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第六章 第三次・召喚勇者
95.分裂し、再び一つに
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「……梅屋君は?」
「妹さんに用事があるから少し遅れるってよ。……ほら、噂をすれば」
作戦会議の後、遅れて俺はリディエ前線基地の建物の外へとやってきた。そこには、十数人の人たちが集まっていた。
――二年四組。クラス全員が一緒に召喚され、その日から一度も全員が揃う事が無かった、そんなクラス。
そして今も、全員が揃う事は無かった。激しい戦いの中、数多くの散っていった仲間がいて、今では半分ほどの人数になってしまった。
しかし、その意志を受け継ぎ、今も戦い続ける合わせて十五人は、一人欠ける事もなく今、ここに集結した。
再び全員が揃うと、誰もが思っていなかったはず。そんな奇跡のような光景がこうして実現したのは、さまざまな偶然が重なって起こった事なのか、はたまた必然だったのか。
「すまない。遅れてしまった」
「これで全員ね……」
そう言いながら、クラスのまとめ役である水橋明日香が、皆が集まる中心へと一つの手提げバッグを置いた。
そこには、さまざまな長さ、色、形の剣に、防具の一部分などがぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。
「……これは私たちに想いを託して去った皆の『証』」
それは、戦いの中で死んでいった二年四組のクラスメートが残した遺品であった。彼女は一人残らず、彼らが確かに存在した、戦った『証』を拾っていたのだ。
その生々しい『証』を見た俺は――確かに、この世界に来る前も、来た後も。自ら関わりを断ち、せいぜい名前と顔くらいは知っている、そんな相手だったとしても、喪失感を覚えてしまう。
ただ。結局、それは俺の中だけの話で、彼らは違ったかもしれない。
現に、追い出されようとする俺に、水橋は手を差し伸べてくれた。自身の強がりで、そんな好意も蹴ってしまった訳だが、それは彼女に対してだけではなく、二年四組の全員に対して言えるのではないか。
もし、俺が初めから人を信じる事が出来ていれば。そんな些細なことで、未来が変わっていたとすれば。……俺は、後悔の念に押しつぶされそうになる。
「ここに集まってもらったのは、再び迫る戦いを前にして、私たち二年四組も一つにならないといけない、そう思ったからよ。そして、今ここに二年四組は集結した。……つまり、なんて言うのかしら……一つの『区切り』として、この場を設けたの」
その意味は、なんとなくでも全員が感じていた事だろう。
バラバラになったクラスが、再び一つへと交わるきっかけ。入学式とか、そんな式典……とまではいかなくとも、そんなイメージだろう。
「だから、これといって話すことも、する事も考えていないんだけど……」
無計画に困る水橋に、工藤が立ち上がると――
「……俺に、この場を貸して欲しい」
そう言って、彼は前へと出てくる。一息置いて、彼は口を開く。
「みんなと顔を合わせた時にも言った事ではあるんだが……俺は、このスキルに酔っていた。自分が『主人公』だと思っていた。でも、俺は梅屋に気付かされた。自分の間違いに、過ちに。そして俺は自ら壊したこのクラスに戻ってきてしまった。……すぐに受け入れてくれるなんて思っちゃいない。だから行動で示そうと思う。……本当に、申し訳ない」
場に沈黙が流れるが、一人の男子が口を開く。
「確かに工藤君は、この世界に来てから人を見下したり、色々してたけど。……でも、右も左も分からないこの世界で、みんなを引っ張っていく工藤君は確かにクラスの支えになってたと思う」
その男子の言葉で、その場に賛同の、あたたかな空気が流れた。
彼は、グランスレイフにいる時からの目標……それを今、達成しようとしていた。クラスを一つにして、彼もまた戻りたいと――。
しかし、それは単なる通過点の目標に過ぎない。彼の中には、また新たな目標が芽生えているだろう。――これ以上、誰も不幸にならない為に、戦う事を。
「妹さんに用事があるから少し遅れるってよ。……ほら、噂をすれば」
作戦会議の後、遅れて俺はリディエ前線基地の建物の外へとやってきた。そこには、十数人の人たちが集まっていた。
――二年四組。クラス全員が一緒に召喚され、その日から一度も全員が揃う事が無かった、そんなクラス。
そして今も、全員が揃う事は無かった。激しい戦いの中、数多くの散っていった仲間がいて、今では半分ほどの人数になってしまった。
しかし、その意志を受け継ぎ、今も戦い続ける合わせて十五人は、一人欠ける事もなく今、ここに集結した。
再び全員が揃うと、誰もが思っていなかったはず。そんな奇跡のような光景がこうして実現したのは、さまざまな偶然が重なって起こった事なのか、はたまた必然だったのか。
「すまない。遅れてしまった」
「これで全員ね……」
そう言いながら、クラスのまとめ役である水橋明日香が、皆が集まる中心へと一つの手提げバッグを置いた。
そこには、さまざまな長さ、色、形の剣に、防具の一部分などがぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。
「……これは私たちに想いを託して去った皆の『証』」
それは、戦いの中で死んでいった二年四組のクラスメートが残した遺品であった。彼女は一人残らず、彼らが確かに存在した、戦った『証』を拾っていたのだ。
その生々しい『証』を見た俺は――確かに、この世界に来る前も、来た後も。自ら関わりを断ち、せいぜい名前と顔くらいは知っている、そんな相手だったとしても、喪失感を覚えてしまう。
ただ。結局、それは俺の中だけの話で、彼らは違ったかもしれない。
現に、追い出されようとする俺に、水橋は手を差し伸べてくれた。自身の強がりで、そんな好意も蹴ってしまった訳だが、それは彼女に対してだけではなく、二年四組の全員に対して言えるのではないか。
もし、俺が初めから人を信じる事が出来ていれば。そんな些細なことで、未来が変わっていたとすれば。……俺は、後悔の念に押しつぶされそうになる。
「ここに集まってもらったのは、再び迫る戦いを前にして、私たち二年四組も一つにならないといけない、そう思ったからよ。そして、今ここに二年四組は集結した。……つまり、なんて言うのかしら……一つの『区切り』として、この場を設けたの」
その意味は、なんとなくでも全員が感じていた事だろう。
バラバラになったクラスが、再び一つへと交わるきっかけ。入学式とか、そんな式典……とまではいかなくとも、そんなイメージだろう。
「だから、これといって話すことも、する事も考えていないんだけど……」
無計画に困る水橋に、工藤が立ち上がると――
「……俺に、この場を貸して欲しい」
そう言って、彼は前へと出てくる。一息置いて、彼は口を開く。
「みんなと顔を合わせた時にも言った事ではあるんだが……俺は、このスキルに酔っていた。自分が『主人公』だと思っていた。でも、俺は梅屋に気付かされた。自分の間違いに、過ちに。そして俺は自ら壊したこのクラスに戻ってきてしまった。……すぐに受け入れてくれるなんて思っちゃいない。だから行動で示そうと思う。……本当に、申し訳ない」
場に沈黙が流れるが、一人の男子が口を開く。
「確かに工藤君は、この世界に来てから人を見下したり、色々してたけど。……でも、右も左も分からないこの世界で、みんなを引っ張っていく工藤君は確かにクラスの支えになってたと思う」
その男子の言葉で、その場に賛同の、あたたかな空気が流れた。
彼は、グランスレイフにいる時からの目標……それを今、達成しようとしていた。クラスを一つにして、彼もまた戻りたいと――。
しかし、それは単なる通過点の目標に過ぎない。彼の中には、また新たな目標が芽生えているだろう。――これ以上、誰も不幸にならない為に、戦う事を。
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