19 / 19
第2章
2話 ネクロマンサー、神代の出来事を知る①
しおりを挟む
――かつて世界は一つだった。
人族の神アルティマは、その言葉と共に青く輝く球体を創り出した。
曰く、これが世界の最初の姿だと。
後に花咲く青き世界と名付けられるその世界に、知性を有する生物は存在しなかったという。
有翼種が天を翔け、有足種が大地を走り、水生種が大海を泳ぐ楽園。
そんな世界に彼らが降り立ったのは、今より数千年も前の事だ。
星海の果てより流れ着いた〝造物主〟の力を有する二柱の神。
それぞれ名をアルティマ、ディアブレルと言った。
彼らは自らが治める安住の地を求めて旅を続けており、この地をその終着点とする事を決めた。
その手始めとして行った事。それはこの地に適応した新生物――即ち知性を有する彼らの眷属を創り出すことだった。
だが生憎と彼らは自らの手で生物を生み出した経験がなかった。
故にアルティマとディアブレルは協力し合い、その結果彼らの外見を半分ずつ受け継いだ原初の生物――魔人が誕生した。
魔人族フォルニス。
後にも先にも彼しか存在しない種に〝族〟という呼称を用いる事が適切かは分からないが、ともかく二柱の神の眷属として生まれた彼は、厚い信仰心と強力な力を有し、新たなる世界の創造に大きく貢献したという。
その後魔人を生み出した経験から、彼らはそれぞれ人族と魔族と言う二種の生物を世界に産み落とすことになる。
そして神の子である人族と魔族はそれぞれ異なる発展を遂げることになった。
ディアブレルによって生み出された魔族は、生まれつき魔力と称される特殊な力を有し、神の如く超常現象を引き起こす魔法を扱うことができた。
一方アルティマによって生み出された人族は、特別な力こそ持たないものの、優れた知恵と繁殖能力を有していた。
魔族は強き種族故に自身が他者より優れた存在であることを望み、強者が弱者を従える実力至上主義な発展をした。
人族は弱き種族故に他者と共に歩むことを望み、似たような思想を持つもの同士で群れ集い、時には争いつつも人族同士で協力してより良い生活を送る術を模索し続けるような発展をした。
そして神々の取り決めで四つあった大陸のうち、数の多い人族がそのうちの三つで生き、残った一つを少数の魔族のものとしていた。
最初はこれでよかった。
自らが生み出した新種族の発展を天から眺めるだけで、二神は満足していた。
時に大きな壁にぶつかった子らの手助けをする事はあれど、基本はただ見ているだけ。
それでも神の子らは自然と父なる〝神〟の存在を認識し、敬うようになった。
全てが上手く進んでいた。理想的と言っていい。
しかしたった一つ、問題があったとすれば――
「――強く優れた種である我ら魔族が、たった一つの大陸を支配する程度に留まって良いのだろうか」
ある時、魔族の王――魔王と称されるに至った強者が、そう口にした。
それが始まりだ。
人族は人族の大陸で、魔族は魔族の大陸で暮らす。
その当たり前の決まりに疑問を抱く者が現れてしまった。
その答えは即ち――侵略。
幾度となく繰り返されてきた戦いの末に全魔族を統一し、その頂点に立った魔王は、新天地を求めて海へと繰り出し、人族が暮らす平穏な地へと攻め込んだのだ。
「――ディアブレルっ! どういうことだ、約束が違うぞ!」
生まれながらにして戦士としての才を持つ魔族と、何の特殊能力も持たない人族。
個体数こそ人族が圧倒的に上回るが、その戦力の差は歴然だった。
そして魔王が侵略を始めてからわずか数か月の間に、人族側の大陸の一つがあっさりと堕ちることとなる。
「約束が違う、か。確かにそうだな。だが強き者が弱きものを支配するのはごく自然な事。恨むならば人族を無力な存在として生み出してしまった貴様自身を恨め」
「……人族は何も持たずに生まれたんじゃない。ボクが敢えてその力を行使できないように生み出したんだ。平和に発展するためには暴力など不要だとね。だけど、どうやらボクの考えは甘かったようだ」
「ならばどうする。貴様自身が出向いて我が魔族の子らを滅ぼすというのか?」
「ボクはあくまできっかけを与えるだけだ。人の子たちが邪悪なる侵略に対抗するための真のチカラを……」
「ほう。面白い。その真の力とやらを解放した人族は、我が魔族を上回る力を得るというのか。ならばやってみるがいい。もっとも、私も黙って魔族の子らがやられる様を見ている気はないがな」
「……魔族の子らに働きかけて争いを収めようとは考えないのか?」
「何故私がそんなことをしなければならない? この状況は私にとって好ましいことだというのに」
「……どういう意味だよ」
「この世界に神は二体も必要ない。そうは思わないか?」
「……まさか、お前が魔族たちを扇動して――」
「くく、さあどうだろうな。ともかく私の世界を作るのに協力してくれたことは感謝しておくよ」
そう言い残してディアブレルはアルティマの下を去っていった。
気付けば魔族たちは既に二つ目の大陸に手を伸ばしており、彼らの手に落ちるのも時間の問題と言った状況だった。
人族の神アルティマは、その言葉と共に青く輝く球体を創り出した。
曰く、これが世界の最初の姿だと。
後に花咲く青き世界と名付けられるその世界に、知性を有する生物は存在しなかったという。
有翼種が天を翔け、有足種が大地を走り、水生種が大海を泳ぐ楽園。
そんな世界に彼らが降り立ったのは、今より数千年も前の事だ。
星海の果てより流れ着いた〝造物主〟の力を有する二柱の神。
それぞれ名をアルティマ、ディアブレルと言った。
彼らは自らが治める安住の地を求めて旅を続けており、この地をその終着点とする事を決めた。
その手始めとして行った事。それはこの地に適応した新生物――即ち知性を有する彼らの眷属を創り出すことだった。
だが生憎と彼らは自らの手で生物を生み出した経験がなかった。
故にアルティマとディアブレルは協力し合い、その結果彼らの外見を半分ずつ受け継いだ原初の生物――魔人が誕生した。
魔人族フォルニス。
後にも先にも彼しか存在しない種に〝族〟という呼称を用いる事が適切かは分からないが、ともかく二柱の神の眷属として生まれた彼は、厚い信仰心と強力な力を有し、新たなる世界の創造に大きく貢献したという。
その後魔人を生み出した経験から、彼らはそれぞれ人族と魔族と言う二種の生物を世界に産み落とすことになる。
そして神の子である人族と魔族はそれぞれ異なる発展を遂げることになった。
ディアブレルによって生み出された魔族は、生まれつき魔力と称される特殊な力を有し、神の如く超常現象を引き起こす魔法を扱うことができた。
一方アルティマによって生み出された人族は、特別な力こそ持たないものの、優れた知恵と繁殖能力を有していた。
魔族は強き種族故に自身が他者より優れた存在であることを望み、強者が弱者を従える実力至上主義な発展をした。
人族は弱き種族故に他者と共に歩むことを望み、似たような思想を持つもの同士で群れ集い、時には争いつつも人族同士で協力してより良い生活を送る術を模索し続けるような発展をした。
そして神々の取り決めで四つあった大陸のうち、数の多い人族がそのうちの三つで生き、残った一つを少数の魔族のものとしていた。
最初はこれでよかった。
自らが生み出した新種族の発展を天から眺めるだけで、二神は満足していた。
時に大きな壁にぶつかった子らの手助けをする事はあれど、基本はただ見ているだけ。
それでも神の子らは自然と父なる〝神〟の存在を認識し、敬うようになった。
全てが上手く進んでいた。理想的と言っていい。
しかしたった一つ、問題があったとすれば――
「――強く優れた種である我ら魔族が、たった一つの大陸を支配する程度に留まって良いのだろうか」
ある時、魔族の王――魔王と称されるに至った強者が、そう口にした。
それが始まりだ。
人族は人族の大陸で、魔族は魔族の大陸で暮らす。
その当たり前の決まりに疑問を抱く者が現れてしまった。
その答えは即ち――侵略。
幾度となく繰り返されてきた戦いの末に全魔族を統一し、その頂点に立った魔王は、新天地を求めて海へと繰り出し、人族が暮らす平穏な地へと攻め込んだのだ。
「――ディアブレルっ! どういうことだ、約束が違うぞ!」
生まれながらにして戦士としての才を持つ魔族と、何の特殊能力も持たない人族。
個体数こそ人族が圧倒的に上回るが、その戦力の差は歴然だった。
そして魔王が侵略を始めてからわずか数か月の間に、人族側の大陸の一つがあっさりと堕ちることとなる。
「約束が違う、か。確かにそうだな。だが強き者が弱きものを支配するのはごく自然な事。恨むならば人族を無力な存在として生み出してしまった貴様自身を恨め」
「……人族は何も持たずに生まれたんじゃない。ボクが敢えてその力を行使できないように生み出したんだ。平和に発展するためには暴力など不要だとね。だけど、どうやらボクの考えは甘かったようだ」
「ならばどうする。貴様自身が出向いて我が魔族の子らを滅ぼすというのか?」
「ボクはあくまできっかけを与えるだけだ。人の子たちが邪悪なる侵略に対抗するための真のチカラを……」
「ほう。面白い。その真の力とやらを解放した人族は、我が魔族を上回る力を得るというのか。ならばやってみるがいい。もっとも、私も黙って魔族の子らがやられる様を見ている気はないがな」
「……魔族の子らに働きかけて争いを収めようとは考えないのか?」
「何故私がそんなことをしなければならない? この状況は私にとって好ましいことだというのに」
「……どういう意味だよ」
「この世界に神は二体も必要ない。そうは思わないか?」
「……まさか、お前が魔族たちを扇動して――」
「くく、さあどうだろうな。ともかく私の世界を作るのに協力してくれたことは感謝しておくよ」
そう言い残してディアブレルはアルティマの下を去っていった。
気付けば魔族たちは既に二つ目の大陸に手を伸ばしており、彼らの手に落ちるのも時間の問題と言った状況だった。
0
お気に入りに追加
4,261
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(75件)
あなたにおすすめの小説
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる
千環
恋愛
第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。
なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を庇おうとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
そ、そんな同人誌的な展開が!?
そんな事したらR18指定間違いなしですね/(^o^)\
ようやくネクロマンサーらしい戦い方を使い始めましたね!
でも魔障竜みたいなやばそうな奴には通用しなさそうです……笑
魔障の危険性を理解してその対策として即研究を始めたのでしょうね。
彼がいなかったら今頃どうなっていたことか……