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「クロ、お茶にしませんか?」

働き詰めのクロに俺は休憩の声をかけた。
クロは俺が声をかけると、絶対に作業を中断してくれる。
俺は、その山積みになった書類をみてゾッとした。休憩なんてとっている場合じゃないのかもしれないけど、クロに休憩してもらう。

「今日は、スコーンを焼きました。」
スコーンはレイに教えてもらった。とても簡単なので、俺の十八番だ。
紅茶とスコーンをクロの前に差し出す。クロは、意外と甘党なので、紅茶はいつもミルクをたっぷり入れる。
「美味しい。」
「はい。美味しいですね。」
のんびりした時間が流れる。


俺が王室の隣の部屋で過ごすようになって早2週間経つ。
王の部屋は、本当に誰も入ってこないので、しばらくして俺は顔の包帯をとった。顔の包帯をとると、クロがたまにボーっと見つめてくる事があった。
目が合うと、ハッとしたように目をそらされる。
ずっと、俺に何か言いたそうだけど、どうしたのかと聞いても誤魔化されるだけだった。

王室の隣に住むなんて心臓が持つか心配に思ったけど、クロの傍にいることはずっと念願だったから丁度よかったのかもしれない。
俺がいることは邪魔じゃないか?と念を押して聞いたけど、大丈夫そうなので、最近では、王の部屋で文字の練習をしたり、縫い物をしている。
そうして、静かに同じ空間で時間が流れるのも好きだった。
2週間しか過ごしていないけど、一緒にいることがすっかり馴染んでしまった。

俺の一日は、掃除とご飯作りとクロの書類をまとめるくらいしかしていない。
遠巻きだった使用人達は、今では「何か御用はありませんか?」「俺、ヒロ様の専属の使用人になりたいです!」とか言われるようになった。

もしかして、俺ってば、クロの愛人かと思われてる?
客観的に王室の隣に住み出したら愛人認定確実だよな。
皆から話してもらえるようになったことは嬉しいけど、なんだか複雑だ。



庭に出て、庭師に王室に飾る花をもらい受けようと相談しに庭に出た。
赤いキレイな花が目に入った。いい匂いがする。今日は、これを飾ろうか。
庭師を探していると、向こうから何かダッシュで走り込んできた。

「ヒロ―――――――――――!!!!」
猛ダッシュで走ってきたのは、柴犬…いや、ヤマダだった。
「ヤマダ!?」
そのままの勢いで抱き着いてきたから俺の身体は支え切れず、グラついてしまった。そのまま地面に落ちると思ったけど、ヤマダが器用に身体を入れ替えて、ヤマダが地面に、俺はヤマダの上に抱き着くように倒れてしまった。

「ヤ、ヤマダ!?大丈夫?」
「ヒロ!久しぶり過ぎるっ!全然会えないんだもん!」

大丈夫かという問いは完全無視で、会えない事を拗ねられる。
「重いだろ?どくよ。」
馬乗りになってしまっている身体をどけようとすると、グッと力を込められた。
「全然。重くないっ!」
「ヤ…ヤマダ。」
顔をフグみたいに膨らませる…おいおい。可愛いじゃないか。
「僕は、ヒロに会えなくて、凄く寂しかったぁ。」

きゅ~ん。と喉を鳴らされる。あ、柴犬っぽいつぶらな瞳がうるうるしている。可愛い。耳も伏せられて……あぁ、犬好きにクリティカルヒットしちゃうぜ!!

「そんな可愛い事いぅなよ~!俺も会いたかったってば~!!!」
がばっとヤマダに抱き着いてすりすりしちゃう。もうっ!!

よしよしよしと撫ぜていると、ヤマダが興奮したようにコロリと俺を寝かせて、俺の顔の包帯事ぺろぺろし出した!
「ヤ、ヤマ、ふぐっ!?んっ!?」
俺の口の中までヤマダの舌が……そうだ!ヤマダは興奮しちゃうと、キス魔になっちゃうんだっけ!?
うわー!
ヤマダの舌が口の中、ぺろぺろしてるっ!!
俺は、ヤマダの脇をペチペチ叩いた。けど、益々、止まらない。
ヤマダの顔は、なんだか、うっとりしている。……もしかして、意識とんじゃってる?
ヤマダの手があらぬことに、俺の服の中に入ってきた。
手が俺の上半身をさわさわと撫ぜる。

「ふっ!?んーんーっ!」
くすぐったいっ!?こら!ヤマダ、離してくれ。ヤマダがずっと口を離してくれないから、んーんー!としか言えない。
するっと、ヤマダの手が俺の胸の尖りを突いた。
「!?」
ビクンッと身体がびくついた。

そこは、本当にヤバい。両胸こねられると変な気持ちになってくるだろ!?しかも、ここ庭!


俺は、ヤマダの両頬を思いっきり、両手でバシンっと叩いた。
ヤマダはハッとして唇が離れた時、俺は、思いっきり声をあげた。
「ダメ!!!NO!」
ヤマダの身体がビクビクっと痙攣した。

「あ……?ふ……?あれ、お、れ?」
まだ、とろんとした顔のヤマダ。まだ、とんでいるのだろうか。
俺は、上体を起こし、急いでヤマダから離れた。

「コラ!!ダメだろう!」
ごちんとヤマダを叩いた。
すると、ようやく意識を取り戻したのか、ヤマダが顔を真っ赤にして謝ってきた。

毎度思うけど、ヤマダって暴走しちゃうタイプだよな。レイとか、俺のハグくらい余裕(?)で受け止められるぞ。レイを見習え。

「うー。だって。誘拐されたって聞いて、ヒロの事心配したんだよ?でも、この国に戻ってきても僕に全然会いに来てくれないしさ。ヒロから来てくれなきゃ、僕が王室まで会いに行けるわけないじゃん。」

あ、そういえば、俺、南王国から戻って、一度もヤマダに挨拶していない……。

「ご、ごめんっ!!」
ヤマダはまだふくれっ面をしている。完全拗ねてしまった。プイっと顔を背けられてしまった。
あ、そんな。ちょっとガチでショックなんだけど。

「お、俺が悪かったから、機嫌直してくれ!」
顔の前で両手を合わせて、ごめん!と謝る。

「じゃ、目をつぶって。」
目?
「こうか?」
目をつぶったら、ちゅっとヤマダにキスされた。
「えへ。」
ぺろりと舌を出すヤマダ。
「……。」

おい。今度は、俺が拗ねようかな。
……だけど、まぁ、ここは大人の俺が折れてやらないと。

「なぁ、ところで、ヤマダはどうして城へ?」
俺とヤマダは談話室へ移動した。
「うん。レイ経由で国の依頼を受けていて、報告しに来たんだ。」
国の依頼?レイがわざわざヤマダに?ヤマダしか出来ない事だったのだろうか?農具の貸し出し?ジャガイモ収穫祭の依頼とか?
「そろそろ、約束の時間だから行くね。これから城に来ることが多くなるだろうから、また近々会えるよ。」
ヤマダがどんな依頼を受けたのか教えてもらえないまま、ヤマダは去って行ってしまった。
最近、レイも忙しいようで、全く会えていない。
また、二人にゆっくり会えるといいんだけど。


ヤマダが来たことで気が付いたけど、本当に最近、城にこもりっぱなしだった。
二人の時間が心地よくて引きこもりになっている事に気が回らなかった。クロは視察や仕事で外出する時もあるけど、一日ずっと会議やデスクワークの時もある。

湖のお出かけ楽しかったな。行きたいけど、忙しいクロが何度も仕事を空けることは出来ないだろう。
なら、一日に数分でもいいから、庭とかの散歩を提案してみよう。

「はぁ…。」
会議から戻ってきたクロは、とても疲れていた。大きな溜息をついている。
反対派の意見が強く、会議が進行しないようだった。会議室から出てくる大臣達が口々に嫌みを言っていた。

今日、散歩は難しいな。
俺は、サイドテーブルと椅子をバルコニーに出した。
そして、お茶とお菓子を用意して、クロを誘った。
「今日は、こちらでお茶を飲みましょう。」

クロは仕事を止めて、バルコニーに置いている椅子に座った。
「なんだか、大変そうですね。」
コポコポとお茶をティーカップに注ぎながら言う。
「あぁ、だが、今回は大臣達の意見も正しくもあるから、折り合いが難しい。」
はぁっと大きなため息をついた。
珍しい。本当に大変なんだな。
王として、時には強引に判断を下さないといけない時もある。
でも、クロは話だけなら、どんな悪人の話だってちゃんと聞くだろう。そういう奴だ。

俺だったら、あんなに嫌みたらしいセクハラ大臣の話なんか聞かないもん。人の尻鷲掴みにしやがって。今思い出してもムカつく。

「ヒロは、私が休憩したい時にお茶をくれる。」
クロが真顔で言っている。何それ、俺、超能力者とかじゃないよ。
「はは。俺がお茶を飲みたいだけかもしれません。」
俺は、焼いたクッキーを差し出した。

「あぁ、だが、心地がいい。……ずっと、こうしていたい。」
クロがどこか遠くを見て呟いた。俺もクロが見つめる方向を見た。もう少しで日が暮れる。

うん。そうだな。二人一緒で。そうするのが、当然なんだよ。俺とクロは。
今日は、とても天気がよくて風が気持ちいい。
この世界にも日本のように四季があるのだろうか。それなら、こうしてバルコニーで涼しい風、寒い風、暑い風、心地よい風、色んな風をクロと一緒に感じたい。

「うん。ずっと、一緒にいましょう。」

俺が、ほほ笑むとクロは、何だか泣きそうな顔した。
「何?クロ?」
「いや。」
クロは、表情を変えて笑ってくれた。あ、違う。我慢させたいんじゃなかった。そのままのクロで受け止めたいのに。
「ヒロ、こちらに来て欲しい。」
クロが、手を差し出した。こちらって、久しぶりの膝乗りか……。
照れくさいけど、俺は黙って座った。こうしてクロとひっつくのは、王室の隣に住みだして初めてだった。
クロは、抱きしめるわけでもなく、膝に乗った俺の事をじっと見つめた。
クロの目が潤ってキレイだ。ずっと見つめていたくなる。見つめると、ドキドキするけど、全然嫌じゃない。

そっと、キレイなクロの頬に手を置いた。
「クロ。」
目を見て、鼻を見て、そして唇を見て、気が付いたら唇にキスをしていた。
俺がしたキスは、唇が触れただけだった。
今のクロは、俺に少し距離を置いている。俺はそれが嫌だった。その距離をなくす関係なんて……一つしかないじゃないか。

唇を離してクロを見た。
クロは目の下のクマですら魅力的だ。男らしい整った顔つき。

「クロ。」
俺は、もう一度クロの名前を呼んで、その目の下にキスをした。クロの身体がビクンと揺れた。

「クロ。好き。」
ずっと好きだ。初めは愛犬として、……今は、クロを一人の男として見てると思う。
クロを支えられるなら、ずっと支えたい。

「ヒロ…。」
クロが嬉しそうに笑った。そして、唇が近付いてくる。
「私もだ…。ヒロを愛している。」

満足して俺は、クロの首に腕を巻きつけた。

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