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終章 三年後の未来へ

123.勇者(ヒーロー)と呼ばれし男

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「先にぶつかってきたのはそっちだろうが!!」

「お前の図体がデカイのが悪いんだろ! ここは人間の街だ! 余所者だって事を弁えろ!」

「んだと!? 何のためにこんな所まで足を運んでいると思ってんだ? この街に魔力線の整備をする為に来たんだろうが! 少しは感謝してほしい物だ!」

 人間の男と、魔人の男。ヒューディアルのとある街の大通りで、向かい合って口論を始める二人。二人の間にバチバチと火花が散るのが見えるような、激しい言い合いだった。

 人間と魔族が条約を結んだばかりの頃でこそ、こういった喧嘩なんかは後を絶たなかったが、最近では減ってきている。……が、それも完全になくなったという訳でもない。世界中の至る所で、このような事はいつも起こっている。

 もちろん、人間同士、魔族同士だって例外はない。種族など関係なく、そういった事はいつも起こる。

 ただし、人間と魔族の大きな違い。……それは、力を持つか持たないか。

「じゃあ帰れよ! わざわざ人間の土地にまで来て、そんな偉そうな態度を取られてまで、その魔力がどうとか、先端技術だなんて求めてねえ!」

「こっちだって上からの指示で来てんだよ! お前にとやかく言われる筋合いは無いんだ、分かるか?」

「んなもん知らねえよ! こっちには関係のない事だ!」

「――チッ!」

 魔人の男が軽く舌打ちをすると――血相を変え、人間の男へと向けて殴り掛かろうとする。右拳が男を捉えた、その時。


 ――二人の間に、一人の男が空から舞い降りた。


 それは、このヒューディアルにおいて争い事があれば駆けつけ、解決する『勇者ヒーロー』と呼ばれていて。

 ただし、そんな下らない肩書きなど、当の本人は気にも留めずに。

 人間であり、魔人でもある、二つの種族の中立の立場に立ち、ただその行き場のなかったはずの強さを振るい、世界の平和の為に力を使う、一人の男。

『超速飛行』と『魔人の力』を併せ持つ――工藤茂春の姿だった。

「話は聞かせてもらった。……だが、暴力はダメだろう。人間と魔人の力量差を考えろ」

「――チッ……お前は……。クソ、次に会ったら覚えてろよ、人間――!」

 魔人の男は、空から舞い降りた彼に恐れをなし、そそくさと逃げていってしまう。

 残った人間の男に向けて、彼は言う。

「一部始終を見ていたが……ただぶつかっただけじゃないか。何故そこまで突っかかる? 互いに謝って済む話じゃないのか?」

「……じゃあ、聞くけどよ……」

 彼の問いに、男は――憎悪の感情を露わにしながら、強い口調で話し始める。

「魔人が憎くないのか? あんなのと仲良しになれると、お前は本当に思っているのか? 初めの戦争で、あいつらはどれだけの人間を殺したのか、知っているのか?」

 そんな男の叫びに、彼は――

「それはお互い様だろう。戦争になれば、人間も、魔族も。人間同士だろうと、魔族同士だろうと関係なく、殺し合うのが生き物って奴じゃないのか?」

 彼は続けて。

「人間? 魔人? そんな下らないモノ、関係ないんだよ。種族が違おうが、力が違おうが、結局は一つの生物だ。根本的な所は何も変わらない」

 ――それが、かつて『肩書き』に囚われていた男が、一つの戦いを通して得た『答え』だった。

 あの時、魔人たちの住む都市の外れで、ある男と剣を交えて伝えられた事を受け継ぎ、今度は自分が伝えていく番なんだと。

 ……人間の男は、その言葉を聞き――黙り込んでしまう。


 彼は、Sランクスキルという強大な力、そして魔人としての絶大な力の使い道を二度、見誤ってきた。

 しかし、彼がもう力の使い道を見誤ることはない。……長い旅、幾多の戦いを経て、彼は見つけたのだ。その身に余る、力の使い道を。

 ……この世界の平和を守るのに、この力を使おうと。――守るものを見つけたのだ。

「さて、俺はもう行く。……もちろん、俺の考えを強制しようとは思っちゃいない。納得するならすれば良いし、自分を曲げたくないなら好きにしろ」

 それだけ言い残すと、彼……通称『勇者ヒーロー』は再び空へと飛んでいってしまう。
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