上 下
33 / 43

31話 眩しさ

しおりを挟む
 なんともやり切れない思いと癒やし難い心の傷を負っての帰り道。
 お互いに疲労が溜まっていたことも相まって、ほとんど言葉を交わす事はなかった。
 近くの村の宿屋で一晩を過ごし、王都アウレーに到着したのは翌日の昼のことだった。

 二人はその足でとある人物を訪ねていた。
 ルフランの言う"新しい杖の素材"の場所を教えてくれた人物らしいが、そこへ使う道はクロムにとってはもはや歩き慣れた道だったためとある可能性が浮かんだが、あえてそのことをルフランに尋ねることはしなかった。

「着いたわ」

「……あの、ここって」

「さ、入っていいわよね? ここはでもあるわけだし」

「えぇ、まぁ……」

 ルフランが足を止めたところにあったのは、やはりと言うべきか、エルミア邸だった。
 つまりクロムが今住まわせてもらっている家という事になる。
 クロムが頷くと、ルフランはやや慣れた手つきでドアを開ける。
 それに続いてクロムも中に入って行った。

「あら、クロムくんにルフランちゃん。もう帰ったの?」

「ただいま、エルミアさん」

「ただいま戻りました。

「うん、おかえり!」

「――えっ? 師匠……?」

 リビングのソファで読書をしていたエルミアが二人の存在に気づき立ち上がった。
 彼女は珍しくメガネをしており、その美貌も相まって普段よりもいくばくか知的に見える。
 しかしそれより聞き逃せない単語がルフランの口から聞こえてきたのだが……

「あっ、クロムくんにはまだ言ってなかったんだ」

「……はい。しばらくは黙っておこうと思って」

「えっと……ルフランはもしかして」

「そうよ。エルミアさんに魔法を教えてもらってるの」

(ルフランが急激に強くなった理由はそれか……)

 ルフランの言葉を聞いて、彼女が異様なまでに力を増した理由を知ったクロム。
 実際にエルミアが戦闘を行っているところを見たことはないのだが、彼女の噂ならこの街を歩いていれば至る所で耳にすることができる。
 曰く、最強の冒険者の一人だとか、千年前から生きている大魔法使いだとか、単身で竜王を討ちこの国を救った英雄だとか。
 
 どこまでが真実なのかは定かではないが、少なくともこの王都アウレーにおいては彼女を讃える銅像が立つ程尊敬されているエルフということになる。
 そんなエルミアが直々に弟子として鍛えたのであれば、ルフランのあの変わりようにも納得がいくというもの。

「それで、杖の素材は手に入れられたの?」

「はい。えっと……これです」

「――っ! これは……!!」

 ルフランがジプラレア遺跡で入手した加工済み練魂石をエルミアに手渡すと、彼女はひどく驚いた様子でそれをやや乱暴に奪い取った。
 そしてメガネを通じて睨むようにその石を眺め始めた。

「これ! 練魂石レンコンセキじゃない! こんな純度が高いものがまだ残っていたなんて……しかも加工済みじゃない! 一体どこで手に入れたの?」

「それは――」

「それは僕から説明します」

 この件についてはあまりルフランは口にしたくないだろう。
 それを察したクロムが、ある程度掻い摘んでことの経緯を話す事にした。

「――なるほど、ね。お城の地下にそんなものが隠されていたなんてね……」

 ちなみにエルミアが探してきて欲しかったのは練魂石ではなく、と呼ばれる、周囲の魔力を吸収して溜め込む性質を持つ石だったらしい。
 練魂石は練魔石が濃密かつ質の高い魔力を取り込み続けた結果変質したものであり、魔力のみならず周囲の生物の魂の力さえ取り込んでしまうほどの力を獲得している。

「でも困ったなぁ……私、練魂石の扱い方なんて知らないんだよね……」

「あ、それならこの本が多分役に立つと思います!」

「本……? あー、これ古代文字かぁ……私この文字はあんまり読めないんだよねえ……」

「僕、その文字読めるので手伝います!」

「そうなの? クロムくんすごいね! じゃあお願いしようかな!」

「はい!」

 クロムは本を手に、エルミアの元へ歩み寄った。
 フェルマが落としていったであろう、練魂石加工に関する書物。
 昨晩村に泊まった際に半分近く読んだらしいが、魔力や魔法に関する知識がほとんどないことからほとんど理解できなかったとクロムは言っていた。

「クロム……」

「頑張ってエルミアさんと一緒にルフランに似合う杖を作るので楽しみにしていてくださいね!」

「……うん、ありがと。期待してるわ」

 ルフランは精一杯の笑顔をクロムに礼を言った。
 それを見たクロムは一瞬表情を曇らせるも、彼もまたすぐに笑顔で返した。
 その後すぐ、邪魔になるといけないからと言ってルフランはエルミア邸を出て帰っていった。
 その背中を見ながらクロムは、自身の気持ちを再確認すると、ゆっくりと頷いた。

「……待ってて、ルフラン」

 一言、そう呟いた。
 その様子を見ていたエルミアはふふっ、と笑った。

(若いっていいなぁ……お姉さんちょっと嫉妬しちゃうかも)

 彼の内に宿る純粋な想い。
 今のクロムのその気持ちには、きっとまだ名前は付かないのだろうけれど、それ故の眩しさに目が眩んでしまいそうになるエルミアだった。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者、追放される ~仲間がクズばかりだったので、魔王とお茶してのんびり過ごす。戻ってこいと言われても断固拒否。~

秋鷺 照
ファンタジー
 強すぎて勇者になってしまったレッグは、パーティーを追放され、一人で魔王城へ行く。美味しいと噂の、魔族領の茶を飲むために!(ちゃんと人類も守る)

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

弓使いの成り上がり~「弓なんて役に立たない」と追放された弓使いは実は最強の狙撃手でした~

平山和人
ファンタジー
弓使いのカイトはSランクパーティー【黄金の獅子王】から、弓使いなんて役立たずと追放される。 しかし、彼らは気づいてなかった。カイトの狙撃がパーティーの危機をいくつも救った来たことに、カイトの狙撃が世界最強レベルだということに。 パーティーを追放されたカイトは自らも自覚していない狙撃で魔物を倒し、美少女から惚れられ、やがて最強の狙撃手として世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを失った【黄金の獅子王】は没落の道を歩むことになるのであった。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

勇者パーティー追放された解呪師、お迎えの死神少女とうっかりキスして最強の力に覚醒!? この力で10年前、僕のすべてを奪った犯人へ復讐します。

カズマ・ユキヒロ
ファンタジー
解呪師マモル・フジタニは追放された。 伝説の武器の封印を解いたあとで、勇者パーティーに裏切られて。 深い傷と毒で、死を待つばかりとなったマモル。 しかし。 お迎えにきた死神少女との『うっかりキス』が、マモルを変えた。 伝説の武器の封印を解いたとき、体内に取り込んでいた『いにしえの勇者パーティー』の力。 その無敵の力が異種族異性とのキスで覚醒、最強となったのだ。 一方で。 愚かな勇者たちは、魔王に呪いを受けてしまう。 死へのタイムリミットまでは、あと72時間。 マモル追放をなげいても、もう遅かった。 マモルは、手にした最強の『力』を使い。 人助けや、死神助けをしながら。 10年前、己のすべてを奪った犯人への復讐を目指す。 これは、過去の復讐に燃える男が。 死神少女とともに、失ったはずの幼なじみや妹を取り戻しながら。 結果的に世界を救ってしまう、そんな物語。

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

処理中です...