持ち主を呪い殺す妖刀と一緒に追放されたけど、何故か使いこなして最強になってしまった件

玖遠紅音

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6話 冒険者の試験2

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 気が付くと、先ほどまで森林だった場所は元の試験場へと姿を戻していた。
 クロムは警戒心を解く事なく周囲の様子をうかがう。
 すると客席に座ってこちらを見守るエルミアとアルファン、そして見慣れない男性の姿があった。
 いや、よく見るとさらにその足元には試験官のカーティが転がっている。
 気絶しているが何かあったのだろうか。

「対魔物試験は終了だ。そのまま次の対人試験に移るが大丈夫か?」

「大丈夫です!」

 拡声器に乗ったアルファンの声がひびく。
 ここからアルファンがいる場所までは相当な距離があるのにこんなに大きく声が聞こえるのは何故だろうとクロムは疑問に思いつつ、こちらからもちゃんと声が届くように大きな声で返事をした。
 それを聞いたアルファンは満足そうに頷き、次の試験官に声をかけた。

「それじゃあ、頼んだぞへザード。くれぐれもやりすぎるなよ」

「承知いたしました。ギルドマスター殿」

 アルファンの声に答えたのは黒いフード付きのローブを纏った者。
 その最大の特徴は顔面の大半をおおう銀の仮面であり、フードも合わさってどこか不気味さすらある。
 黒い手袋をはめたその右手には赤色に輝く宝石を当てがった大きな杖を、対の左手首には腕輪のようなものが付けられている。
 へザードはアルファン達に一礼すると、ゆっくりとクロムの方へと歩き出した。

「……ねぇ、アルファン。気づいた? あの刀――」

「ああ。とんでもねえ量の魔力を内包してやがる。しかも相当な魔力だ。今までいろんな武器を見てきたが、あんなのは初めてだ。しかも――」

「……うん。吸収、してるよね」

 マルチスライム、ブリーゼドラゴンの二体は妖刀の一撃を受けた瞬間、その魔力を刀に奪い取られていた。
 もちろん彼らが保有する全ての魔力ではないが、刀傷によって漏れ出た魔力は全てあの刀に流れ込んでいる。
 当のクロム本人はそれを意識している様子ではなかったが、魔力の流れを感知できる二人にはその異様な光景が目に焼き付いていた。
 
「そうなれば持ち手からも魔力を吸収する力もあると考えるのが自然だ。普通の人間ならあんな刀、握った瞬間に干からびちまうだろうよ。だが小僧は平然とそれを振るって自らの武器としている。一体どういう理屈なんだろうなぁ」

「――無尽蔵の魔力を持っているか、それとも何らかの理由でクロムくんからは魔力を吸えない、ってことだよね」

「小僧はさっきの戦いで一度も魔法を使わなかった。もし無尽蔵の魔力があるならあんな危なっかしい刀なんて使わず魔法使いになったほうが圧倒的にメリットがあるはずだ。でもあいつはそうしなかった。ってことは、だ」

「……一応言っておくけど、クロムくんに手を出したら、私怒るよ?」

「はははっ、俺をどこぞの異常な研究者マッドサイエンティスト共と一緒にするな。別に小僧を捕まえてその秘密を調べ上げるなんて真似はしねえよ。我ら冒険者ギルドは強い奴を歓迎する。その正体が悪魔だろうが怪物だろうが、ルールさえ守ってくれれば誰でもいいのさ」
 
「……ならいいけど」

「ほら、そろそろ始まるぜ。あのへザード相手にどこまでやれるか楽しませてもらおうじゃねえか」

 エルミアはどこか不満げに腕を組みながらも、クロムを見守る体制をとることにした。
 一方でクロムは不気味な気配を放ちながらこちらへ歩いてくるヘザードに極限まで警戒心を強めていた。
 あと少しで刃が届くという距離。そこでヘザードは足を止めた。
 ごくりと喉を鳴らし、彼はいつ襲い掛かってくるのか予測を立てる。

「はじめまして。この度ギルドマスター殿よりクロム殿の対人試験の相手をうけたまわったヘザードと申します。冒険者ランクはA。見ての通り魔法による戦闘を得意とします。よろしくお願いいたします」

 恐ろしい外見からは予想できない極めて丁寧な挨拶を行ったヘザードに、クロムは酷く驚いた。
 どうせ先ほどのスライムの如く一方的かつ不意打ち的に攻撃を仕掛けてくるものだとばかり思っていたので、少し拍子抜けだった。
 だが、彼は自分が魔法使いであると宣言した。

 魔法使い。それはクロムにとってトラウマのような存在だ。
 脳裏にチラつく兄ギリウスの影。自慢の剣術で傷一つ付けることできなく無様に敗北し、痛めつけられた相手。
 はっきり言って、今でもどう戦っていいのかさっぱり分からない。

「この試験は先ほどのものと同様、非常に単純なもの。あなたはただ全力で私を倒しに来るだけでよろしい。加減などは不要です。全力でかかってきてください」

「分かり、ました」

 刀を握る手が震えているのを感じる。
 相手はAランク冒険者でしかも魔法使いだ。
 どんな攻撃を仕掛けてくるのか想像もつかない。
 クロムは本能的にこの人には勝てないだろうという事実を察していた。

 だが、しかし。
 ここで震えて動けない者が、どうして最強の剣士を目指せようか。
 クロムは己の体に活を入れ、刀を握る手の力を強めた。

「先手を譲ります。好きなタイミングで動いてください」

「ありがとう、ございます」

 舐められている、とは思わない。
 肌で感じ取っているのだ。このヘザードと言う人物は明らかに今の自分より格上であるという事を。
 ならばありがたく、その胸を借りようではないか。
 
至天水刀流してんすいとうりゅう水月スイゲツ

 最初に選んだのは突き技。刀を右上に構える。
 直後、最速で駆け出したクロムは、ヘザードの胸元に向かって刃を突き立てる。

「む、ローカ・ミュール!」

 ヘザードが選択した魔法は、土属性。
 瞬時に自身とクロムの間に大きな岩壁を生成し、後ろへ下がる。
 だがクロムの刃は一切勢いを緩めることなく岩壁を貫通した。
 壁に大きなひびが入り、ゴロゴロと音を立てて崩れ去る。

「くっ……」

 勢いを殺された。岩壁の魔法こそ破壊したものの、肝心のヘザードには全く刃が届いていない。
 とはいえこの程度で諦めるほどクロムの心は弱くない。
 すぐさま岩の残骸を横切りヘザードに向けて走り出す。

 同時にヘザードは、クロムに対する評価を改めていた。
 あの突き技。相当な威力がある。もしまともに受けたらただでは済まない。
 魔力を帯びた刀であれば、結界など容易く貫通し致命傷を与えてくるだろう。

「ローカ・クーゲル!」

 されどヘザードに動揺はない。
 背後に無数の土の弾丸を作り出し、クロムにめがけて打ち込んでいく。

波流なみながし!」

 しかしクロムはその速度を一切緩めることなく、弾丸の群れを掻い潜っていく。
 独特な動きで弾丸を避け、よけきれない者は剣で叩き落し、まるでそこに道があるかのように突き進む。
 自然とヘザードはして次なる魔法を仕掛けていた。
 止まらない弾丸の雨を潜り抜けるクロムの足下にヒビが入り、そこから槍先のような岩が飛び出してきた。

 しかし、それすらもクロムは対応して見せた。
 即座に地面に向かって刃を叩きつけ、その勢いで空中へと飛び出す。
 飛び出した岩は瞬時に破壊され、砂埃すなぼこりが舞った。

「ローカ・カノーネ!」
 
 ヘザードは杖を握る力を強め、上空へと杖先を向けて思い出したかのように魔法名を口にする。
 杖先に巨大な岩の塊が作り出され、とてつもない速度で撃ち出される。
 そしてその先にまるで自分から岩塊がんかいに当たりに来たかのようにクロムが姿を現した。
 
「――っ!」

 直後、紫色の光が走る。
 人を覆うほどの大きさだった岩塊は縦半分に切り裂かれ、勢いを失って落下を始めた。
 だがヘザードは即座にその岩を魔法で分割し、再度ベクトルを与えてクロムへと追い打ちをかける。
 空中に飛び出したクロムに対する、全方位からの集中攻撃。
 これは回避できない。そう確信した。
 だが、クロムは再び剣を上段に構えぐるりと体を縦に回転させた。

至天水刀流してんすいとうりゅう水車みずぐるま

 紫の剣閃が縦に一周。空中で強引に一回転するという荒業を披露したクロムは、岩を吹き飛ばし道を開く。
 そして開かれた道からヘザードめがけて急降下し、一気に距離を詰めてきた。
 あろうことか彼はしたのだ。
 どんな手段を使ったのかを想像する暇はない。ヘザードはすぐさま次なる手を打とうとするのだが――

 〝土魔法では間に合わない〟
 己の直感がそう告げていた。
 そしてそれを信用したすぐさまヘザードは杖を地面に突き刺すように下ろした。



「――えっ!?」

 直後、世界が歪んだ。
 クロムは自身の体が激しく重さを増すのを感じた。
 手が、足が、何もかもが重い。
 振り下ろそうと構えた剣がプルプルと震えるのを感じる。

 なんだこれは。こんな魔法、知らない。
 何とか着地したクロムはそのまま膝を付いてしまう。
 一方でこの状況で平然と立ったままなヘザードはクロムを見下ろし、歩き出す。

 まずい。このままでは、やられる。
 本能的に身の危険を感じ取ったクロムは、己の体に問いかける。
 動くか、と。

 かつての師匠との修行の日々を思い出す。
 全身に重りを付けてひたすら走らされ、素振りをさせられたあの時のことを。
 今になって思えば、あれは相当に辛かった。
 でも、もしかしたらその修業が役立つ日が来たのかもしれない。

 震える手に力を籠め、剣を握る。
 杖先の宝石をこちらに向け、いつでも魔法を放てると言った様子のヘザード。
 残念ながらその表情を読み取ることは出来ないが、きっと勝利を確信しているに違いない。

 ならば、狙うはカウンター。
 一瞬の隙を突き、一撃を叩き込む。
 自分の剣が魔術師にダメージを与えられないことくらい知っている。
 でも、このまま黙って負けるくらいなら、せめて獣の如くその首に噛みついて見せよう。

「では試験しゅうりょ――っ!?」

「はあああああっっ!!」
 
 身体を強引に起き上がらせ、妖刀による渾身の一刀を叩き込まんとする。
 届け、届け、届け! そう強い想いを乗せて、精一杯刀を振るったのだが――

「――悪いが強制終了だ。小僧」

 あろうことか、刃の先を止めたものがいた。
 気づけばクロムとヘザードの間にはアルファンが立ち、その赤い瞳でクロムを見下ろしていた。
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