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3. 前世ツガイの男とはあっという間に仲良くなりました
しおりを挟む「きたきたきた、盛岡選手です! 華麗なドリブル、一人、二人抜き……そして──スラムダァアアアアアアアンクゥ!!!」
体育の時間、木田の実況を聞きながら、バスケの試合をみている。
その実況の通り、バスケ部の奴ら以上の活躍を見せているのが盛岡だ。
彼は柔道部だが、恵まれた体格と身体能力で運動は大抵何でも出来る。
たった今、ダンクを決めた盛岡を見て、女子たちの黄色い声が体育館に響き渡った。
一クラス2チームに別れた全学年対抗戦のバスケ。俺と木田のチームAは一試合目で負けたので見学だ。
暇を持て余した木田は、盛岡の実況なんかをしているってわけだ。面白がって外の奴らも木田の実況に耳を傾けている。
ピィーッと試合終了の笛が鳴る。
木田の実況のおかげかどうかは置いておいて、試合は大いに賑わった。そして、盛岡の大活躍により彼の率いるチームBは見事に優勝した。
優勝チームにわっと人だかりが出来る。俺も木田もちょっと離れたところで、盛岡に手を振った。
それに気づいた彼は、でかい図体だが、スルリと人だかりから出てこちらに近づいてくる。
「翔真、お疲れ様、大活躍だったな」
「ありがとう。千春の応援、聞こえていた」
「へへ」
笑顔を作ると盛岡のデカい手が俺の頭を撫でた。撫でられるべきはそっちなのだが、彼はよく俺の頭を撫でてくる。
あの日、……高校が始まった頃に“よろしく”と言い合ってから、割とすぐ俺らは仲良くなった。
俺は男女ともにそれほど人見知りしないタイプなんだけど、盛岡とはなんかこう、無理なく自然体でいられる。
俺らって幼馴染だっけ? くらいの馴染み方。長年一緒にいたような阿吽の呼吸。
それから、“盛岡っち”というあだ名は俺には浸透せず使わなくなった。
互いに「翔真」「千春」と名前で呼び合っている。
盛岡……いや、翔真のことを“盛岡っち”と呼ぶのはクラスの中でも木田ただ一人だ。
「はいはいはーい! ──ところでこの私、木田くんの実況はどうだった?」
「木田の実況は煩かった」
「えへ。そこはぁ、盛り上げ上手だって言ってくれよぉ~⁉」
「千春、その指どうした?」
超前向きな木戸をスルーしながら、翔真は視線を下げて、俺の右手を見た。中指に湿布を巻きつけていた。
翔真は眉間のシワを寄せて屈む。俺の身長が158センチとコンパクトだから、彼はいつも屈む。もしくは俺が見上げる。
「あぁ、突き指した」
全然活躍していないのに突き指をするどんくささが恥ずかしく、その手を後ろに隠したが、翔真に見せろと睨まれる。
「ちゃんと保健室へ行ったのか?」
「……まぁ」
「まぁ? ちゃんと診てもらえ。適当にしておくと後で長引くぞ」
保健室へ行ったところで同じような処置だろう。病院じゃないんだしレントゲンで骨の状況を確認できるわけでもない。
それに大したことがないことは自分が一番分かっている。
手を左右に振って大丈夫だと言ってみたところで、割と心配性の翔真は俺の意見を聞き入れない。
「千春、行くぞ」
保健室へ連れて行こうする翔真に左腕を掴まれる──が、ダンクを決め優勝に導き大活躍をした男が、その場を抜けるなんて周りは許さない。
「盛岡、お前、バスケ部入れよ~!」
背後からバスケ部の奴らに肩をがしっと掴まれ、そのまま、また人だかりの中心に引っ張られてしまった。
翔真が振り向いて、もの言いたげに俺を見るが、俺は手を「早ういけ」と手を振った。すると、彼は俺に何か言うのを諦めた変わり、木田にアイコンタクトする。
「んまっ。あの子ったら、すっかり千春の夫気取りよ」
「あらん、やだ。愛されちゃって? まだ結婚できないわよぉ」
ふざけ合いながら、これ以上、突き指でごねるのも面倒くさくなり、木田に付き添ってもらって保健室へ向かった。
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