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7. 時間警察
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あの老人に、元の時間に戻してもらえるように相談しなくてはならない。
僕は公園を何度も訪れたけれど、老人は見つからなかった。愕然とした。自分がしたことの重みを今更ながら思い知った。
そんな時のこと。
早朝耳元で名前を呼ばれ目を開けると、目の前に黒スーツ姿の背の高い男性が1人立っていた。驚いて起き上がった僕に男性は「起こしてしまってすまない」と謝った。
「私は時間警察のロドリー・シュガー警部だ。アンソニー・ギャレット君で間違いないね?」
頷くとスーツの男は上着の胸ポケットから1枚の写真を取り出した。
「この男を探しているんだが見覚えは?」
その写真にはブロンドの若い白人男性の顔が映っていた。その顔をどこかで見たことがあるような気がしたが思い出せない。
「こいつの名前はガートルード・ハイゼンシュタイン。時間を自在に操る能力を持つ時間魔だ。未来に行くことも過去に戻ることも、5歳の子供や80歳の老人に化けることもできる」
はっとした。この写真の男は30代前半位に見えるが、目を凝らして見ると確かにあの老人の面影があった。
「こいつの年齢は300歳を超えてる。だがこの能力のお陰で不死身なんだ」
「彼は何か悪いことを?」
「私達は時間を司る時間の国で働いている。時間管理局が時間を管理し、この世界の一人ひとりの寿命に応じて分配し誰がどの位時間を浪費したかをデータに収めてるんだが、そのデータにある日狂いが生じた。一部の人間が大量の時間を浪費しているために、一人一人に行き渡る時間が短くなって皆の寿命が縮まってしまうんだ。それはこの世界にとって非常に重大な問題だ」
警部は一度咳払いをした。
「時間警察はもう200年以上前に時間魔の正体が彼だと突き止めたが、奴があまりに複雑に時間軸を操って逃げ隠れしているために居場所が把握できない。そしてアンソニー君、時間管理局は君の時間浪費がとりわけ激しく、4月1日から進まずに行きつ戻りつしていることに気づいた。時間の動き方がガートルードと同じだった。今君たちがいる時間軸で奴の居場所を特定するのは難しい、何故なら嘘は時間を壊すからだ。君が同じ日を繰り返しているのもそのせいだ。4月1日は嘘の蔓延する日だ、人々のつく嘘が時間軸を歪ませガートルードの居所を余計に分かりにくくしている」
その話を聞いて僕の頭にはエヴァンのことが浮かんだ。1人に分配される時間が短くなるということは、エヴァンの寿命も——。僕は自分が重大な罪を犯したことを知った。まさか僕自身がエヴァンの残り少ない時間を奪っていたなんて。
「僕はエヴァンとの時間を守るために、弟を死なせないために、ガートルードに今日がずっと続くようにと願いました。そのせいで弟の寿命が縮むなんて……そんな……」
「落ち着きたまえ、アンソニー君」
ロドリーは宥めるように僕の肩に手を置いた。
「僕は何だってします、一生牢屋に閉じ込められたっていい、お願いですから弟を死なせないでください!」
絶望と混乱で泣き出した僕に、ロドリーは慰めるように言葉をかけた。
「君が牢屋に閉じ込められることはない。君はまだ未成年だし、無知で悪意もない君に罪はない。ガートルードと知り合いと分かり真実を聞けただけで収穫があったよ。そこでお願いがある。もしかしたらガートルードはいつか君にコンタクトを取ってくるかもしれないから、その時は私に連絡して欲しい。もし力になってくれるなら君の弟を助けてやろう」
ロドリー警部は僕に電話番号の書かれた名刺を渡した。
「何かあったら相談してくれたまえ。じゃあね、アンソニー君」
黒い霧に覆われロドリーは消えた。
僕は公園を何度も訪れたけれど、老人は見つからなかった。愕然とした。自分がしたことの重みを今更ながら思い知った。
そんな時のこと。
早朝耳元で名前を呼ばれ目を開けると、目の前に黒スーツ姿の背の高い男性が1人立っていた。驚いて起き上がった僕に男性は「起こしてしまってすまない」と謝った。
「私は時間警察のロドリー・シュガー警部だ。アンソニー・ギャレット君で間違いないね?」
頷くとスーツの男は上着の胸ポケットから1枚の写真を取り出した。
「この男を探しているんだが見覚えは?」
その写真にはブロンドの若い白人男性の顔が映っていた。その顔をどこかで見たことがあるような気がしたが思い出せない。
「こいつの名前はガートルード・ハイゼンシュタイン。時間を自在に操る能力を持つ時間魔だ。未来に行くことも過去に戻ることも、5歳の子供や80歳の老人に化けることもできる」
はっとした。この写真の男は30代前半位に見えるが、目を凝らして見ると確かにあの老人の面影があった。
「こいつの年齢は300歳を超えてる。だがこの能力のお陰で不死身なんだ」
「彼は何か悪いことを?」
「私達は時間を司る時間の国で働いている。時間管理局が時間を管理し、この世界の一人ひとりの寿命に応じて分配し誰がどの位時間を浪費したかをデータに収めてるんだが、そのデータにある日狂いが生じた。一部の人間が大量の時間を浪費しているために、一人一人に行き渡る時間が短くなって皆の寿命が縮まってしまうんだ。それはこの世界にとって非常に重大な問題だ」
警部は一度咳払いをした。
「時間警察はもう200年以上前に時間魔の正体が彼だと突き止めたが、奴があまりに複雑に時間軸を操って逃げ隠れしているために居場所が把握できない。そしてアンソニー君、時間管理局は君の時間浪費がとりわけ激しく、4月1日から進まずに行きつ戻りつしていることに気づいた。時間の動き方がガートルードと同じだった。今君たちがいる時間軸で奴の居場所を特定するのは難しい、何故なら嘘は時間を壊すからだ。君が同じ日を繰り返しているのもそのせいだ。4月1日は嘘の蔓延する日だ、人々のつく嘘が時間軸を歪ませガートルードの居所を余計に分かりにくくしている」
その話を聞いて僕の頭にはエヴァンのことが浮かんだ。1人に分配される時間が短くなるということは、エヴァンの寿命も——。僕は自分が重大な罪を犯したことを知った。まさか僕自身がエヴァンの残り少ない時間を奪っていたなんて。
「僕はエヴァンとの時間を守るために、弟を死なせないために、ガートルードに今日がずっと続くようにと願いました。そのせいで弟の寿命が縮むなんて……そんな……」
「落ち着きたまえ、アンソニー君」
ロドリーは宥めるように僕の肩に手を置いた。
「僕は何だってします、一生牢屋に閉じ込められたっていい、お願いですから弟を死なせないでください!」
絶望と混乱で泣き出した僕に、ロドリーは慰めるように言葉をかけた。
「君が牢屋に閉じ込められることはない。君はまだ未成年だし、無知で悪意もない君に罪はない。ガートルードと知り合いと分かり真実を聞けただけで収穫があったよ。そこでお願いがある。もしかしたらガートルードはいつか君にコンタクトを取ってくるかもしれないから、その時は私に連絡して欲しい。もし力になってくれるなら君の弟を助けてやろう」
ロドリー警部は僕に電話番号の書かれた名刺を渡した。
「何かあったら相談してくれたまえ。じゃあね、アンソニー君」
黒い霧に覆われロドリーは消えた。
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