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1. 檻の中の梟
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カメラは檻の中の梟の止まり木を掴んだ鋭い鉤爪を捉えている。やがてゆっくりと上方向に視点が移動していく。豊かな茶色の羽毛に覆われた身体を反らせた梟が、2メートルはある大きな羽を広げてバタバタと羽ばたくと、集まった見物人たちから歓声が上がる。
これは弟が入院する前に録画して繰り返し見ていた、マンハッタンのセントラルパークで飼われている梟のオーツの特集番組だ。弟はこの梟が大好きで、本来野生で翼を広げて自由に空を羽ばたいているはずのオーツが、こうして人間の手によって鍵のかけられた檻に閉じ込められ見せ物になっていることに胸を痛めていた。
4月1日朝、僕は弟のエヴァンの見舞いに病院に行く予定だった。3歳下の15歳のエヴァンはユーイング肉腫という病気で3年前から入退院を繰り返していた。弟の大腿骨の腫瘍は1年前余りに大きく、脚を切断するか、抗がん剤治療で腫瘍を縮小させるか選ぶよう主治医に言われた。前者だと再発の可能性は26%、後者は27%。両親は少しでも再発の可能性の少ない方を勧めたが、鳥類学者を目指すエヴァンは将来のために脚を残す方を選んだ。
半年間の抗がん剤治療で腫瘍は予想以上に小さくなり、脚を残して切除できるかもしれないと聞いた時僕と弟は抱き合って喜んだ。手術は成功し腫瘍は全摘出された。
だがその喜びも束の間1年後に再発、左脚への転移が判明した。この時の弟の落胆は相当のもので、何故自分は病気なのか、他の子供のように普通の生活が送れないのかと涙を流した。その姿を見るのは余りに苦しかった。
再発転移の場合5年生存率は30%で、この数字は僕達家族にも大きな不安をもたらした。
檻の梟の様に病室に閉じ込められた彼がいつか飛び立つ日を夢見ながら、僕は毎日を過ごしていた。
両親の車で病院に向かう途中通った、高層ビルが立ち並び沢山の車や人の行き交うタイムズスクエアの上空は曇天で、開いた窓から入り込む生暖かい風が頬を撫でた。
これは弟が入院する前に録画して繰り返し見ていた、マンハッタンのセントラルパークで飼われている梟のオーツの特集番組だ。弟はこの梟が大好きで、本来野生で翼を広げて自由に空を羽ばたいているはずのオーツが、こうして人間の手によって鍵のかけられた檻に閉じ込められ見せ物になっていることに胸を痛めていた。
4月1日朝、僕は弟のエヴァンの見舞いに病院に行く予定だった。3歳下の15歳のエヴァンはユーイング肉腫という病気で3年前から入退院を繰り返していた。弟の大腿骨の腫瘍は1年前余りに大きく、脚を切断するか、抗がん剤治療で腫瘍を縮小させるか選ぶよう主治医に言われた。前者だと再発の可能性は26%、後者は27%。両親は少しでも再発の可能性の少ない方を勧めたが、鳥類学者を目指すエヴァンは将来のために脚を残す方を選んだ。
半年間の抗がん剤治療で腫瘍は予想以上に小さくなり、脚を残して切除できるかもしれないと聞いた時僕と弟は抱き合って喜んだ。手術は成功し腫瘍は全摘出された。
だがその喜びも束の間1年後に再発、左脚への転移が判明した。この時の弟の落胆は相当のもので、何故自分は病気なのか、他の子供のように普通の生活が送れないのかと涙を流した。その姿を見るのは余りに苦しかった。
再発転移の場合5年生存率は30%で、この数字は僕達家族にも大きな不安をもたらした。
檻の梟の様に病室に閉じ込められた彼がいつか飛び立つ日を夢見ながら、僕は毎日を過ごしていた。
両親の車で病院に向かう途中通った、高層ビルが立ち並び沢山の車や人の行き交うタイムズスクエアの上空は曇天で、開いた窓から入り込む生暖かい風が頬を撫でた。
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