6 / 22
6. 謎の巨人
しおりを挟む
翌朝僕達は朝早く車を置いた場所に向かった。すると車の前をうろつく大男の姿が目に入った。背は2mを悠に超え、120キロ以上はあるであろう巨漢だ。男は不思議そうに車の中を覗いたり、車体を隅から隅まで眺めていたが、「おい、何してんだ!」と権田に怒られビクッと肩を震わせ走り去った。
「何だ、あのでけー奴」
「村人だろう」
権田に怪しまれるなんてよっぽどだが、彼や他の村人達からしたら僕達の方が怪しいに違いない。
助手席に乗り込み何度もキーを捻ってみるも、やはり車は動かない。仕方なく幸宅に戻り家の仕事を手伝うからしばらく家に置いて欲しいと頼んだ。案の定松は怪しげな若者二人を泊めることに反対していたが、幸の説得に折れ、あれこれと仕事の指示を出し始めた。
仕事は主に畑仕事と薪割り井戸の水汲みなどだった。
権田は僕が働いていても横で鼻をほじっているくせに、幸が薪割りをしていると「手伝いますよ」と我先に代わる。ことあるごとに幸に話しかけてはつまらない冗談で笑わせ得意になっているのが憎たらしい。
「幻之介さんって面白い人ね」
ある日畑仕事をしていた時幸が声をかけて来た。
「あいつはただの馬鹿ですよ、脳筋です」
「のうきんってなんですか? お金のこと?」
「脳みそが筋肉でできてるって言う意味です」
「ふふっ、傑さんも面白いことを言うのね」
幸の笑顔に癒されながらふと横を見ると、険しい顔の松が桶を二つ突き出した。
「水汲みに行っておいで、道草食ってないでさっさと帰ってくるんだよ」
川までは15分ほど凸凹道を歩いて行かなくてはならない。
川に辿り着くまでに、あちこちの家から村人達が顔を出し不思議そうな顔で僕を見た。井戸端会議中らしき女性数人もコソコソと耳打ちをしあいながらこちらに目を向けていて、居心地の悪い気持ちになった。
芸能人になったレベルで高濃度の視線を浴びながら川で水を組んだが、何と桶の一つに穴が空いているではないか。また家に戻らなくてはならないのかと愕然としていたら、横からすっと桶を差し出された。今朝のあの大男だった。助かった、これでまた村人達の視線を浴びながら来た道を2往復しなくて済む。
「ありがとう、助かるよ」
大男は何も言わずに水を汲み、のっしのっしと歩いて行った。
「後から桶を返しに行くよ!」
大きな背中に向かって伸びかけたが返事はなかった。
無口だがいい奴なのかもしれない。
「何だ、あのでけー奴」
「村人だろう」
権田に怪しまれるなんてよっぽどだが、彼や他の村人達からしたら僕達の方が怪しいに違いない。
助手席に乗り込み何度もキーを捻ってみるも、やはり車は動かない。仕方なく幸宅に戻り家の仕事を手伝うからしばらく家に置いて欲しいと頼んだ。案の定松は怪しげな若者二人を泊めることに反対していたが、幸の説得に折れ、あれこれと仕事の指示を出し始めた。
仕事は主に畑仕事と薪割り井戸の水汲みなどだった。
権田は僕が働いていても横で鼻をほじっているくせに、幸が薪割りをしていると「手伝いますよ」と我先に代わる。ことあるごとに幸に話しかけてはつまらない冗談で笑わせ得意になっているのが憎たらしい。
「幻之介さんって面白い人ね」
ある日畑仕事をしていた時幸が声をかけて来た。
「あいつはただの馬鹿ですよ、脳筋です」
「のうきんってなんですか? お金のこと?」
「脳みそが筋肉でできてるって言う意味です」
「ふふっ、傑さんも面白いことを言うのね」
幸の笑顔に癒されながらふと横を見ると、険しい顔の松が桶を二つ突き出した。
「水汲みに行っておいで、道草食ってないでさっさと帰ってくるんだよ」
川までは15分ほど凸凹道を歩いて行かなくてはならない。
川に辿り着くまでに、あちこちの家から村人達が顔を出し不思議そうな顔で僕を見た。井戸端会議中らしき女性数人もコソコソと耳打ちをしあいながらこちらに目を向けていて、居心地の悪い気持ちになった。
芸能人になったレベルで高濃度の視線を浴びながら川で水を組んだが、何と桶の一つに穴が空いているではないか。また家に戻らなくてはならないのかと愕然としていたら、横からすっと桶を差し出された。今朝のあの大男だった。助かった、これでまた村人達の視線を浴びながら来た道を2往復しなくて済む。
「ありがとう、助かるよ」
大男は何も言わずに水を汲み、のっしのっしと歩いて行った。
「後から桶を返しに行くよ!」
大きな背中に向かって伸びかけたが返事はなかった。
無口だがいい奴なのかもしれない。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
僕を待つ君、君を迎えにくる彼、そして僕と彼の話
石河 翠
現代文学
すぐに迷子になってしまうお嬢さん育ちの綾乃さん。
僕は彼女を迎えにいくと、必ず商店街のとある喫茶店に寄る羽目になる。そこでコーヒーを飲みながら、おしゃべりをするのが綾乃さんの至福の時間なのだ。コーヒーを飲み終わる頃になると、必ず「彼」が彼女を迎えに現れて……。
扉絵は、遥彼方さんのイラストをお借りしています。
この作品は、小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
【ショートショート】雨のおはなし
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
コラテラルダメージ~楽園11~
志賀雅基
SF
◆感情付加/不可/負荷/犠牲無き最適解が欲しいか/我は鏡ぞ/貴様が作った◆
惑星警察刑事×テラ連邦軍別室員シリーズPart10[全36話]
双子惑星の片方に小惑星が衝突し死の星になった。だが本当はもうひとつの惑星にその災厄は訪れる筈だった。命運を分けたのは『巨大テラ連邦の利』を追求した特殊戦略コンピュータ・SSCⅡテンダネスの最適解。家族をコンピュータの言いなりに殺されたと知った男は復讐心を抱き、テラに挑む。――途方もない数の犠牲者が出ると知りながら。
▼▼▼
【シリーズ中、何処からでもどうぞ】
【全性別対応/BL特有シーンはストーリーに支障なく回避可能です】
【ノベルアップ+にR無指定版/エブリスタにR15版を掲載】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる