨て猫はエリート騎士に溺愛される

135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。 目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。 お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。 京也は総受け。

屈強な男が借金のカタに後宮に入れられたら

信号六
BL
後宮のどの美女にも美少年にも手を出さなかった美青年王アズと、その対策にダメ元で連れてこられた屈強男性妃イルドルの短いお話です。屈強男性受け!以前Twitterで載せた作品の短編小説版です。 (ムーンライトノベルズ、pixivにも載せています)

悪役令息に転生したので婚約破棄を受け入れます

藍沢真啓/庚あき
BL
BLゲームの世界に転生してしまったキルシェ・セントリア公爵子息は、物語のクライマックスといえる断罪劇で逆転を狙うことにした。 それは長い時間をかけて、隠し攻略対象者や、婚約者だった第二王子ダグラスの兄であるアレクサンドリアを仲間にひきれることにした。 それでバッドエンドは逃れたはずだった。だが、キルシェに訪れたのは物語になかった展開で…… 4/2の春庭にて頒布する「悪役令息溺愛アンソロジー」の告知のために書き下ろした悪役令息ものです。

シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました

無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。 前世持ちだが結局役に立たなかった。 そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。 そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。 目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。 …あれ? 僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?

処理中です...