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突撃②
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ローズの住むアパートの石段の下まできたところで、自転車を引くローズの兄貴に出会した。デスメタルバンドを組んでいる彼は、黒い髪をワックスとスプレーでガチガチに固めてギザギザに立て、顔を白く塗りたくって左目の周りに黒い星マークを描いている。実はすごく良い人なんだけど、黒い口紅を塗り口と鼻にピアスをしていて見た目が怖いもんだから、街の人から遠巻きにされている。
「やぁ、オーシャン。ローズに用かい?」
見た目に似合わない爽やかな口調と声で、ローズの兄は尋ねてくる。
「こんちは。ローズ帰ってます?」
「まだ帰ってないけど。何か言伝があれば伝えておくよ」
その時、目の前の歩道を歩いていたお婆さんがよろけて転んだ。ローズ兄が慌てて駆け寄り、「大丈夫ですか?」と声をかけ立ち上がるのを手伝っている。兄貴はこんなに良い人なのに、何故ローズはあんなに……。
心の中で悪態をつきかけたところで、ローズが帰ってきた。
「何やってんの? オーシャン」
明るいブラウンの髪の先っぽを巻いて、濃い化粧をしたローズが何事もなかったみたいに声をかけてきた。
「あのさ、ローズ。葡萄ジュースに酒混ぜたの、お前だろ?」
ローズは「何のこと?」としらばっくれたが、俺に問い詰められた挙句兄にも「ローズ、正直に生きないといけないよ」と諭され、とうとう白状した。
「あんたを酔わせるつもりじゃなかったの。ティファニーに悪戯しただけ。アイツが酔っ払って馬鹿なことすんの見たかったから。大変な思いさせて、ごめん」
予想以上に素直に謝られ拍子抜けしてしまう。ローズ兄貴は「じゃ、僕はこれからバンドの練習があるから」と自転車に跨り颯爽と通りの向こうに消えた。
アパート前の石段に腰掛けて、ローズと話をした。
「何でティファニーのことそんなに目の敵にすんだ?」
「ムカつくから」
「アイツが好きな奴と仲良くしてたのが?」
「それだけじゃない。ティファニーは天狗になってた。少しダンスが上手くて男子にモテるからって、私たちのこと見下してたの。その態度にいつもムカついてたけど我慢してた。それだけじゃない。いつも私とアンナのことをいいようにパシッてた。本当に嫌な奴よ、頭に来る」
理由なくやっていたわけではなく、二人にも相応の理由があったらしい。二人の怒りも理解はできるけれど、だからといって2vs1の陰湿な嫌がらせが正当化される理由にはならない。
「気持ちはわかるけどさ、ティファニー一人を二人で虐めるとか、聞こえよがしに悪口言ったりアイツが作ったドレッシングわざと溢したり、ジュースに酒混ぜたりするのって悪質だと思うんだよな」
「何? あんたもティファニーの味方?」
途端にローズの態度が硬化し、口調がキツくなる。
「そうじゃねぇけどさ。見ててあんまり酷いと思ったんだ。お前らにも理由があるのはわかる。だけど、やってて辛くなんねぇか? 友だちだった奴傷つけて平気なのか?」
「別に平気よ、自分勝手なことしてたのはあっちだし。私たちとの約束ドタキャンして他校の男子とデートしたりしてさ。YouTubeでダンス披露してコメントでチヤホヤされて、ちょっとお金稼いだくらいで良い気になってたんだよ。自分は皆より上って思って、私たちのこと見下してたんだよ」
ローズは立ち上がり、「私たちのことは放っておいて。どうせ言ったって分かりゃしないんだから」と吐き捨てるように言って、アパートの建物の中に消えていく。その背中に「言いたいことあるなら、相手に直接言ったほうがいいぞー! その方がスッキリするし!」と声をかけたけれど、聞こえたかどうか謎だ。
あまり揉め事に首を突っ込まないほうがいいとシエルに怒られそうだが、俺はこういうことを放っておけない性分だ。面倒なことになると分かっているのに、友達が困っているのを見過ごせない。放っておけるくらい他人事に思えれば、こんなに悩むこともなかったんだろう。
「やぁ、オーシャン。ローズに用かい?」
見た目に似合わない爽やかな口調と声で、ローズの兄は尋ねてくる。
「こんちは。ローズ帰ってます?」
「まだ帰ってないけど。何か言伝があれば伝えておくよ」
その時、目の前の歩道を歩いていたお婆さんがよろけて転んだ。ローズ兄が慌てて駆け寄り、「大丈夫ですか?」と声をかけ立ち上がるのを手伝っている。兄貴はこんなに良い人なのに、何故ローズはあんなに……。
心の中で悪態をつきかけたところで、ローズが帰ってきた。
「何やってんの? オーシャン」
明るいブラウンの髪の先っぽを巻いて、濃い化粧をしたローズが何事もなかったみたいに声をかけてきた。
「あのさ、ローズ。葡萄ジュースに酒混ぜたの、お前だろ?」
ローズは「何のこと?」としらばっくれたが、俺に問い詰められた挙句兄にも「ローズ、正直に生きないといけないよ」と諭され、とうとう白状した。
「あんたを酔わせるつもりじゃなかったの。ティファニーに悪戯しただけ。アイツが酔っ払って馬鹿なことすんの見たかったから。大変な思いさせて、ごめん」
予想以上に素直に謝られ拍子抜けしてしまう。ローズ兄貴は「じゃ、僕はこれからバンドの練習があるから」と自転車に跨り颯爽と通りの向こうに消えた。
アパート前の石段に腰掛けて、ローズと話をした。
「何でティファニーのことそんなに目の敵にすんだ?」
「ムカつくから」
「アイツが好きな奴と仲良くしてたのが?」
「それだけじゃない。ティファニーは天狗になってた。少しダンスが上手くて男子にモテるからって、私たちのこと見下してたの。その態度にいつもムカついてたけど我慢してた。それだけじゃない。いつも私とアンナのことをいいようにパシッてた。本当に嫌な奴よ、頭に来る」
理由なくやっていたわけではなく、二人にも相応の理由があったらしい。二人の怒りも理解はできるけれど、だからといって2vs1の陰湿な嫌がらせが正当化される理由にはならない。
「気持ちはわかるけどさ、ティファニー一人を二人で虐めるとか、聞こえよがしに悪口言ったりアイツが作ったドレッシングわざと溢したり、ジュースに酒混ぜたりするのって悪質だと思うんだよな」
「何? あんたもティファニーの味方?」
途端にローズの態度が硬化し、口調がキツくなる。
「そうじゃねぇけどさ。見ててあんまり酷いと思ったんだ。お前らにも理由があるのはわかる。だけど、やってて辛くなんねぇか? 友だちだった奴傷つけて平気なのか?」
「別に平気よ、自分勝手なことしてたのはあっちだし。私たちとの約束ドタキャンして他校の男子とデートしたりしてさ。YouTubeでダンス披露してコメントでチヤホヤされて、ちょっとお金稼いだくらいで良い気になってたんだよ。自分は皆より上って思って、私たちのこと見下してたんだよ」
ローズは立ち上がり、「私たちのことは放っておいて。どうせ言ったって分かりゃしないんだから」と吐き捨てるように言って、アパートの建物の中に消えていく。その背中に「言いたいことあるなら、相手に直接言ったほうがいいぞー! その方がスッキリするし!」と声をかけたけれど、聞こえたかどうか謎だ。
あまり揉め事に首を突っ込まないほうがいいとシエルに怒られそうだが、俺はこういうことを放っておけない性分だ。面倒なことになると分かっているのに、友達が困っているのを見過ごせない。放っておけるくらい他人事に思えれば、こんなに悩むこともなかったんだろう。
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