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10. 時の神殿
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その直後ガートルードは僕の背後をみてハッとした顔をした。振り返って見たとき黒い影がサッと木の影に隠れるのが分かった。
「まずいな、奴は君を尾行していたらしい……俺について来い!!」
ガートルードが駆け出し僕も続いた。後ろから何か恐ろしいものが音もなく追ってくるのが気配で分かった。
やがて黒い銅像が立つ池の前まで来ると、ガートルードは水の中に頭から飛び込んだ。大きく息を吸い込んで僕も飛び込んだ。
ガートルードは深く潜っていくと、彫像の下にある長方体の台座の即目についたボタンを押した。するとごごごという音とともに台座が上に持ち上がって外れ、池の底に大きな四角い穴があいた。その中にガートルードは入っていき、僕も彼に手を引かれて吸い込まれるように入った。彼が穴の中にある石壁の赤いボタンを押すと、台座は元の場所に戻った。
中は長く暗い通路になっている。びしょ濡れの身体のまま僕たちは走り出したが、まるで水の中にいるみたいにゆっくりとしか前に進まない。等間隔で赤いドアと松明の燈が並んでいて同じく赤いカーペットが敷かれているが、壁もドアもカーペットも、全てが透き通っていて触れるとゼリーのように柔らかく、歪んで見える。
「ここは時の神殿だ」
ガートルードは言った。彼の声が、YouTubeの動画を100倍速にしたみたいにすごくゆっくりに聴こえた。
「大量の時間が溢れ1人の人間の時間消費速度が最低レベルになる分、動きが鈍くなったように感じる。だがこれを使えば大丈夫だ」
彼はポケットから黒い腕時計を二つ取り出してボタンを連続で押して操作したあと、僕に手渡した。それを手首に嵌めた途端、ガートルードの声が普通の速さで聴こえた。
「これはつけてる人間の時間感覚を変える時計だ。時間が過ぎる感覚的速度を倍速にした。これでちょうどよく移動できるだろう」
通路を抜けた突き当たりの気が遠くなりそうに長い螺旋階段を上り、ステンドグラスのようなデザインの上に幾何学模様が描いてあるカラフルな壁に囲まれた聖堂のような場所に着いた。聖堂の奥の金色の獅子の像が2体に挟まれた扉の前でガートルードが何か呪文を言うと扉が開いて、広いホールのような場所に出た。床に白い大きな円と時計の針を模ったようなマークと、その周りに古代文字のような馬や象などの動物を模したカラフルな紋様が描いてある。
「この神殿はこの結界によって守られているけれど、時間泥棒たちは年に一度、4月1日に結界を破って入り込むことがある」
「嘘が時間を壊すから?」
僕が尋ねるとガートルードは頷いた。
「そうだ、時間が壊れると結界の力も弱まってしまう。だがどのみち彼らはこの神殿の中には長くいられない」
「まずいな、奴は君を尾行していたらしい……俺について来い!!」
ガートルードが駆け出し僕も続いた。後ろから何か恐ろしいものが音もなく追ってくるのが気配で分かった。
やがて黒い銅像が立つ池の前まで来ると、ガートルードは水の中に頭から飛び込んだ。大きく息を吸い込んで僕も飛び込んだ。
ガートルードは深く潜っていくと、彫像の下にある長方体の台座の即目についたボタンを押した。するとごごごという音とともに台座が上に持ち上がって外れ、池の底に大きな四角い穴があいた。その中にガートルードは入っていき、僕も彼に手を引かれて吸い込まれるように入った。彼が穴の中にある石壁の赤いボタンを押すと、台座は元の場所に戻った。
中は長く暗い通路になっている。びしょ濡れの身体のまま僕たちは走り出したが、まるで水の中にいるみたいにゆっくりとしか前に進まない。等間隔で赤いドアと松明の燈が並んでいて同じく赤いカーペットが敷かれているが、壁もドアもカーペットも、全てが透き通っていて触れるとゼリーのように柔らかく、歪んで見える。
「ここは時の神殿だ」
ガートルードは言った。彼の声が、YouTubeの動画を100倍速にしたみたいにすごくゆっくりに聴こえた。
「大量の時間が溢れ1人の人間の時間消費速度が最低レベルになる分、動きが鈍くなったように感じる。だがこれを使えば大丈夫だ」
彼はポケットから黒い腕時計を二つ取り出してボタンを連続で押して操作したあと、僕に手渡した。それを手首に嵌めた途端、ガートルードの声が普通の速さで聴こえた。
「これはつけてる人間の時間感覚を変える時計だ。時間が過ぎる感覚的速度を倍速にした。これでちょうどよく移動できるだろう」
通路を抜けた突き当たりの気が遠くなりそうに長い螺旋階段を上り、ステンドグラスのようなデザインの上に幾何学模様が描いてあるカラフルな壁に囲まれた聖堂のような場所に着いた。聖堂の奥の金色の獅子の像が2体に挟まれた扉の前でガートルードが何か呪文を言うと扉が開いて、広いホールのような場所に出た。床に白い大きな円と時計の針を模ったようなマークと、その周りに古代文字のような馬や象などの動物を模したカラフルな紋様が描いてある。
「この神殿はこの結界によって守られているけれど、時間泥棒たちは年に一度、4月1日に結界を破って入り込むことがある」
「嘘が時間を壊すから?」
僕が尋ねるとガートルードは頷いた。
「そうだ、時間が壊れると結界の力も弱まってしまう。だがどのみち彼らはこの神殿の中には長くいられない」
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