25 / 33
2章 学校編
21
しおりを挟む二人がこんな時間になってまで自習室に来た理由が気になるとこ。
僕が、いい加減早く教えろよな、といわんばかりに大きくため息をつくと、元クラスメートの橋口が口を開いた。
「それで、来た理由なんだが、忘れ物してな」
「ああ、忘れ物。別に明日で良くない?」
少し女子高生のようなノリで即答で話してしまった。
明日取りに来たら良いって思うほど、自分は期限を先延ばしにする癖がある。
「明日じゃ、アカンよ」
「そうだよ、明日にしたら、提出期限間に合わなくなって成績に響くかもしれないし」
相変わらずの生真面目さだな、二人は。
僕なんて適当に済ませてるのに、たぶん二人には“適当”なんて言葉は存在しないんだろう。
まぁ、とにかく僕のことをうまく話からそらせてるなら問題はなさそうだな。
「それで、悠基。お前こそ、何してたんだ?」
「あ、 あぁ。僕が? ここで?」
「そ、お前が、ここで」
参ったなぁ。
なんて言葉にしたらよいか。
うまくそらせてなかった……。
「そ、相談だよ」
「なんの?」
「なかなか人に話さないお前が?」
「そ」
ふぅーん、という興味なさげな返答が返ってきた。
橋口め。さんざん聞いておいて、急に興味失せやがって。
ま、良いけどね。
興味が僕からそれたなら。
ホッと胸を撫で下ろして、一呼吸した矢先、僕は少し考え事をしていたから、反応に遅れて、うつむきがちな顔を覗くようにして「ねぇ、これは? ねぇ!」と繰り返し笠井が話しかけてくる。
机の上におかれているそれは、笹野先生のものだよ、とすぐさまいいたかったけど、僕は言い淀(よど)んだ。
だって、それは、僕がいじったままの状態で放置されていたから。
それに、パスワード解除を試した痕跡が消えずに残っていたから、なんて言い逃れしたらよいか。
うまい言い訳のひとつや二つは考えないと、ここにいる二人だけでなく先生に伝わって知られてしまう、パスワード解除をためしていた事実を。
思案に暮れた。
カンマ1、2秒の時間すら惜しく感じるほど、事態は切迫していた。
ない脳みそをフル回転させて、考える。
考えろ、考えろ、うまい言い訳はあるはずだ。
会話に少し間が空いたけど、妙案を思い付いた。
「それがな、笹野先生に悩みの相談事してたら、先生が離席しちゃったからさ、戻るかなー? って思って待ってたのよ。そしたら──」
「それで?」
「先生を待ったまんま、時間が経って、先生が戻らないからさ、先生のPCの中身を覗こうと思って」
「なんでまた、そんなことするん?」
良いぞ、良いぞ。
話に食いついてきた。
このまま二人をうまくごまかせるかも。
「それがさ、笹野先生ってあまりよくわからないひとじゃん? だから、気になったんよね。実は笹野先生……AVでもPCから観てるんじゃないか? ってね」
場が笑いに包まれた。
「ばっかじゃねーの」
「橋口の言うとおりだと思う」
「そうか?」
確かに、僕の話をそのまま真に受けたら、バカな話だ。
だけど、そうじゃない。
それにうまく誤魔化せたし。
万歳といったところだろう。
「んで、先生がAV観ていたって証拠。でてきたんか?」
「それがなー、パスワード解除に手間取ってできてなくて……ちょうどその最中に誰か近づいてくる声がしたから、急いでPC閉じたとこ」
「そしたら、俺ら二人が忘れ物取りにきたと」
「そういうこと」
「そうだなぁ、どうする? バカなこいつの話、面白そうだから、先生にチクらずに乗ってみないか? な、笠井」
「そうだね。面白そうだから、乗ってみても良いかも」
こうして、なぜか僕、笠井、橋口の3人で笹野先生のノートPCの中身を覗くことになった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
『量子の檻 -永遠の観測者-』
葉羽
ミステリー
【あらすじ】 天才高校生の神藤葉羽は、ある日、量子物理学者・霧島誠一教授の不可解な死亡事件に巻き込まれる。完全密室で発見された教授の遺体。そして、研究所に残された謎めいた研究ノート。
幼なじみの望月彩由美とともに真相を追う葉羽だが、事態は予想外の展開を見せ始める。二人の体に浮かび上がる不思議な模様。そして、現実世界に重なる別次元の存在。
やがて明らかになる衝撃的な真実―霧島教授の研究は、人類の存在を脅かす異次元生命体から世界を守るための「量子の檻」プロジェクトだった。
教授の死は自作自演。それは、次世代の守護者を選出するための壮大な実験だったのだ。
葉羽と彩由美は、互いへの想いと強い絆によって、人類と異次元存在の境界を守る「永遠の観測者」として選ばれる。二人の純粋な感情が、最強の量子バリアとなったのだ。
現代物理学の限界に挑戦する本格ミステリーでありながら、壮大なSFファンタジー、そしてピュアな青春ラブストーリーの要素も併せ持つ。「観測」と「愛」をテーマに、科学と感情の境界を探る新しい形の本格推理小説。
総務の黒川さんは袖をまくらない
八木山
ミステリー
僕は、総務の黒川さんが好きだ。
話も合うし、お酒の趣味も合う。
彼女のことを、もっと知りたい。
・・・どうして、いつも長袖なんだ?
・僕(北野)
昏寧堂出版の中途社員。
経営企画室のサブリーダー。
30代、うかうかしていられないなと思っている
・黒川さん
昏寧堂出版の中途社員。
総務部のアイドル。
ギリギリ20代だが、思うところはある。
・水樹
昏寧堂出版のプロパー社員。
社内をちょこまか動き回っており、何をするのが仕事なのかわからない。
僕と同い年だが、女性社員の熱い視線を集めている。
・プロの人
その道のプロの人。
どこからともなく現れる有識者。
弊社のセキュリティはどうなってるんだ?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
朱糸
黒幕横丁
ミステリー
それは、幸福を騙った呪い(のろい)、そして、真を隠した呪い(まじない)。
Worstの探偵、弐沙(つぐさ)は依頼人から朱絆(しゅばん)神社で授与している朱糸守(しゅしまもり)についての調査を依頼される。
そのお守りは縁結びのお守りとして有名だが、お守りの中身を見たが最後呪い殺されるという噂があった。依頼人も不注意によりお守りの中身を覗いたことにより、依頼してから数日後、変死体となって発見される。
そんな変死体事件が複数発生していることを知った弐沙と弐沙に瓜二つに変装している怜(れい)は、そのお守りについて調査することになった。
これは、呪い(のろい)と呪い(まじない)の話
変な屋敷 ~悪役令嬢を育てた部屋~
aihara
ミステリー
侯爵家の変わり者次女・ヴィッツ・ロードンは博物館で建築物史の学術研究院をしている。
ある日彼女のもとに、婚約者とともに王都でタウンハウスを探している妹・ヤマカ・ロードンが「この屋敷とてもいいんだけど、変な部屋があるの…」と相談を持ち掛けてきた。
とある作品リスペクトの謎解きストーリー。
本編9話(プロローグ含む)、閑話1話の全10話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる