123 / 151
終章 三年後の未来へ
123.勇者(ヒーロー)と呼ばれし男
しおりを挟む
「先にぶつかってきたのはそっちだろうが!!」
「お前の図体がデカイのが悪いんだろ! ここは人間の街だ! 余所者だって事を弁えろ!」
「んだと!? 何のためにこんな所まで足を運んでいると思ってんだ? この街に魔力線の整備をする為に来たんだろうが! 少しは感謝してほしい物だ!」
人間の男と、魔人の男。ヒューディアルのとある街の大通りで、向かい合って口論を始める二人。二人の間にバチバチと火花が散るのが見えるような、激しい言い合いだった。
人間と魔族が条約を結んだばかりの頃でこそ、こういった喧嘩なんかは後を絶たなかったが、最近では減ってきている。……が、それも完全になくなったという訳でもない。世界中の至る所で、このような事はいつも起こっている。
もちろん、人間同士、魔族同士だって例外はない。種族など関係なく、そういった事はいつも起こる。
ただし、人間と魔族の大きな違い。……それは、力を持つか持たないか。
「じゃあ帰れよ! わざわざ人間の土地にまで来て、そんな偉そうな態度を取られてまで、その魔力がどうとか、先端技術だなんて求めてねえ!」
「こっちだって上からの指示で来てんだよ! お前にとやかく言われる筋合いは無いんだ、分かるか?」
「んなもん知らねえよ! こっちには関係のない事だ!」
「――チッ!」
魔人の男が軽く舌打ちをすると――血相を変え、人間の男へと向けて殴り掛かろうとする。右拳が男を捉えた、その時。
――二人の間に、一人の男が空から舞い降りた。
それは、このヒューディアルにおいて争い事があれば駆けつけ、解決する『勇者』と呼ばれていて。
ただし、そんな下らない肩書きなど、当の本人は気にも留めずに。
人間であり、魔人でもある、二つの種族の中立の立場に立ち、ただその行き場のなかったはずの強さを振るい、世界の平和の為に力を使う、一人の男。
『超速飛行』と『魔人の力』を併せ持つ――工藤茂春の姿だった。
「話は聞かせてもらった。……だが、暴力はダメだろう。人間と魔人の力量差を考えろ」
「――チッ……お前は……。クソ、次に会ったら覚えてろよ、人間――!」
魔人の男は、空から舞い降りた彼に恐れをなし、そそくさと逃げていってしまう。
残った人間の男に向けて、彼は言う。
「一部始終を見ていたが……ただぶつかっただけじゃないか。何故そこまで突っかかる? 互いに謝って済む話じゃないのか?」
「……じゃあ、聞くけどよ……」
彼の問いに、男は――憎悪の感情を露わにしながら、強い口調で話し始める。
「魔人が憎くないのか? あんなのと仲良しになれると、お前は本当に思っているのか? 初めの戦争で、あいつらはどれだけの人間を殺したのか、知っているのか?」
そんな男の叫びに、彼は――
「それはお互い様だろう。戦争になれば、人間も、魔族も。人間同士だろうと、魔族同士だろうと関係なく、殺し合うのが生き物って奴じゃないのか?」
彼は続けて。
「人間? 魔人? そんな下らないモノ、関係ないんだよ。種族が違おうが、力が違おうが、結局は一つの生物だ。根本的な所は何も変わらない」
――それが、かつて『肩書き』に囚われていた男が、一つの戦いを通して得た『答え』だった。
あの時、魔人たちの住む都市の外れで、ある男と剣を交えて伝えられた事を受け継ぎ、今度は自分が伝えていく番なんだと。
……人間の男は、その言葉を聞き――黙り込んでしまう。
彼は、Sランクスキルという強大な力、そして魔人としての絶大な力の使い道を二度、見誤ってきた。
しかし、彼がもう力の使い道を見誤ることはない。……長い旅、幾多の戦いを経て、彼は見つけたのだ。その身に余る、力の使い道を。
……この世界の平和を守るのに、この力を使おうと。――守るものを見つけたのだ。
「さて、俺はもう行く。……もちろん、俺の考えを強制しようとは思っちゃいない。納得するならすれば良いし、自分を曲げたくないなら好きにしろ」
それだけ言い残すと、彼……通称『勇者』は再び空へと飛んでいってしまう。
「お前の図体がデカイのが悪いんだろ! ここは人間の街だ! 余所者だって事を弁えろ!」
「んだと!? 何のためにこんな所まで足を運んでいると思ってんだ? この街に魔力線の整備をする為に来たんだろうが! 少しは感謝してほしい物だ!」
人間の男と、魔人の男。ヒューディアルのとある街の大通りで、向かい合って口論を始める二人。二人の間にバチバチと火花が散るのが見えるような、激しい言い合いだった。
人間と魔族が条約を結んだばかりの頃でこそ、こういった喧嘩なんかは後を絶たなかったが、最近では減ってきている。……が、それも完全になくなったという訳でもない。世界中の至る所で、このような事はいつも起こっている。
もちろん、人間同士、魔族同士だって例外はない。種族など関係なく、そういった事はいつも起こる。
ただし、人間と魔族の大きな違い。……それは、力を持つか持たないか。
「じゃあ帰れよ! わざわざ人間の土地にまで来て、そんな偉そうな態度を取られてまで、その魔力がどうとか、先端技術だなんて求めてねえ!」
「こっちだって上からの指示で来てんだよ! お前にとやかく言われる筋合いは無いんだ、分かるか?」
「んなもん知らねえよ! こっちには関係のない事だ!」
「――チッ!」
魔人の男が軽く舌打ちをすると――血相を変え、人間の男へと向けて殴り掛かろうとする。右拳が男を捉えた、その時。
――二人の間に、一人の男が空から舞い降りた。
それは、このヒューディアルにおいて争い事があれば駆けつけ、解決する『勇者』と呼ばれていて。
ただし、そんな下らない肩書きなど、当の本人は気にも留めずに。
人間であり、魔人でもある、二つの種族の中立の立場に立ち、ただその行き場のなかったはずの強さを振るい、世界の平和の為に力を使う、一人の男。
『超速飛行』と『魔人の力』を併せ持つ――工藤茂春の姿だった。
「話は聞かせてもらった。……だが、暴力はダメだろう。人間と魔人の力量差を考えろ」
「――チッ……お前は……。クソ、次に会ったら覚えてろよ、人間――!」
魔人の男は、空から舞い降りた彼に恐れをなし、そそくさと逃げていってしまう。
残った人間の男に向けて、彼は言う。
「一部始終を見ていたが……ただぶつかっただけじゃないか。何故そこまで突っかかる? 互いに謝って済む話じゃないのか?」
「……じゃあ、聞くけどよ……」
彼の問いに、男は――憎悪の感情を露わにしながら、強い口調で話し始める。
「魔人が憎くないのか? あんなのと仲良しになれると、お前は本当に思っているのか? 初めの戦争で、あいつらはどれだけの人間を殺したのか、知っているのか?」
そんな男の叫びに、彼は――
「それはお互い様だろう。戦争になれば、人間も、魔族も。人間同士だろうと、魔族同士だろうと関係なく、殺し合うのが生き物って奴じゃないのか?」
彼は続けて。
「人間? 魔人? そんな下らないモノ、関係ないんだよ。種族が違おうが、力が違おうが、結局は一つの生物だ。根本的な所は何も変わらない」
――それが、かつて『肩書き』に囚われていた男が、一つの戦いを通して得た『答え』だった。
あの時、魔人たちの住む都市の外れで、ある男と剣を交えて伝えられた事を受け継ぎ、今度は自分が伝えていく番なんだと。
……人間の男は、その言葉を聞き――黙り込んでしまう。
彼は、Sランクスキルという強大な力、そして魔人としての絶大な力の使い道を二度、見誤ってきた。
しかし、彼がもう力の使い道を見誤ることはない。……長い旅、幾多の戦いを経て、彼は見つけたのだ。その身に余る、力の使い道を。
……この世界の平和を守るのに、この力を使おうと。――守るものを見つけたのだ。
「さて、俺はもう行く。……もちろん、俺の考えを強制しようとは思っちゃいない。納得するならすれば良いし、自分を曲げたくないなら好きにしろ」
それだけ言い残すと、彼……通称『勇者』は再び空へと飛んでいってしまう。
0
お気に入りに追加
457
あなたにおすすめの小説
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!
桜井正宗
ファンタジー
辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。
そんな努力もついに報われる日が。
ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。
日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。
仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。
※HOTランキング1位ありがとうございます!
※ファンタジー7位ありがとうございます!
『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。
晴行
ファンタジー
ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。
ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します
かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。
追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。
恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。
それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。
やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。
鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。
※小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる