日本昔話村

たらこ飴

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村の長老②

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「大黒天は本名大国主の神といってな、国が始まる前に天照大御神から幽顕の神勅を受け幽冥主宰大神 かくりごとしろしめすおおかみというやつになった」

 ちょっと何言ってるのか分かりませんという言葉を飲み込んだ僕の顔を見て、宗兵衛は「何言ってるか全然分からんみたいな顔をしとるな」と笑った。源之助のことを言っていられないくらい僕も感情が表に出やすい人間のようだ。

幽冥かくりよとは、幽霊の幽と冥界の冥と書く。つまり、あの世や神様の世界、夢や運命などわしら人間の目には見えん世界のことを言う。
あの祠の神様はつまり、そんな夢幻の世界を司る神様なんじゃよ」

「ということは、僕たちが迷い込んだこの世界も幽冥かくりよということなんでしょうか?」

「そう考えることもできるな。お主、神社で参拝したあとにここに迷い込んだと言っていたな?」

「はい」

「もしかしたら大黒天に呼ばれたのかもしれんな、お前たちがここでなすべきことをするために」

 なすべきこと——。

 ふと耕太郎の顔が浮かんだ。

「助けたい友達がいるんです」と僕は言った。

「彼を止めれば、あわよくばこの村を救い未来のを変えることができる。あっちの世界に帰ることができるかもしれない。でも僕は、本当にあっちに帰りたいのか分からないんです」

「それはなぜじゃね?」

「こっちに来て僕は生きているって感じがするんです、だけどあっちでは違う。僕は役立たずで誰にも必要とされてなくて、やりたいことも分からない。子どもの頃両親に捨てられて施設で育って、大切な人が死んでその人のために本に関わる勉強をしたいと思ったけど上手くいきませんでした。あっちに戻れば、挫折をしたり上手く生きられないのを人のせいにしてやるべきことをやらない、駄目な僕に戻るような気がして……」

「そんなことはない。ここでできたことが、あっちではできないとなぜ断言できる?」

 長老は言った。

「詳しくは分からんが、友達を助けたい、村を救いたいという気持ちがあるのなら、君はあっちの世界でも同じような気持ちを持ち続けられるだろう。友達や好きな人など誰かを大切に思う気持ちは、どの世の中でも同じじゃ。君は駄目人間ではない、少なくともワシからみたらな。神様に魅入られるくらいの人間なんじゃから、もっと自信を持て!」

 長老に背中を叩かれ、僕は目が覚めたような気がした。

 僕を見守り両親の代わりに育ててくれた施設の職員さんたち、僕に素敵な本と図書館の世界を教えてくれたシマウマ号の運転手さん、僕に大学に行くよう勧めてくれた高校の先生——。僕は一人ではなかった。あっちの世界だって捨てたもんじゃなかったじゃないか。

 僕は忘れかけていた。帰りたいという気持ちを。未来に進みたいという気持ちを。この場所にこのまま止まりたいとすら思っていた。だがそれでは駄目だ。僕たちのいるべき場所は、生きる場所はこの世界にはない。別の場所にある今なのだ。
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