Owl The Time

6. 疑問

　そんな日々を繰り返しながら、僕の心には疑問が浮かんでいた。

——本当にこれでいいのだろうか？

　4月1日に留まる限り弟は生きていられるし、僕も弟との幸せな時間を過ごすことができる。僕の前で笑っている弟はしかし、夜は脚の激痛にのたうち回り病への不安と死の恐怖に独り涙を流すのだ。

　僕はただ怖かった。弟が僕の目の前から消えてしまうことが、今までみたく他愛ない話をし戯れ合うことができなくなることが。回復するというわずかな希望を、一番持たなければならない家族である僕が彼より先に捨てようとしていたのだ。彼が治る見込みはない、彼と過ごせる時間は残り少ないのだと。これまで何度もぬか喜びしてはどん底に堕とされてきたために、そうじゃない可能性に——弟がこれから5年、10年先も生きて行ける未来に賭ける勇気がなかった。

　僕は弱虫だった。それに比べて弟は強かった。どんな辛い治療も泣き言を言わずに耐え抜いた。だからこそ余計に彼が助かる未来を、翼を広げ空を目指す未来を僕は見たかった。

　そのためには今日から抜け出さなくてはいけなかった。