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2章 学校編
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しおりを挟む授業が終わったためか、チャイムが鳴ることなく、校内にはかやがやと談笑する声が飛び交う。
「昨日のTV見た?」や、「あのシーンがさ」、「芸人の~」などと、どうやら校内では話題がTVについて持ちきりらしい。
校内の休み時間の騒がしさに紛れて、このまま笹野先生が教室から出てくるところを捕まえないといけない。
そんななか、「まだかな、まだかな」と思うも、気のために開けられた窓から入る風でズボンが特別冷たく感じる。
身体をぶるぶる震わせ、
「早く先生見つけなきゃ!」
考えを固めていると、先ほど遭遇した森近の声がなにやらクラスメートたちを引き連れて教室から声が近づいてくる。
「おい、病気が学校に来ているぞ」
「どこにだよ。あいつが来るはずがねぇーっつーの」
「まあまあ、あいつなら漏らしてたから、まだ便所の近くにいるはず」
「おい、まじかよ。あいつ、とうとう漏らしたんか」
「みたいだぜ」
森近が引き連れて来た声は、クラスカースト上位の木崎正人(きざき_まさひと)、大槻俊之(おおつき_としゆき)、岡本直介(おかもと_なおすけ)の3人だ。
森近を合わせたら4人の小規模グループなのだが──。
彼らは松場中学3年2組を代表するエリートな存在にして、彼らひとりひとりには際立った能力を有しているために、僕のいるクラスを実効支配する支配者としての顔を持っている。
これが言いすぎではないことは、彼らを知る3年2組のクラスメートたち……いや、松場中学3年生に聞いて回れば、理解に達するだろう。
なぜか、この松場中学3年の怪物級の秀才たちがこのクラスに集まっているのだ。
そのために、壁は厚い。
巨大な隔壁でも設けられたかのように、会話のレベルが一味も二味も違う。
彼らは松場中学現3年生を代表した存在として、木崎正人(きざき_まさひと)は抜群のリーダーシップを持つ生徒会長。
大槻俊之(おおつき_としゆき)はクラストップの成績。いや、学年でも5本の指に入る秀才である。
さらに、岡本直介(おかもと_なおすけ)は陸上部で地区大会を勝ち抜き、県大会、そして全国へと駆け上がるスポーツ秀才なイケメンである。
この3人がなぜか慕うおちゃらけた遊び人、森近光也(もりちか_みつや)。彼がくっついている、いや、牽引しているが正しいだろうか。
生徒会長の木崎はなぜか、このグループのなかでは、まとめ役ではなく、聴き専になっているようなそんなみてくれにも見える。
こんなに華々しい肩書きをもつメンバーがまとまってひとつのグループとして行動しているために、他のクラスメートやグループが干渉しがたい空気を与え、その結果、実質3年2組を実効支配できている、という寸法なんだ。
こんなグループが日陰を好むような暗い性格の孤立した僕を発見してしまった……
それに彼らの言動ひとつや二つで、簡単にターゲットに選ばれた人間の未来がねじまがるのも造作もないはずだ。
過去に彼らを教え子に持ったせいで、教職人生を終われた先生もちらほらいると、聞いている。
教職員ですら餌食になるのだから……。
その彼らに目を付けられたのだ。
どのようにして、回避したらよいのか。
頭が働かない。
どうか、思い過ごしであってほしい。
ただの悪夢のそれであってほしい。
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