上 下
21 / 151
第二章 中立都市・クリディア

21.リエメラの街

しおりを挟む
 俺と唯葉、そしてクリディアのギルドマスター、ウィッツさんの三人は、街の中で借りた馬車小屋に馬車を停める。

「宿は昨日のうちに予約してあるからね。まだ時間はあるし、二人で買い物にでも行ったらどうかな」

 ……という訳で、ドルニアの首都ほどではないが、かなり栄えているこの街……『リエメラ』で、唯葉と二人でショッピングへ出かけることにした。

 妹と二人でこうして買い物なんて、前の世界ではすることも無かったかもな。


 ***


「お兄ちゃん、これ、どうかな?」

「可愛いな。……似合ってるよ」

 緑色と白色の、優しい色合いをしたフリルのついている服を着て、試着室から出てくる唯葉。

 俺が褒めると……さらに何着も服を持って、再び試着室へとこもってしまった。

 俺は、ドルニアで色々と買い揃えた時に、素朴で普通な、動きやすい服を買っておいたのでこれ以上はいらない。

 しかし、唯葉は未だに中学の制服しか持っていなかったので、良い機会だし唯葉の服も選びに来たのだった。


 この異世界でもお洒落は活発なようで、多種多様で様々な服がある。……それにしても。

「どうかな、お兄ちゃん!」

 ……それはないだろう、妹よ。

 紫色のローブを纏って、ローブの中は赤いインナーで、長さが足らずにヘソを出している(サイズは合っているらしく、そういう物らしい)。

 下は黒いミニスカートで、ニーソックスを履いている。……って、ただのコスプレじゃねえか。


「……可愛い、けども。それはどうなんだ……?」

「えー? そりゃあ、日本じゃコスプレみたいだけどさ、この世界だったら普通のファッションだよー?」

 そういうものなのか? 確かにこの世界じゃそうなのかもしれないが……。まさかこんな所まで来て、妹のコスプレ姿を見ることになるなんて……。


 結局、コスプレ魔法使いセットと最初に着たマトモな服と、その他諸々を買って店を出た。


 ***


 俺の使っていた剣も、かなり乱暴な使い方をしていたせいか、刃こぼれしてきている。

 防具は大丈夫そうではあるし、そもそも最近は魔物と戦う機会もなかったので全然使っていなく……それに村長から譲ってもらった防具だし、これからも大切に使っていきたいので、防具は買わなくても良さそうだ。


 そして肝心の、唯葉の装備はというと……。

 俺の剣よりもさらに短く、そして軽い。俺の剣を持った後に唯葉の剣を持つと、まるでオモチャに感じてしまうほどだ。

 ……無理もない。唯葉は、普通の女の子なのだから。しかし、今の唯葉ならば選べる剣も幅広いだろう。

 そして防具だが……正直、ステータスが軒並み高い俺と唯葉には、今のところ防具はいらないんじゃないかと思う。

 あの魔人みたいな強敵相手なら必要かもしれないが、今のところはそんな敵と戦う予定はないんだし。並の魔物の攻撃くらいなら、多分俺たちはびくともしない。

 ……唯葉への、味方弱化による効果が不安ではあるのだが、そもそも唯葉自体レベルの差がある今はともかく、レベルを上げれば俺なんかすぐに越してしまうほどの高いステータスを持っている。

 正確なステータスの下がり幅は分からないので、はっきりとは言えないが……大体、味方弱化を受けてようやく俺と並ぶほどかもしれない。

 それなら、いっそのこと防具を外して、その分動きやすくしたほうが良いと思い……今回は剣だけを買い替えることにした。

 防具は……仕事の前金を貰ってからでも遅くはないだろう。

 俺も唯葉も、最初の頃よりも圧倒的にステータスが高くなっているので、今回はリーチが長く、重い剣を選ぶ。

 唯葉は、俺のスキルのせいでステータスが下がってしまう事を考慮して、俺よりも少し短く、少し軽いものを選んだ。

 ……とは言っても、普通の成人男性が使う平均的な剣で、女性がこれほどの物を持つのは珍しいらしいのだが。


「……お兄ちゃん、お金は大丈夫?」

 唯葉が、心配そうに俺の財布を覗き込んでくる。

 その心配通り、かなり高い部類の剣を二本買ったので、かなりの金額が吹き飛んでいった。……初日には五枚あった小金貨が、ついに一枚になってしまった。しかし、

「大丈夫。どれくらいかは分からないけど、お金は入るんだし。それに、小金貨一枚あればしばらくは困らないだろ」

 残り一枚にはなったものの、それでもまだ財布には余裕があるというのだから、小金貨一枚の重みを改めてひしひしと感じさせられる。
 

 ***


「色々見れて楽しかったねー」

「そうだなー。……もっとゆっくり見たかったけど、そろそろウィッツさんの所に戻らないと」
 
 ……こうして、リエメラでの買い物を終えた俺たちは、すっかり暗くなってしまったので、ウィッツさんの待っている宿屋へと向かうことにした。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

腐った伯爵家を捨てて 戦姫の副団長はじめます~溢れる魔力とホムンクルス貸しますか? 高いですよ?~

薄味メロン
ファンタジー
領地には魔物が溢れ、没落を待つばかり。 【伯爵家に逆らった罪で、共に滅びろ】 そんな未来を回避するために、悪役だった男が奮闘する物語。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...