世界は妖しく嗤う【リメイク前】

明智風龍

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2章 学校編

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「うん、俺も乗るよ」
 
 笠井も橋口も僕の誘いに“乗った”。
 噂の真実などどうでも良い。
 肝心なのは、なおざりにしてしまった担任のノートPCの解除だ。
 それ以外は考えなくて良い。
 
「とりあえずさ、先生が戻る前に片付けない?」「そうだな」
「それが良い」
 
 これで会話の流れの主導権は僕が完全に掌握した。
 二人のマンパワーを駆使することができる。
 僕は二人によし、やろっか、と再度声をかけて一時シャットダウンさせた先生のノートPCを二人が見つめるなか、再起動させる。
 画面が明るくなったと思いきや、パスワードの解除を要求する通知が表示された。
 来た、これが、問題のパスワードだ。
 二人も注意深くPCの画面を見つめる。
 僕が仰々しくパスワードと思わしき文字の羅列を打ち込んでいく。
 当然、ダメだ。
 適当にパスワードを打ち込むからパスワードは解除とはならない。
 
「少し考えたい」
 
 それとなく言ってみる。
 二人に考えて貰わないと解除とはいかない。
 
「ん、ならば貸してみろ。ここは俺と笠井でやってみるから」
「……任せた……」
 
 橋口も笠井もキーボードと画面とを交互ににらめっこする。
 
「些細な情報で良いから欲しい……」
 
 三人のなかで気の強い方である橋口がぐうの音をあげた。
 情報……それも些細な情報。
 手がかりになりそうなもの……。
 僕の手がぎゅっと握りしめられるのに合わせて、紙がくしゃくしゃになる──
 
 紙? そうだ! メモがあったじゃないか! 
 何で忘れてたんだよ!
 
「二人とも、使えるかわからないがこれを」
「助かるよ」
「サンキューな」   
 
 先生の打鍵する手元をしっかりと残したメモが二人に行き渡った。
 そして、僕はあらかたのメモを書いた当時の様子を二人に明かした。 
 
 メモを整理するとこのような具合だ。
 
 ◆メモ◇
 笹野先生のノートPCのパスワードを解く必要がある。
 「と、ち、O、み、N、あ、ろ、2」のキーを打鍵していた先生のタイピングの手元をメモしたということ。
 さらにいえば、10文字分のパスワードである。
 
 ◇◆◇◆◇◆◇◆
 
 ここまでは僕の把握している情報だ。
 さらに飛躍した考えをもたないと答えはたどり着けない──そう考えが煮詰まって頭が固くなるのを感じていると、二人は思わぬ反応を示した。
 
「必要なのは──“笹野先生”のノートPCの“パスワード”なんだよな?」
「うん、そうだと思う」
 
 橋口は”笹野先生”と“パスワード”を強調して確認を求めてきた。
 橋口につられて、笠井も続いた。
 
「先生のキーボード操作の手元を見たんでしょ?」「そう」 
「ならさ、先生が打鍵した『と、ち、O、み、N、あ、ろ、2』のキーは、そのキーに書かれたアルファベッドや数字として、そのまま答えたら良いんじゃないかな?」
「どうして?」

 二人が急に閃いたように話し出すのに、僕はというと、明瞭な回答に結び付く考えがもてないから、もどかしい。
 だけど、自分の質問は充分に届かなかったようだ。
 
「ごめん、詳しく聞かせて欲しい」
 
「つまりだ、結論から話せば、『と、ち、O、み、N、あ、ろ、2』のキーはそれぞれ『s、a、n、o、3、アンダーバー、2』になる──」
 
 笠井の言葉に続くように橋口も、
 
「さらにいえば、10文字のパスワード。もっとよくいえば、これは“笹野”先生の所有物について考えている。ならば──」
 
 これならば、わかりそうな気がしなくもないな、と納得のいく説明におおお~、という感嘆の声が漏れでた。
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