31 / 45
31
しおりを挟む
「クロ、お茶にしませんか?」
働き詰めのクロに俺は休憩の声をかけた。
クロは俺が声をかけると、絶対に作業を中断してくれる。
俺は、その山積みになった書類をみてゾッとした。休憩なんてとっている場合じゃないのかもしれないけど、クロに休憩してもらう。
「今日は、スコーンを焼きました。」
スコーンはレイに教えてもらった。とても簡単なので、俺の十八番だ。
紅茶とスコーンをクロの前に差し出す。クロは、意外と甘党なので、紅茶はいつもミルクをたっぷり入れる。
「美味しい。」
「はい。美味しいですね。」
のんびりした時間が流れる。
俺が王室の隣の部屋で過ごすようになって早2週間経つ。
王の部屋は、本当に誰も入ってこないので、しばらくして俺は顔の包帯をとった。顔の包帯をとると、クロがたまにボーっと見つめてくる事があった。
目が合うと、ハッとしたように目をそらされる。
ずっと、俺に何か言いたそうだけど、どうしたのかと聞いても誤魔化されるだけだった。
王室の隣に住むなんて心臓が持つか心配に思ったけど、クロの傍にいることはずっと念願だったから丁度よかったのかもしれない。
俺がいることは邪魔じゃないか?と念を押して聞いたけど、大丈夫そうなので、最近では、王の部屋で文字の練習をしたり、縫い物をしている。
そうして、静かに同じ空間で時間が流れるのも好きだった。
2週間しか過ごしていないけど、一緒にいることがすっかり馴染んでしまった。
俺の一日は、掃除とご飯作りとクロの書類をまとめるくらいしかしていない。
遠巻きだった使用人達は、今では「何か御用はありませんか?」「俺、ヒロ様の専属の使用人になりたいです!」とか言われるようになった。
もしかして、俺ってば、クロの愛人かと思われてる?
客観的に王室の隣に住み出したら愛人認定確実だよな。
皆から話してもらえるようになったことは嬉しいけど、なんだか複雑だ。
庭に出て、庭師に王室に飾る花をもらい受けようと相談しに庭に出た。
赤いキレイな花が目に入った。いい匂いがする。今日は、これを飾ろうか。
庭師を探していると、向こうから何かダッシュで走り込んできた。
「ヒロ―――――――――――!!!!」
猛ダッシュで走ってきたのは、柴犬…いや、ヤマダだった。
「ヤマダ!?」
そのままの勢いで抱き着いてきたから俺の身体は支え切れず、グラついてしまった。そのまま地面に落ちると思ったけど、ヤマダが器用に身体を入れ替えて、ヤマダが地面に、俺はヤマダの上に抱き着くように倒れてしまった。
「ヤ、ヤマダ!?大丈夫?」
「ヒロ!久しぶり過ぎるっ!全然会えないんだもん!」
大丈夫かという問いは完全無視で、会えない事を拗ねられる。
「重いだろ?どくよ。」
馬乗りになってしまっている身体をどけようとすると、グッと力を込められた。
「全然。重くないっ!」
「ヤ…ヤマダ。」
顔をフグみたいに膨らませる…おいおい。可愛いじゃないか。
「僕は、ヒロに会えなくて、凄く寂しかったぁ。」
きゅ~ん。と喉を鳴らされる。あ、柴犬っぽいつぶらな瞳がうるうるしている。可愛い。耳も伏せられて……あぁ、犬好きにクリティカルヒットしちゃうぜ!!
「そんな可愛い事いぅなよ~!俺も会いたかったってば~!!!」
がばっとヤマダに抱き着いてすりすりしちゃう。もうっ!!
よしよしよしと撫ぜていると、ヤマダが興奮したようにコロリと俺を寝かせて、俺の顔の包帯事ぺろぺろし出した!
「ヤ、ヤマ、ふぐっ!?んっ!?」
俺の口の中までヤマダの舌が……そうだ!ヤマダは興奮しちゃうと、キス魔になっちゃうんだっけ!?
うわー!
ヤマダの舌が口の中、ぺろぺろしてるっ!!
俺は、ヤマダの脇をペチペチ叩いた。けど、益々、止まらない。
ヤマダの顔は、なんだか、うっとりしている。……もしかして、意識とんじゃってる?
ヤマダの手があらぬことに、俺の服の中に入ってきた。
手が俺の上半身をさわさわと撫ぜる。
「ふっ!?んーんーっ!」
くすぐったいっ!?こら!ヤマダ、離してくれ。ヤマダがずっと口を離してくれないから、んーんー!としか言えない。
するっと、ヤマダの手が俺の胸の尖りを突いた。
「!?」
ビクンッと身体がびくついた。
そこは、本当にヤバい。両胸こねられると変な気持ちになってくるだろ!?しかも、ここ庭!
俺は、ヤマダの両頬を思いっきり、両手でバシンっと叩いた。
ヤマダはハッとして唇が離れた時、俺は、思いっきり声をあげた。
「ダメ!!!NO!」
ヤマダの身体がビクビクっと痙攣した。
「あ……?ふ……?あれ、お、れ?」
まだ、とろんとした顔のヤマダ。まだ、とんでいるのだろうか。
俺は、上体を起こし、急いでヤマダから離れた。
「コラ!!ダメだろう!」
ごちんとヤマダを叩いた。
すると、ようやく意識を取り戻したのか、ヤマダが顔を真っ赤にして謝ってきた。
毎度思うけど、ヤマダって暴走しちゃうタイプだよな。レイとか、俺のハグくらい余裕(?)で受け止められるぞ。レイを見習え。
「うー。だって。誘拐されたって聞いて、ヒロの事心配したんだよ?でも、この国に戻ってきても僕に全然会いに来てくれないしさ。ヒロから来てくれなきゃ、僕が王室まで会いに行けるわけないじゃん。」
あ、そういえば、俺、南王国から戻って、一度もヤマダに挨拶していない……。
「ご、ごめんっ!!」
ヤマダはまだふくれっ面をしている。完全拗ねてしまった。プイっと顔を背けられてしまった。
あ、そんな。ちょっとガチでショックなんだけど。
「お、俺が悪かったから、機嫌直してくれ!」
顔の前で両手を合わせて、ごめん!と謝る。
「じゃ、目をつぶって。」
目?
「こうか?」
目をつぶったら、ちゅっとヤマダにキスされた。
「えへ。」
ぺろりと舌を出すヤマダ。
「……。」
おい。今度は、俺が拗ねようかな。
……だけど、まぁ、ここは大人の俺が折れてやらないと。
「なぁ、ところで、ヤマダはどうして城へ?」
俺とヤマダは談話室へ移動した。
「うん。レイ経由で国の依頼を受けていて、報告しに来たんだ。」
国の依頼?レイがわざわざヤマダに?ヤマダしか出来ない事だったのだろうか?農具の貸し出し?ジャガイモ収穫祭の依頼とか?
「そろそろ、約束の時間だから行くね。これから城に来ることが多くなるだろうから、また近々会えるよ。」
ヤマダがどんな依頼を受けたのか教えてもらえないまま、ヤマダは去って行ってしまった。
最近、レイも忙しいようで、全く会えていない。
また、二人にゆっくり会えるといいんだけど。
ヤマダが来たことで気が付いたけど、本当に最近、城にこもりっぱなしだった。
二人の時間が心地よくて引きこもりになっている事に気が回らなかった。クロは視察や仕事で外出する時もあるけど、一日ずっと会議やデスクワークの時もある。
湖のお出かけ楽しかったな。行きたいけど、忙しいクロが何度も仕事を空けることは出来ないだろう。
なら、一日に数分でもいいから、庭とかの散歩を提案してみよう。
「はぁ…。」
会議から戻ってきたクロは、とても疲れていた。大きな溜息をついている。
反対派の意見が強く、会議が進行しないようだった。会議室から出てくる大臣達が口々に嫌みを言っていた。
今日、散歩は難しいな。
俺は、サイドテーブルと椅子をバルコニーに出した。
そして、お茶とお菓子を用意して、クロを誘った。
「今日は、こちらでお茶を飲みましょう。」
クロは仕事を止めて、バルコニーに置いている椅子に座った。
「なんだか、大変そうですね。」
コポコポとお茶をティーカップに注ぎながら言う。
「あぁ、だが、今回は大臣達の意見も正しくもあるから、折り合いが難しい。」
はぁっと大きなため息をついた。
珍しい。本当に大変なんだな。
王として、時には強引に判断を下さないといけない時もある。
でも、クロは話だけなら、どんな悪人の話だってちゃんと聞くだろう。そういう奴だ。
俺だったら、あんなに嫌みたらしいセクハラ大臣の話なんか聞かないもん。人の尻鷲掴みにしやがって。今思い出してもムカつく。
「ヒロは、私が休憩したい時にお茶をくれる。」
クロが真顔で言っている。何それ、俺、超能力者とかじゃないよ。
「はは。俺がお茶を飲みたいだけかもしれません。」
俺は、焼いたクッキーを差し出した。
「あぁ、だが、心地がいい。……ずっと、こうしていたい。」
クロがどこか遠くを見て呟いた。俺もクロが見つめる方向を見た。もう少しで日が暮れる。
うん。そうだな。二人一緒で。そうするのが、当然なんだよ。俺とクロは。
今日は、とても天気がよくて風が気持ちいい。
この世界にも日本のように四季があるのだろうか。それなら、こうしてバルコニーで涼しい風、寒い風、暑い風、心地よい風、色んな風をクロと一緒に感じたい。
「うん。ずっと、一緒にいましょう。」
俺が、ほほ笑むとクロは、何だか泣きそうな顔した。
「何?クロ?」
「いや。」
クロは、表情を変えて笑ってくれた。あ、違う。我慢させたいんじゃなかった。そのままのクロで受け止めたいのに。
「ヒロ、こちらに来て欲しい。」
クロが、手を差し出した。こちらって、久しぶりの膝乗りか……。
照れくさいけど、俺は黙って座った。こうしてクロとひっつくのは、王室の隣に住みだして初めてだった。
クロは、抱きしめるわけでもなく、膝に乗った俺の事をじっと見つめた。
クロの目が潤ってキレイだ。ずっと見つめていたくなる。見つめると、ドキドキするけど、全然嫌じゃない。
そっと、キレイなクロの頬に手を置いた。
「クロ。」
目を見て、鼻を見て、そして唇を見て、気が付いたら唇にキスをしていた。
俺がしたキスは、唇が触れただけだった。
今のクロは、俺に少し距離を置いている。俺はそれが嫌だった。その距離をなくす関係なんて……一つしかないじゃないか。
唇を離してクロを見た。
クロは目の下のクマですら魅力的だ。男らしい整った顔つき。
「クロ。」
俺は、もう一度クロの名前を呼んで、その目の下にキスをした。クロの身体がビクンと揺れた。
「クロ。好き。」
ずっと好きだ。初めは愛犬として、……今は、クロを一人の男として見てると思う。
クロを支えられるなら、ずっと支えたい。
「ヒロ…。」
クロが嬉しそうに笑った。そして、唇が近付いてくる。
「私もだ…。ヒロを愛している。」
満足して俺は、クロの首に腕を巻きつけた。
働き詰めのクロに俺は休憩の声をかけた。
クロは俺が声をかけると、絶対に作業を中断してくれる。
俺は、その山積みになった書類をみてゾッとした。休憩なんてとっている場合じゃないのかもしれないけど、クロに休憩してもらう。
「今日は、スコーンを焼きました。」
スコーンはレイに教えてもらった。とても簡単なので、俺の十八番だ。
紅茶とスコーンをクロの前に差し出す。クロは、意外と甘党なので、紅茶はいつもミルクをたっぷり入れる。
「美味しい。」
「はい。美味しいですね。」
のんびりした時間が流れる。
俺が王室の隣の部屋で過ごすようになって早2週間経つ。
王の部屋は、本当に誰も入ってこないので、しばらくして俺は顔の包帯をとった。顔の包帯をとると、クロがたまにボーっと見つめてくる事があった。
目が合うと、ハッとしたように目をそらされる。
ずっと、俺に何か言いたそうだけど、どうしたのかと聞いても誤魔化されるだけだった。
王室の隣に住むなんて心臓が持つか心配に思ったけど、クロの傍にいることはずっと念願だったから丁度よかったのかもしれない。
俺がいることは邪魔じゃないか?と念を押して聞いたけど、大丈夫そうなので、最近では、王の部屋で文字の練習をしたり、縫い物をしている。
そうして、静かに同じ空間で時間が流れるのも好きだった。
2週間しか過ごしていないけど、一緒にいることがすっかり馴染んでしまった。
俺の一日は、掃除とご飯作りとクロの書類をまとめるくらいしかしていない。
遠巻きだった使用人達は、今では「何か御用はありませんか?」「俺、ヒロ様の専属の使用人になりたいです!」とか言われるようになった。
もしかして、俺ってば、クロの愛人かと思われてる?
客観的に王室の隣に住み出したら愛人認定確実だよな。
皆から話してもらえるようになったことは嬉しいけど、なんだか複雑だ。
庭に出て、庭師に王室に飾る花をもらい受けようと相談しに庭に出た。
赤いキレイな花が目に入った。いい匂いがする。今日は、これを飾ろうか。
庭師を探していると、向こうから何かダッシュで走り込んできた。
「ヒロ―――――――――――!!!!」
猛ダッシュで走ってきたのは、柴犬…いや、ヤマダだった。
「ヤマダ!?」
そのままの勢いで抱き着いてきたから俺の身体は支え切れず、グラついてしまった。そのまま地面に落ちると思ったけど、ヤマダが器用に身体を入れ替えて、ヤマダが地面に、俺はヤマダの上に抱き着くように倒れてしまった。
「ヤ、ヤマダ!?大丈夫?」
「ヒロ!久しぶり過ぎるっ!全然会えないんだもん!」
大丈夫かという問いは完全無視で、会えない事を拗ねられる。
「重いだろ?どくよ。」
馬乗りになってしまっている身体をどけようとすると、グッと力を込められた。
「全然。重くないっ!」
「ヤ…ヤマダ。」
顔をフグみたいに膨らませる…おいおい。可愛いじゃないか。
「僕は、ヒロに会えなくて、凄く寂しかったぁ。」
きゅ~ん。と喉を鳴らされる。あ、柴犬っぽいつぶらな瞳がうるうるしている。可愛い。耳も伏せられて……あぁ、犬好きにクリティカルヒットしちゃうぜ!!
「そんな可愛い事いぅなよ~!俺も会いたかったってば~!!!」
がばっとヤマダに抱き着いてすりすりしちゃう。もうっ!!
よしよしよしと撫ぜていると、ヤマダが興奮したようにコロリと俺を寝かせて、俺の顔の包帯事ぺろぺろし出した!
「ヤ、ヤマ、ふぐっ!?んっ!?」
俺の口の中までヤマダの舌が……そうだ!ヤマダは興奮しちゃうと、キス魔になっちゃうんだっけ!?
うわー!
ヤマダの舌が口の中、ぺろぺろしてるっ!!
俺は、ヤマダの脇をペチペチ叩いた。けど、益々、止まらない。
ヤマダの顔は、なんだか、うっとりしている。……もしかして、意識とんじゃってる?
ヤマダの手があらぬことに、俺の服の中に入ってきた。
手が俺の上半身をさわさわと撫ぜる。
「ふっ!?んーんーっ!」
くすぐったいっ!?こら!ヤマダ、離してくれ。ヤマダがずっと口を離してくれないから、んーんー!としか言えない。
するっと、ヤマダの手が俺の胸の尖りを突いた。
「!?」
ビクンッと身体がびくついた。
そこは、本当にヤバい。両胸こねられると変な気持ちになってくるだろ!?しかも、ここ庭!
俺は、ヤマダの両頬を思いっきり、両手でバシンっと叩いた。
ヤマダはハッとして唇が離れた時、俺は、思いっきり声をあげた。
「ダメ!!!NO!」
ヤマダの身体がビクビクっと痙攣した。
「あ……?ふ……?あれ、お、れ?」
まだ、とろんとした顔のヤマダ。まだ、とんでいるのだろうか。
俺は、上体を起こし、急いでヤマダから離れた。
「コラ!!ダメだろう!」
ごちんとヤマダを叩いた。
すると、ようやく意識を取り戻したのか、ヤマダが顔を真っ赤にして謝ってきた。
毎度思うけど、ヤマダって暴走しちゃうタイプだよな。レイとか、俺のハグくらい余裕(?)で受け止められるぞ。レイを見習え。
「うー。だって。誘拐されたって聞いて、ヒロの事心配したんだよ?でも、この国に戻ってきても僕に全然会いに来てくれないしさ。ヒロから来てくれなきゃ、僕が王室まで会いに行けるわけないじゃん。」
あ、そういえば、俺、南王国から戻って、一度もヤマダに挨拶していない……。
「ご、ごめんっ!!」
ヤマダはまだふくれっ面をしている。完全拗ねてしまった。プイっと顔を背けられてしまった。
あ、そんな。ちょっとガチでショックなんだけど。
「お、俺が悪かったから、機嫌直してくれ!」
顔の前で両手を合わせて、ごめん!と謝る。
「じゃ、目をつぶって。」
目?
「こうか?」
目をつぶったら、ちゅっとヤマダにキスされた。
「えへ。」
ぺろりと舌を出すヤマダ。
「……。」
おい。今度は、俺が拗ねようかな。
……だけど、まぁ、ここは大人の俺が折れてやらないと。
「なぁ、ところで、ヤマダはどうして城へ?」
俺とヤマダは談話室へ移動した。
「うん。レイ経由で国の依頼を受けていて、報告しに来たんだ。」
国の依頼?レイがわざわざヤマダに?ヤマダしか出来ない事だったのだろうか?農具の貸し出し?ジャガイモ収穫祭の依頼とか?
「そろそろ、約束の時間だから行くね。これから城に来ることが多くなるだろうから、また近々会えるよ。」
ヤマダがどんな依頼を受けたのか教えてもらえないまま、ヤマダは去って行ってしまった。
最近、レイも忙しいようで、全く会えていない。
また、二人にゆっくり会えるといいんだけど。
ヤマダが来たことで気が付いたけど、本当に最近、城にこもりっぱなしだった。
二人の時間が心地よくて引きこもりになっている事に気が回らなかった。クロは視察や仕事で外出する時もあるけど、一日ずっと会議やデスクワークの時もある。
湖のお出かけ楽しかったな。行きたいけど、忙しいクロが何度も仕事を空けることは出来ないだろう。
なら、一日に数分でもいいから、庭とかの散歩を提案してみよう。
「はぁ…。」
会議から戻ってきたクロは、とても疲れていた。大きな溜息をついている。
反対派の意見が強く、会議が進行しないようだった。会議室から出てくる大臣達が口々に嫌みを言っていた。
今日、散歩は難しいな。
俺は、サイドテーブルと椅子をバルコニーに出した。
そして、お茶とお菓子を用意して、クロを誘った。
「今日は、こちらでお茶を飲みましょう。」
クロは仕事を止めて、バルコニーに置いている椅子に座った。
「なんだか、大変そうですね。」
コポコポとお茶をティーカップに注ぎながら言う。
「あぁ、だが、今回は大臣達の意見も正しくもあるから、折り合いが難しい。」
はぁっと大きなため息をついた。
珍しい。本当に大変なんだな。
王として、時には強引に判断を下さないといけない時もある。
でも、クロは話だけなら、どんな悪人の話だってちゃんと聞くだろう。そういう奴だ。
俺だったら、あんなに嫌みたらしいセクハラ大臣の話なんか聞かないもん。人の尻鷲掴みにしやがって。今思い出してもムカつく。
「ヒロは、私が休憩したい時にお茶をくれる。」
クロが真顔で言っている。何それ、俺、超能力者とかじゃないよ。
「はは。俺がお茶を飲みたいだけかもしれません。」
俺は、焼いたクッキーを差し出した。
「あぁ、だが、心地がいい。……ずっと、こうしていたい。」
クロがどこか遠くを見て呟いた。俺もクロが見つめる方向を見た。もう少しで日が暮れる。
うん。そうだな。二人一緒で。そうするのが、当然なんだよ。俺とクロは。
今日は、とても天気がよくて風が気持ちいい。
この世界にも日本のように四季があるのだろうか。それなら、こうしてバルコニーで涼しい風、寒い風、暑い風、心地よい風、色んな風をクロと一緒に感じたい。
「うん。ずっと、一緒にいましょう。」
俺が、ほほ笑むとクロは、何だか泣きそうな顔した。
「何?クロ?」
「いや。」
クロは、表情を変えて笑ってくれた。あ、違う。我慢させたいんじゃなかった。そのままのクロで受け止めたいのに。
「ヒロ、こちらに来て欲しい。」
クロが、手を差し出した。こちらって、久しぶりの膝乗りか……。
照れくさいけど、俺は黙って座った。こうしてクロとひっつくのは、王室の隣に住みだして初めてだった。
クロは、抱きしめるわけでもなく、膝に乗った俺の事をじっと見つめた。
クロの目が潤ってキレイだ。ずっと見つめていたくなる。見つめると、ドキドキするけど、全然嫌じゃない。
そっと、キレイなクロの頬に手を置いた。
「クロ。」
目を見て、鼻を見て、そして唇を見て、気が付いたら唇にキスをしていた。
俺がしたキスは、唇が触れただけだった。
今のクロは、俺に少し距離を置いている。俺はそれが嫌だった。その距離をなくす関係なんて……一つしかないじゃないか。
唇を離してクロを見た。
クロは目の下のクマですら魅力的だ。男らしい整った顔つき。
「クロ。」
俺は、もう一度クロの名前を呼んで、その目の下にキスをした。クロの身体がビクンと揺れた。
「クロ。好き。」
ずっと好きだ。初めは愛犬として、……今は、クロを一人の男として見てると思う。
クロを支えられるなら、ずっと支えたい。
「ヒロ…。」
クロが嬉しそうに笑った。そして、唇が近付いてくる。
「私もだ…。ヒロを愛している。」
満足して俺は、クロの首に腕を巻きつけた。
38
お気に入りに追加
2,612
あなたにおすすめの小説
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた!
どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。
そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?!
いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?!
会社員男性と、異世界獣人のお話。
※6話で完結します。さくっと読めます。
遅咲きの番は孤独な獅子の心を甘く溶かす
葉月めいこ
BL
辺境の片田舎にある育った村を離れ、王都へやって来たリトは、これまで知らなかった獣人という存在に魅せられる。
自分の住む国が獣人の国であることも知らなかったほど世情に疎いリト。
獣人には本能で惹き合う番(つがい)という伴侶がいると知る。
番を深く愛する獣人は人族よりもずっと愛情深く優しい存在だ。
国王陛下の生誕祭か近づいた頃、リトは王族獣人は生まれながらにして番が決まっているのだと初めて知った。
しかし二十年前に当時、王太子であった陛下に番が存在する証し〝番紋(つがいもん)〟が現れたと国中にお触れが出されるものの、いまもまだ名乗り出る者がいない。
陛下の番は獣人否定派の血縁ではないかと想像する国民は多い。
そんな中、友好国の王女との婚姻話が持ち上がっており、獣人の番への愛情深さを知る民は誰しも心を曇らせている。
国や国王の存在を身近に感じ始めていたリトはある日、王宮の騎士に追われているとおぼしき人物と出会う。
黄金色の瞳が美しい青年で、ローブで身を隠し姿形ははっきりとわからないものの、優しい黄金色にすっかり魅了されてしまった。
またいつか会えたらと約束してからそわそわとするほどに。
二度の邂逅をしてリトはますます彼に心惹かれるが、自身が国王陛下の番である事実を知ってしまう。
青年への未練、まったく知らない場所に身を置く不安を抱え、リトは王宮を訊ねることとなった。
自分という存在、国が抱える負の部分、国王陛下の孤独を知り、リトは自分の未来を選び取っていく。
スパダリ獅子獣人×雑草根性な純真青年
僕はもう貴方を独りぼっちにはしない。貴方を世界で一番幸せな王様にしてみせる
本編全30話
番外編4話
個人サイトそのほかにも掲載されています。
俺は好きな乙女ゲームの世界に転生してしまったらしい
綾里 ハスミ
BL
騎士のジオ = マイズナー(主人公)は、前世の記憶を思い出す。自分は、どうやら大好きな乙女ゲーム『白百合の騎士』の世界に転生してしまったらしい。そして思い出したと同時に、衝動的に最推しのルーク団長に告白してしまい……!?
ルーク団長の事が大好きな主人公と、戦争から帰って来て心に傷を抱えた年上の男の恋愛です。
王子様のご帰還です
小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。
平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。
そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。
何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!?
異世界転移 王子×王子・・・?
こちらは個人サイトからの再録になります。
十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます
野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。
得た職は冒険者ギルドの職員だった。
金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。
マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。
夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。
以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる