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第1章 事件の始まり
1話 事件発覚と被害者編1
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私は栄にある職場のfight‐mensという分店で家庭教師のアルバイトをしている。其処は高岳駅まで歩いて十五分。高岳駅から桜通線の久屋大通駅まで行き、徒歩で栄駅まで合計十一分。さらに栄駅から西に十、十五分ほど歩いた場所に私の職場はある。
私は急いていた。私が担当する教え子の中学生の舩木ひろこさんに教える科目が国語・数学の二科目だけだったのが、先月から英語も加わって。毎週月・水・金の3回教える事になり、授業の準備を入念にしていたら、いつも利用する電車の乗車時間を過ぎていたのだ。当然、天気予報を確認する暇などなく傘を差せずに、高岳駅まで向かう私の頬を細雨が叩いて跳ねて。この雨の滴に気付いて見上げた空に案の定灰色の雲が連なっていた。
早速高岳駅から桜通線の久屋大通駅まで乗り継いだ私。背に筆記具や簡易充電器などを入れたナップサックを背負って。
通り雨で濡れた身体をぶるぶる震わせて、身体の芯を冷やした私は乗り継ぐ前に久屋大通駅に設置された公衆トイレに用を足すべく駆け込んだ。
私は、はあっと長く息を吐きズボンの股下のチャックをビーっと下げると小便器に向けて黄ばんだ尿を放水した。ようやく貯まった尿を出せたのだ。私は気分を良くしてズボンのチャックを上げた。
──むっ?
私は先ほど用を足し終えたはずだった。なのに……、今度は便意を感じてトイレの個室に駆け込む。
──っ!!
私は便意を感じつつズボンの上から臀部に鎮座する穴を抑えて、四つあるトイレの個室を開けようとする。一つ目、開かない。二つ目、開かない……。
全て空いていない……だと?
私には満足に確認する余裕がなく、軽く目視で此処の個室は全て壊れている為か開かないらしい、と判断していた。下腹部から臀部の穴にかけて、私の便意が最高潮に達しようとする時に事件が起きた。
──ああぁぁー。
「時既に遅し」とはこの事を指して言う言葉だと理解するに容易であった。……そう、私のボクサーパンツの中からぷーんっと不快な臭いを放っていた。
──やらかした。間に合わなかった……か。
仕方ない、まだ誰にも悟られて居ない。ここのトイレが無人である事が幸いであった。
私は急いでその場でズボンごとパンツを脱いで、脱いだズボンをもう一度履いた。
私は誰も居ない場所であるにも拘わらず、誰かに聞こえるようなやけに大きな独り言を呟いた。私には替えの下着など無い。
「仕方ない。仕方ない」
私は無理なモノは無理だと開き直って心に決めた。このままパンツを履かずに仕事に赴くのだと。
この重大な決意を実行に移そうと、ナップサックの中を漁り、さほど大きくないコンビニのレジ袋を取り出し、汚れたパンツの臭いが漏れないように密封した時に、四つある個室の内、奥から二つ目の個室から何やら血生ぐさい臭いがするのに気付いた。
──あれ? こんな所で血生臭い匂い? 気になるなぁ!
糞尿を垂らして一時は気の動転してた時とは、打って変わって、不本意でありながらも自身のぶちまけた汚物の処理を済ませて、普段通りの冷静さを取り戻した私は、ゆっくりと臭いの元を確認するべく近付いた。
私が扉を開けようとすると、扉がギギーっと独りでに開きだした。私は目を見開いたまま驚愕した。其処に……、腹から出血した痕の見られる中肉中背の四十代ぐらいの男性の遺体が、個室の壁面や床面を鮮血に染めて、動かざる個室の利用者として、雪崩れ込むように個室の出口に顔を出した。──死者からの伝言? でもあるのだろうか。この状況を飲み込めないでいる私は呆然と、この沈黙を貫く個室の利用者をまじまじと観察して固まった。
※※※被害者編
「祐川君。この書類を二十四日の会議迄にまとめておいてくれ」
「分かりました。尼野部長」
この祐川という男は伏見工業に勤める、至って普通の中肉中背のサラリーマン。そこそこの業務成績を上げており、社内からの人望は決して高くは無いが、上司として人望のある尼野部長に可愛いがられている為に、周囲の目には、祐川に対する妬みが込められていた。
「出来ました! 尼野部長」
「でかしたぞ! じゃあ、この書類を持ってお得意先の矢沢工業迄届けておくれ」
「分かりました」
祐川は書類を持っていく為に黒川駅から電車に乗り、久屋大通駅を下りて久屋大通駅周辺のアクセスの良い立地に面した場所を目指した。そこが矢沢工業である。
お得意先には祐川は決して初めて訪れる訳ではないが、物分かりが悪く自宅周辺の地理すら危うい。その為、矢沢工業のある久屋大通駅に着いてから小一時間ほど迷っていた。
散々迷った末に約束の三時より十五分手前になってお得意先に「遅れます、必ず書類はお届けしますので」そう入電した。迷った時に来た道を辿って云々という言葉があるように、来た道を辿って久屋大通駅に戻ってきた。焦りが募りイライラするのを抑えるべく、煙草を咥えてぷかぷか煙をふかして落ち着かせようとした。
祐川にとって煙草は精神安定剤のようである。いつも何かミスしたり遅刻するような時には仕事を抜け出して会社の喫煙所や公衆トイレの側で煙草をふかしている。
今日も又例外ではなく、久屋大通駅に設置された公衆トイレの側で、誰も居ない事や遅刻の連絡を済ませてある事を良い事に、ゆっくりと気持ちを落ち着かせて煙草の煙を口から吐いていた。
私は急いていた。私が担当する教え子の中学生の舩木ひろこさんに教える科目が国語・数学の二科目だけだったのが、先月から英語も加わって。毎週月・水・金の3回教える事になり、授業の準備を入念にしていたら、いつも利用する電車の乗車時間を過ぎていたのだ。当然、天気予報を確認する暇などなく傘を差せずに、高岳駅まで向かう私の頬を細雨が叩いて跳ねて。この雨の滴に気付いて見上げた空に案の定灰色の雲が連なっていた。
早速高岳駅から桜通線の久屋大通駅まで乗り継いだ私。背に筆記具や簡易充電器などを入れたナップサックを背負って。
通り雨で濡れた身体をぶるぶる震わせて、身体の芯を冷やした私は乗り継ぐ前に久屋大通駅に設置された公衆トイレに用を足すべく駆け込んだ。
私は、はあっと長く息を吐きズボンの股下のチャックをビーっと下げると小便器に向けて黄ばんだ尿を放水した。ようやく貯まった尿を出せたのだ。私は気分を良くしてズボンのチャックを上げた。
──むっ?
私は先ほど用を足し終えたはずだった。なのに……、今度は便意を感じてトイレの個室に駆け込む。
──っ!!
私は便意を感じつつズボンの上から臀部に鎮座する穴を抑えて、四つあるトイレの個室を開けようとする。一つ目、開かない。二つ目、開かない……。
全て空いていない……だと?
私には満足に確認する余裕がなく、軽く目視で此処の個室は全て壊れている為か開かないらしい、と判断していた。下腹部から臀部の穴にかけて、私の便意が最高潮に達しようとする時に事件が起きた。
──ああぁぁー。
「時既に遅し」とはこの事を指して言う言葉だと理解するに容易であった。……そう、私のボクサーパンツの中からぷーんっと不快な臭いを放っていた。
──やらかした。間に合わなかった……か。
仕方ない、まだ誰にも悟られて居ない。ここのトイレが無人である事が幸いであった。
私は急いでその場でズボンごとパンツを脱いで、脱いだズボンをもう一度履いた。
私は誰も居ない場所であるにも拘わらず、誰かに聞こえるようなやけに大きな独り言を呟いた。私には替えの下着など無い。
「仕方ない。仕方ない」
私は無理なモノは無理だと開き直って心に決めた。このままパンツを履かずに仕事に赴くのだと。
この重大な決意を実行に移そうと、ナップサックの中を漁り、さほど大きくないコンビニのレジ袋を取り出し、汚れたパンツの臭いが漏れないように密封した時に、四つある個室の内、奥から二つ目の個室から何やら血生ぐさい臭いがするのに気付いた。
──あれ? こんな所で血生臭い匂い? 気になるなぁ!
糞尿を垂らして一時は気の動転してた時とは、打って変わって、不本意でありながらも自身のぶちまけた汚物の処理を済ませて、普段通りの冷静さを取り戻した私は、ゆっくりと臭いの元を確認するべく近付いた。
私が扉を開けようとすると、扉がギギーっと独りでに開きだした。私は目を見開いたまま驚愕した。其処に……、腹から出血した痕の見られる中肉中背の四十代ぐらいの男性の遺体が、個室の壁面や床面を鮮血に染めて、動かざる個室の利用者として、雪崩れ込むように個室の出口に顔を出した。──死者からの伝言? でもあるのだろうか。この状況を飲み込めないでいる私は呆然と、この沈黙を貫く個室の利用者をまじまじと観察して固まった。
※※※被害者編
「祐川君。この書類を二十四日の会議迄にまとめておいてくれ」
「分かりました。尼野部長」
この祐川という男は伏見工業に勤める、至って普通の中肉中背のサラリーマン。そこそこの業務成績を上げており、社内からの人望は決して高くは無いが、上司として人望のある尼野部長に可愛いがられている為に、周囲の目には、祐川に対する妬みが込められていた。
「出来ました! 尼野部長」
「でかしたぞ! じゃあ、この書類を持ってお得意先の矢沢工業迄届けておくれ」
「分かりました」
祐川は書類を持っていく為に黒川駅から電車に乗り、久屋大通駅を下りて久屋大通駅周辺のアクセスの良い立地に面した場所を目指した。そこが矢沢工業である。
お得意先には祐川は決して初めて訪れる訳ではないが、物分かりが悪く自宅周辺の地理すら危うい。その為、矢沢工業のある久屋大通駅に着いてから小一時間ほど迷っていた。
散々迷った末に約束の三時より十五分手前になってお得意先に「遅れます、必ず書類はお届けしますので」そう入電した。迷った時に来た道を辿って云々という言葉があるように、来た道を辿って久屋大通駅に戻ってきた。焦りが募りイライラするのを抑えるべく、煙草を咥えてぷかぷか煙をふかして落ち着かせようとした。
祐川にとって煙草は精神安定剤のようである。いつも何かミスしたり遅刻するような時には仕事を抜け出して会社の喫煙所や公衆トイレの側で煙草をふかしている。
今日も又例外ではなく、久屋大通駅に設置された公衆トイレの側で、誰も居ない事や遅刻の連絡を済ませてある事を良い事に、ゆっくりと気持ちを落ち着かせて煙草の煙を口から吐いていた。
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