日本昔話村

たらこ飴

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1. 再会

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 図書館のカウンター横にある自動貸出機の前では、幼い兄妹が、『こんもりくん』という題名のアフロのような髪型の男の子が表紙に描かれた絵本を取り合い、本のバーコードを読取機にかざす争いを繰り広げている。父親らしき男性が止めるも、二人は譲り合うことを知らないらしい。

「おい、あの本見ろよ。○っこりくんだってよ」

 僕の後ろに並んでいた中学生らしき男子二人組のうちの一人が、本を指さし笑った。もう一人は「お前わざと間違ってるだろ」と呆れた様子で返した。

 本来であればすぐ横の空いているカウンターに向かうところだが、ここに並んでいるのには理由がある。何故なら、僕が持っているのは『方向オンチ矯正読本』というタイトルの本だからだ。

 ようやく前の家族の貸出作業が終わりかけた時、貸出機からピーと電子音が鳴った。たまたま事務所から出てきた厳つい男性司書がかけつけてレシートを交換し始めた時、僕はここで一生を終えそうなほど辟易していた。

 渋々カウンターに向かう。相手は40代くらいの女性職員で、僕の本を見るなり「私も方向音痴なのよ、アッハッハ」としなくてもいいリアクションをしたために、逃げるように図書館を後にする羽目になった。

 冷房のきいた図書館から出た途端、むっとした熱気に包まれた。早く車に戻ろうと歩いていると、バス停の前に佇むこんもりくん並のアフロヘア男を発見した。中学の同級生の権田幻之介だ。口をきいたことは殆どないが腕っぷしが強いと評判で、言動が粗暴な彼に苦手意識を持っていた。

 気づかれないように細心の注意を払いながら通り過ぎたつもりだったが、バス停から少し離れたところで「おい、お前」と声をかけられてしまった。無視して歩き去ろうとしたが、「おい、お前だよお前! 耳ついてねーのか?!」 と濁声が追いかけてくる。

「名前なんだっけお前? 唐島だっけ?」

「唐沢だ」

 名前を間違えられ頭にきて振り向くと、相手は「やっぱりな」と白い歯を見せ近づいてくる。

「悪いけど、家まで送ってくんね? バスあと一時間はこねーんだわ。クソ田舎だし参っちまうよ」

「一時間くらいなら待てばいいだろ、僕はこれから用事がある」

 一秒たりとも話していたくないのに奴は駆け足で隣に並び、「俺の家すぐそこだからさ。頼むよ~」と頭を肘で小突いてくる。こんな所も嫌いだ。

「痛い、やめろ」

 駐車場に停めた車の運転席に素早く駆け込み鍵をかけようとしたが一歩遅く、権田は助手席に滑り込んできた。挙げ句俺が借りた本を奪いとって「ギャハハ、お前こんなの読むの? ウケる~」と揶揄う始末。

「うるさい!! 返せ!!」

 本をひったくって後部席に置きエンジンをかける。面倒だからさっさと降ろしてしまおう。
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