草花の祈り

たらこ飴

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配役③

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 次の日から、台本の読み合わせが始まった。読み合わせのあとで、ソニアが曲を聴いてほしいと言った。この頃ソニアは学校に来るようになった。しょっちゅう授業をサボるが、どうやらこの頃覚えたというPCの作曲ソフトを使って作曲をしているらしかった。

「一応一曲はできそうなんだけど……」

 ソニアは真ん中に黒い桃のマークのついたピンク色のノートPCを広げ、私たちに作ったばかりの曲を聴かせた。劇の一番最初の場面で、ソニア演じるルイーズがライブハウスで歌う曲だ。

「すげーいいじゃん!!」

 オーシャンが右手の親指を立てた。

「うん、すごくいい。劇の雰囲気にも合ってるし、なんかモダンで」

 クレアも賞賛の言葉を口にする。

「なんだけど……二番のメロディのサビの後のつなぎの部分にちょこっと笛っぽいサウンドを入れたくて……作曲ソフトの中には気に合う音色がないんだわ」

「シエルに頼んで見るか」

 オーシャンが思いついたように言うと、ソニアは「あなたの妹は笛吹きなの?」と尋ねた。

「ああ、笛の音色で子どもたちを誘い出して誘拐する……ってのは嘘だ。シエルはフルートやってんだよ」

「本当?! 今度家に行って録音させてもらえる?」

「いいぞ。今日は合宿でいないけど、明後日なら休みで家にいるから来るか? 母親も今友達と旅行に行ってて、しばらく帰ってこねーんだ」

「行く行く! 何かお礼を持ってかないとね。てか何がいい? 妹さんの好物は? 果物? スムージーとか?」

「スムージーはやめてくれ。多分、あいつは甘いもんなら何でもいいぜ」

「オッケー」

 ソニアとオーシャンの会話を聞きながらふと、シエルにこの頃会っていないということに気づいた。

「私も行っていい? シエルと久しぶりに話したくて」

 突然のお願いにも関わらず、オーシャンはいいぜと笑顔を返してくれた。

「どうせだから二人とも泊まってけや。母ちゃんもいないし、シエルも喜ぶと思うし」

「私も泊まっていいの?」

 ソニアが驚いたように尋ねる。

「もちろん」

「じゃ、お言葉に甘えちゃおっと~」

 私は何となく気づいていた。ソニアはきっと、オーシャンのことが好きなのだ。いつもオーシャンの席の近くに来てちょっかいをかけているし、今だってすごく楽しそうに笑っている。彼女とオーシャンならお似合いな気がする。ティファニーとオーシャンよりも、どちらかというとカップルになって欲しいのはこの二人だ。
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