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2章 学校編
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しおりを挟む二人がこんな時間になってまで自習室に来た理由が気になるとこ。
僕が、いい加減早く教えろよな、といわんばかりに大きくため息をつくと、元クラスメートの橋口が口を開いた。
「それで、来た理由なんだが、忘れ物してな」
「ああ、忘れ物。別に明日で良くない?」
少し女子高生のようなノリで即答で話してしまった。
明日取りに来たら良いって思うほど、自分は期限を先延ばしにする癖がある。
「明日じゃ、アカンよ」
「そうだよ、明日にしたら、提出期限間に合わなくなって成績に響くかもしれないし」
相変わらずの生真面目さだな、二人は。
僕なんて適当に済ませてるのに、たぶん二人には“適当”なんて言葉は存在しないんだろう。
まぁ、とにかく僕のことをうまく話からそらせてるなら問題はなさそうだな。
「それで、悠基。お前こそ、何してたんだ?」
「あ、 あぁ。僕が? ここで?」
「そ、お前が、ここで」
参ったなぁ。
なんて言葉にしたらよいか。
うまくそらせてなかった……。
「そ、相談だよ」
「なんの?」
「なかなか人に話さないお前が?」
「そ」
ふぅーん、という興味なさげな返答が返ってきた。
橋口め。さんざん聞いておいて、急に興味失せやがって。
ま、良いけどね。
興味が僕からそれたなら。
ホッと胸を撫で下ろして、一呼吸した矢先、僕は少し考え事をしていたから、反応に遅れて、うつむきがちな顔を覗くようにして「ねぇ、これは? ねぇ!」と繰り返し笠井が話しかけてくる。
机の上におかれているそれは、笹野先生のものだよ、とすぐさまいいたかったけど、僕は言い淀(よど)んだ。
だって、それは、僕がいじったままの状態で放置されていたから。
それに、パスワード解除を試した痕跡が消えずに残っていたから、なんて言い逃れしたらよいか。
うまい言い訳のひとつや二つは考えないと、ここにいる二人だけでなく先生に伝わって知られてしまう、パスワード解除をためしていた事実を。
思案に暮れた。
カンマ1、2秒の時間すら惜しく感じるほど、事態は切迫していた。
ない脳みそをフル回転させて、考える。
考えろ、考えろ、うまい言い訳はあるはずだ。
会話に少し間が空いたけど、妙案を思い付いた。
「それがな、笹野先生に悩みの相談事してたら、先生が離席しちゃったからさ、戻るかなー? って思って待ってたのよ。そしたら──」
「それで?」
「先生を待ったまんま、時間が経って、先生が戻らないからさ、先生のPCの中身を覗こうと思って」
「なんでまた、そんなことするん?」
良いぞ、良いぞ。
話に食いついてきた。
このまま二人をうまくごまかせるかも。
「それがさ、笹野先生ってあまりよくわからないひとじゃん? だから、気になったんよね。実は笹野先生……AVでもPCから観てるんじゃないか? ってね」
場が笑いに包まれた。
「ばっかじゃねーの」
「橋口の言うとおりだと思う」
「そうか?」
確かに、僕の話をそのまま真に受けたら、バカな話だ。
だけど、そうじゃない。
それにうまく誤魔化せたし。
万歳といったところだろう。
「んで、先生がAV観ていたって証拠。でてきたんか?」
「それがなー、パスワード解除に手間取ってできてなくて……ちょうどその最中に誰か近づいてくる声がしたから、急いでPC閉じたとこ」
「そしたら、俺ら二人が忘れ物取りにきたと」
「そういうこと」
「そうだなぁ、どうする? バカなこいつの話、面白そうだから、先生にチクらずに乗ってみないか? な、笠井」
「そうだね。面白そうだから、乗ってみても良いかも」
こうして、なぜか僕、笠井、橋口の3人で笹野先生のノートPCの中身を覗くことになった。
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