持ち主を呪い殺す妖刀と一緒に追放されたけど、何故か使いこなして最強になってしまった件

玖遠紅音

文字の大きさ
上 下
9 / 43

7話 試験を終えて

しおりを挟む
 ――おそらく私は今、死んでいた。

 ごくりと唾を飲み込み、冷や汗が滲むのを感じ取りながらヘザードは立ち上がったばかりの少年の姿を見る。
 不気味な紫の刀を鞘に納め、服に着いた土埃を払う彼には最早殺気の欠片すら残っておらず、ただの年相応の無垢な少年の顔そのものだった。
 だがあの瞬間、試験終了を告げるために彼の下へ足を運んだ瞬間、彼の眼はまるで飢えた獣の如き凶暴性を宿していた。

 もしギルドマスター殿が間に割って入らなければ、恐らく自分の体は真っ二つになっていただろう。
 自ら禁じ手としていた固有魔法――すら行使して押さえつけたというのにだ。
 
 そもそもヘザードはこの試験において本気を出す気など微塵もなく、あくまで試験官として、新人の力量を測る目的で臨んでいた。
 故に扱う魔法は一番対処のしやすい土魔法のみに限定し、その上魔法名を口にすることで敢えてクロムに警戒を促した。
 だがクロムの力量はヘザードの想像をはるかに超え、見たことのない剣技を以ってそのほぼ全てを対応して見せた。
 その結果、自分の最も得意とする固有魔法の発動を強要されるに至ったのだ。

「えっと、ありがとうございました。ヘザードさん」

 クロムは純粋な笑顔を浮かべて礼を言った。
 彼は理解しているのだろうか。あのまま事が進んでいれば自らが勝利していたという事実に。
 そう。このは自分の敗けだ。
 油断していたのだ。こんな子供が通常のの重力下で動けるはずがないと。
 自分が最初から本気を出していれば勝てた、なんて女々しい言い訳はこの世界では通用しない。
 例え新人の試験とは言え、気を抜いた結果敗けて死んだのならばそれは全て自己責任でしかないのだ。

「――はい。試験、お疲れさまでした。結果は後日、追って知らせます」

 ああ、仮面を被っていてよかった。
 今の自分の表情は恐らく酷いものであろう。
 こんな顔、到底他人には見せられない。

 クロムは再度、深く頭を下げると、客席で待つエルミアの下へと向かって行った。
 そして残った壮年の男――アルファンに対して、ヘザードが頭を下げた。

「申し訳ございません。ギルドマスター殿。油断をいたしました」

「だな。お前らしくねえ。きちんと反省しとけ」

「――はい」

 アルファンは決して慰めの言葉など口にしない。
 そんな口先だけのフォローなど何の意味をなさないことを知っているからだ。
 ヘザードはそんなアルファンの言葉をありがたいと感じていた。
 そしてアルファンはヘザードに問う。

「どうだ、アイツと実際に戦ってみて。お前は何を感じた」

「剣の技術、身のこなし共にとても高い水準にあります。しかし、恐らく対人――対魔法使いとの戦闘経験値が足りていません。ほとんど己の直感に頼って動いている様子でした」

「なるほどな。概ね俺も同じような感想だ。このまま冒険者として戦闘経験を積んでいけば化けるだろうよ」

「はい。私もそう思います」

「それじゃあ後で報告書を書いて提出しろ。それから小僧のランクを決める」

「承知いたしました」

 そう言ってアルファンはヘザードに背を向けて歩いて行った。
 ああは言っているが、結論はとっくに出ているに違いない。
 彼は間違いなくCランクスタートだ。それ以外あり得ないだろう。
 本来ならばBランクの魔物を討伐し、Aランクのヘザードとまともに戦闘が出来ている時点でBランク認定してもいいくらいだが、それは規則で出来ないためそれが適切な結果となる。
 
「まったく、末恐ろしい新人が入ってきたものです」

 いつかまた、彼が自身と同じステージまで上がってきたとき、是非とも再戦したいものだと思った。
 今度は一切の手加減なく、本気の勝負をしたい。
 そう思うヘザードだった。


 
「お疲れ様、クロムくん。体、大丈夫?」

「はい、エルミアさん。今のところは大丈夫です」

「良かったぁ……まったく、アルファンったらほんとに急なんだから。自分の仕事も山ほどあるくせに、そういうところは昔から全く変わってないんだよね」

「あはは……」

 腕を組んで怒りを示すエルミアに、クロムは苦笑いするしかなかった。
 なにせギルドに来てアルファンと顔を合わせてからわずか数時間後に試験が始まったのだ。
 本来は受付で申し込んでから数日後に行うはずなのだが、アルファンは自身の裁量でたまたま手の空いていた試験官に相応しい人間二人を用意して当日中に試験を実施することを決めてしまった。
 職権乱用とはまさにこのことだよね、とエルミアは言った。

「じゃ、行こうか。私の家、ちょっと遠いところにあるけど飛んでいけばすぐだから」

「はい、お願いします」

 怪我をしたわけではないけれど、今日は流石にちょっと疲れた。
 もともと森の中を彷徨っていた時点で体力は限界近くまで落ちていたのだ。
 朝にエルミア手製のサンドウィッチを、そして昼にギルド内の食事をご馳走してもらってある程度回復していたが、試験はどちらもなかなかハードだったので今日はもう休みたかった。

 外に出ると、自然な流れでエルミアはクロムの体を抱え、空高くへ飛びあがった。
 ちなみにこの王都アウレーは巨大なドーム状の結界で覆われていて、それが外部からの侵入を封じているらしい。
 だからエルミアは城門の手前で降りて、正規ルートで都市に入ったのだ。
 実は結界を通り抜ける技術も有しているらしいが、それは緊急事態以外では認められていないとのこと。

 そんな話を聞かされながら、エルミアの家へ向けて飛び進む。
 クロムは柔らかい感触と冷たい風を肌で感じながら、濃い一日だったなと今日を振り返った。

 今までずっと孤独だった自分が、こんなにも多くの人と関わり、喋り、戦う事が出来た。
 こういう日のことをきっと〝充実した一日〟と呼ぶのだろう。
 それもすべて、エルミアが自分を見つけてくれたからこそ起きたこと。
 奇跡に近いそんな幸運に感謝しながら、クロムはこれからの生活に思いを馳せるのだった。
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ
ファンタジー
 ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。  かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。  それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。  現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。  引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。  あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。  そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。 イラストは ジュエルセイバーFREE 様です。 URL:http://www.jewel-s.jp/

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

十年間片思いしていた幼馴染に告白したら、完膚なきまでに振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。

味のないお茶
恋愛
中学三年の終わり、俺。桜井霧都(さくらいきりと)は十年間片思いしていた幼馴染。南野凛音(みなみのりんね)に告白した。 十分以上に勝算がある。と思っていたが、 「アンタを男として見たことなんか一度も無いから無理!!」 と完膚なきまでに振られた俺。 失意のまま、十年目にして初めて一人で登校すると、小学生の頃にいじめから助けた女の子。北島永久(きたじまとわ)が目の前に居た。 彼女は俺を見て涙を流しながら、今までずっと俺のことを想い続けていたと言ってきた。 そして、 「北島永久は桜井霧都くんを心から愛しています。私をあなたの彼女にしてください」 と、告白をされ、抱きしめられる。 突然の出来事に困惑する俺。 そんな俺を追撃するように、 「な、な、な、な……何してんのよアンタ……」 「………………凛音、なんでここに」 その現場を見ていたのは、朝が苦手なはずの、置いてきた幼なじみだった。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...