持ち主を呪い殺す妖刀と一緒に追放されたけど、何故か使いこなして最強になってしまった件

玖遠紅音

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26話 ジプラレア遺跡1

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 時は経ち、クロム達がBランク冒険者に昇格してからおよそ三月が経過したある日のこと。
 ルフランの提案により、二人は馬車を利用して普段の活動範囲を超えるとある場所を訪れていた。

「何遺跡でしたっけ、これから行くところ」

「ジプラレア遺跡よ。数千年前に栄えていたとある王国の跡地とも言われているわ」

「へぇ……なんだかちょっとワクワクしますね!」

 目的地まで直接馬車で向かうことはできないので、最寄りの村で降りてそれからは徒歩だ。
 ちなみに今日はいつもの魔物討伐依頼ではなく、調査が目的である。
 ルフランが「どうしても欲しい素材がある」と言い出したのが今回の事の発端だ。

 クロムは基本的にパーティとしての行動選択をルフランに任せ切っているので、この提案に断る理由はない。
 ちなみに最近はお互いの自己研鑽の時間を設けたいという事により、出会ったばかりの頃と比べると二人で依頼を受ける機会は少し減っていた。
 お互い師を得たことによって、より強くならんとする思いが強まっていたのだ。

 二人の現在の共通目的は最速でAランクに駆け上がること。
 そのためにはもっと力を得なければならないという言葉にはクロムも同感だった。
 そしてルフラン曰く、この遺跡には最近発見されたばかりであまり調査が進んでいないことからお宝が眠っている可能性が高いのだとか。

 一方でジプラレア遺跡は"魔境"に極めて近しい位置に存在していることから、Cランク以下の冒険者の立ち入りは禁じられている。
 こうした危険地帯の調査も冒険者の仕事の一つという訳だ。
 
 ちなみに基本報酬は魔物討伐と比べると極めて少ない。
 その代わり価値のあるお宝を発見できたらその分の利益を得ることができる。
 つまり場合によっては徒労に終わる可能性も十分にあるため、余裕があるか暇な冒険者でなければあまり好んでやりたがる人はいないらしい。

「ルフランのお目当ての素材、あるといいですね」
 
「ええ。ししょ――あたしにこの場所を教えてくれた人が言うには、そこなら新しい杖を作るのにぴったりな素材が手に入るはず! って言ってたわ」

「おぉ、ルフランの新しい杖ですか! それなら頑張って探さないとですね!」

「えぇ、頼りにしてるわ」

 そんな会話を交わしながら歩いていると、遂に目的地の遺跡が見えてきた。
 人々の手から離れて久しき、退廃の都市。
 もはやこの地は人類の生存圏に非ず。
 その巨躯には似つかないか細き道を我が物顔で闊歩かっぽする異形の魔物達。
 彼らこそこの亡国の住民なのだ。

「魔境に近いだけあって流石に荒れてるわね。奥にある大きな建物はお城かしら」

「王都アウレーのそれとはだいぶ違う造りですけどね」

「そりゃあ数千年も前の王国ともなれば、ね」

 二人は臆することなく魔物たちの領域へ突入する。
 この量の魔物を前にこそこそと隠れながら進むのは得策とは言い難い。
 だったら一層のこと正面から堂々と突き進んだ方が対処がしやすいというものだ。

「――――ッッ!!」

 早速、二人の姿を視認した大熊が、二足歩行で彼らを威嚇する。
 少しでも自分を大きく見せようと、鋭い爪を光らせながら。
 しかもただの熊ではない。左半身が蒼き結晶に侵されている。

(――あの結晶の色。まさか、ね)

 ルフランの脳裏にうっすらと浮かび上がるの魔法。
 それはルフランにとって最も美しく、完璧で、最も残酷な魔法。
 だが、これはきっと偶然だ。たまたまそういう性質を持つ生物なのだ。
 自分に言い聞かせるように杖を強く握った。

「あたしがやるわ。クロム」

「え、でも――」

「良いから見てて」

 クロムは既に妖刀を抜いていた。
 数秒後には飛び出して斬りかかっていたことだろう。
 だが、ルフランは敢えてそれを制止した。
 嫌なことを思い出させられて、少々虫の居所が悪いのだ。

「分かりました。任せます」

 クロムはその言葉に素直に従った。
 正直なところ、ルフラン一人で倒せるのか心配ではあったので、何かあった時すぐにカバーできるように刃は収めなかったが。
 だが、その心配は杞憂に終わることになる。

起爆イラプション

 一言。
 魔法起動のトリガーとなる詠唱と共に、杖の先端を向けた。
 直後、耳をつんざくほどの轟音が響く。

「す、すごい……なんか威力上がっていませんか?」

「――そう? まああたしもアナタに負けず劣らず成長してるってことよ。それと、

「そうですね。今の音で周りの奴らには気づかれちゃいましたね」

 あれだけの爆音が響けば、当然その発生源に注意が向く。
 一瞬怯んでいた魔物たちが、己を鼓舞するように雄叫びを上げながら一斉にこちらへ向かってきた。
 見たところ、こちらへ向かってきているのは最低でもCランク以上の魔物といったところ。
 ルフランは再度杖を、クロムも妖刀を構えて迎撃の準備を整える。
 
火焔を導く者パイロキネシス

 ルフランの体が、重力の枷から解き放たれ、ほんの僅かだが浮かび上がる。
 そしてその周囲には生み出されたばかりの炎が渦巻き、蛇の如く絡み付いている。
 
「えっ……」

 その様子を見て、クロムが若干顔を引き攣らせた。
 あんな技、これまで見たことがない。
 これまではクロムが攻め、ルフランがその補助をしてくれるという戦闘スタイルだったはずなのに、何故か今日の彼女は積極的に自分から前に出て戦おうとしている。
 この距離でも火傷をしてしまいそうなくらいの熱量を感じるが、クロムはその姿に見入ってしまった。

「行きなさい。炎蛇龍パイロサーペント

 ルフランの合図とともに、彼女に絡み付いていた炎の蛇たちが大量に分裂し、一斉に空を這い突き進む。
 凄まじい速度で飛び出したそれらはやがて魔物たちに絡み付き、その体を締め上げ、焼き上げた。
 だが、彼らはあくまでこれから発動する魔法のためのマーキングでしかない。
 
 ルフランは杖を高々と構え、宣言した。
 己が最も信頼する固有魔法。
 ここ数ヶ月で徹底的に磨き上げたその力を解き放つ。

「エクリクシス!」

「――――ッ!」

 直後、先ほどとは比にならないほどの轟音が連続で響き渡る。
 思わずクロムも耳を塞いでしまうほどの酷い音だ。
 それに加えて足に力を込めていなければ立っているのすら困難な衝撃波が襲い来る。

「うぐぐぐぐっっ……」

 歯を力強く噛みしめ、両腕で前方を庇うことで耐える。
 腕がじりじりと焼き付くような感覚さえ覚えながら耐えていると、やがて大量の白煙の発生と共に衝撃が収まった。

「――やった!」

 そんな中でただ一人、ルフランだけは満足そうに笑みを浮かべていた。
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