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暗闇②
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「そこまでだ!!」
びしょ濡れの顔のまま振り向くと、オーシャンとクレアがトイレの入り口に立って三年生の四人組を睨みつけていた。後からソニアがやってきてスマートフォンを掲げて外郎のようにして見せつけた。そこにはジャンヌが私に言ったことと、彼女らが私にした行いが最初から動画として収められていた。
「この動画を私がSNSで流したら、あんたは一瞬で終わりだよ」
勝ち誇ったように笑いながら言うソニア。
「くそ……」
舌打ち混じりに吐き捨てるジャンヌ。
「ブロードウェイの話もなくなるわね。元々ブロードウェイは実力の世界よ。世界中から才能のある人がわんさか集まってくる。コネがあろうがなかろうが、あなたなんて彼らの鼻息で吹っ飛ばされるわ」
ジャンヌに向かって言い放つクレア。彼女のような天才女優にそんな台詞を吐かれ、いくら3年といえど言い返せるはずもない。
「やめて、3人とも!」
私は友人たちに向かって叫んだ。この動画をネットで流して、ジャンヌやその取り巻きがネットリンチに遭う様を見ることもできる。私を痛めつけた彼女たちへの制裁としては充分だろう。だが私にはどうしてもそれをしてほしくない理由があった。
「その動画は流さないで」
「何でだよ?」
怪訝な顔をするオーシャンと、「訳分からん」と呆れたようにため息をつくソニア。
「その動画には、他人に聴かれたくない内容が入ってる。何より、それをロマンが見たら悲しむわ。その動画はしまっておいて。誰にも見せないで……お願い」
「仕方ないな……」
ソニアはため息混じりにつぶやいて、怖がる素振りなど微塵も見せずジャンヌの方に歩み寄った。
「今回は命拾いしたね。だけどまた彼女に何かしたら、遠慮なくこれを流すから」
ジャンヌは無言でソニアを睨みつけたあと、行くわよと腰巾着3人に声をかけてトイレから出て行った。
「エイヴェリー!! 怪我はない?」
クレアが駆け寄ってきて、ハンカチで私の濡れた顔を拭ってくれる。
「私は大丈夫よ。みんな、本当にありがとう」
本当は、ジャンヌに言われたことで深く傷ついていた。途中、彼女を殴りつけたいくらいの怒りにも襲われた。世の中の理不尽を嘆いた。だが、彼女に復讐をしたところで愛する姉を傷つけることになるなら、姉の心を守ることを優先したかった。
「せっかくあの女を没落させるチャンスだったのに……。あんたって馬鹿だねえ~」
間伸びした声でソニアが言う。
「どうしてあなたは私を助けてくれたの?」
ソニアは無言で、右手の親指を立てて隣に立つオーシャンを指差した。
「コイツがあんたを助けたいから協力してくれって言ったから。じゃあ動画に撮ればいいんじゃね? ってなって私もついてきたわけだけど……」
「しかし悔しいな! アイツらにこっぴどく仕返ししてやりてえ」
右の拳を握り締めるオーシャン。その時、クレアが思いついたように言った。
「そういえば来月、演劇コンペがあるでしょ?」
この学校では毎年、12月のクリスマス前に『演劇コンペティション』というイベントが開かれる。1年生から3年生の全部で6クラス毎に演劇をやって、順位を競うというものだ。審査員は20人の教師たち。生徒の父兄のみでなく、学長にゆかりのある映画や舞台のす監督、プロの演出家や脚本家や俳優、芸能スカウトなどの芸能関係者が観に来るということで、かなり大掛かりなものとなる。中には自分の作品に出ないか、芸能界に入らないかとスカウトされる生徒もいる。そのため、文化祭以上にこのイベントに賭けている学生は多い。
「自作の劇を披露して、3年生を負かしてやりましょうよ。暴力で対抗するんじゃなく、演劇で闘うの」
「だけど、1年が3年に勝つなんて例は今までにねーだろ?」
「ええ、だからこそ伝説を作るのよ。3年生は最後のコンペだから、全てを賭けて挑んでくるはずよ。もしも私たちが彼女らのクラスに勝てば、ジャンヌは歯軋りをして悔しがるに決まってるわ」
「いいんじゃない?」
とソニアが賛成の意を示す。
「よし、俺たちの劇で、3年を負かしてやろうぜ!」
オーシャンが力強く言った。私は額についた水滴を拭ったあとで立ち上がった。足元から怒りにも似た、熱いエネルギーが湧き出て来るのを感じながら。
びしょ濡れの顔のまま振り向くと、オーシャンとクレアがトイレの入り口に立って三年生の四人組を睨みつけていた。後からソニアがやってきてスマートフォンを掲げて外郎のようにして見せつけた。そこにはジャンヌが私に言ったことと、彼女らが私にした行いが最初から動画として収められていた。
「この動画を私がSNSで流したら、あんたは一瞬で終わりだよ」
勝ち誇ったように笑いながら言うソニア。
「くそ……」
舌打ち混じりに吐き捨てるジャンヌ。
「ブロードウェイの話もなくなるわね。元々ブロードウェイは実力の世界よ。世界中から才能のある人がわんさか集まってくる。コネがあろうがなかろうが、あなたなんて彼らの鼻息で吹っ飛ばされるわ」
ジャンヌに向かって言い放つクレア。彼女のような天才女優にそんな台詞を吐かれ、いくら3年といえど言い返せるはずもない。
「やめて、3人とも!」
私は友人たちに向かって叫んだ。この動画をネットで流して、ジャンヌやその取り巻きがネットリンチに遭う様を見ることもできる。私を痛めつけた彼女たちへの制裁としては充分だろう。だが私にはどうしてもそれをしてほしくない理由があった。
「その動画は流さないで」
「何でだよ?」
怪訝な顔をするオーシャンと、「訳分からん」と呆れたようにため息をつくソニア。
「その動画には、他人に聴かれたくない内容が入ってる。何より、それをロマンが見たら悲しむわ。その動画はしまっておいて。誰にも見せないで……お願い」
「仕方ないな……」
ソニアはため息混じりにつぶやいて、怖がる素振りなど微塵も見せずジャンヌの方に歩み寄った。
「今回は命拾いしたね。だけどまた彼女に何かしたら、遠慮なくこれを流すから」
ジャンヌは無言でソニアを睨みつけたあと、行くわよと腰巾着3人に声をかけてトイレから出て行った。
「エイヴェリー!! 怪我はない?」
クレアが駆け寄ってきて、ハンカチで私の濡れた顔を拭ってくれる。
「私は大丈夫よ。みんな、本当にありがとう」
本当は、ジャンヌに言われたことで深く傷ついていた。途中、彼女を殴りつけたいくらいの怒りにも襲われた。世の中の理不尽を嘆いた。だが、彼女に復讐をしたところで愛する姉を傷つけることになるなら、姉の心を守ることを優先したかった。
「せっかくあの女を没落させるチャンスだったのに……。あんたって馬鹿だねえ~」
間伸びした声でソニアが言う。
「どうしてあなたは私を助けてくれたの?」
ソニアは無言で、右手の親指を立てて隣に立つオーシャンを指差した。
「コイツがあんたを助けたいから協力してくれって言ったから。じゃあ動画に撮ればいいんじゃね? ってなって私もついてきたわけだけど……」
「しかし悔しいな! アイツらにこっぴどく仕返ししてやりてえ」
右の拳を握り締めるオーシャン。その時、クレアが思いついたように言った。
「そういえば来月、演劇コンペがあるでしょ?」
この学校では毎年、12月のクリスマス前に『演劇コンペティション』というイベントが開かれる。1年生から3年生の全部で6クラス毎に演劇をやって、順位を競うというものだ。審査員は20人の教師たち。生徒の父兄のみでなく、学長にゆかりのある映画や舞台のす監督、プロの演出家や脚本家や俳優、芸能スカウトなどの芸能関係者が観に来るということで、かなり大掛かりなものとなる。中には自分の作品に出ないか、芸能界に入らないかとスカウトされる生徒もいる。そのため、文化祭以上にこのイベントに賭けている学生は多い。
「自作の劇を披露して、3年生を負かしてやりましょうよ。暴力で対抗するんじゃなく、演劇で闘うの」
「だけど、1年が3年に勝つなんて例は今までにねーだろ?」
「ええ、だからこそ伝説を作るのよ。3年生は最後のコンペだから、全てを賭けて挑んでくるはずよ。もしも私たちが彼女らのクラスに勝てば、ジャンヌは歯軋りをして悔しがるに決まってるわ」
「いいんじゃない?」
とソニアが賛成の意を示す。
「よし、俺たちの劇で、3年を負かしてやろうぜ!」
オーシャンが力強く言った。私は額についた水滴を拭ったあとで立ち上がった。足元から怒りにも似た、熱いエネルギーが湧き出て来るのを感じながら。
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