草花の祈り

たらこ飴

文字の大きさ
上 下
23 / 60

13. 留学生

しおりを挟む
 翌日は、朝から転校生の話題で持ちきりだった。

「俺、朝チラッと見たんだよ。先生と一緒に職員室に入ってくの!! 多分アジア人だと思う。中国とか、韓国とかそこら辺の……。すげー可愛い子だった!」

 興奮気味に言うオーシャン。

「可愛けりゃ誰でもいいわけ?」

 オーシャンの横、窓際にもたれて携帯をいじりながら、ソニアが呆れた顔をする。

「そういうんじゃねーけど……」

 その時ガラリと教室の扉が開いて、担任に引き連れられて長い黒髪のすらりと背の高い少女が入ってきた。彼女がホワイトボードを背に正面を向いた時、オーシャンが言っていたことが嘘ではなかったと分かった。きりっとした切長の黒い目が印象的で、透き通るような白い肌をしている。手脚も長く、身長は165センチほどか。

「転校生を紹介する。葛木かつらぎレンカさんだ。演劇を勉強したくて日本から留学してきたらしい。みんな、仲良くするように」

 自己紹介をするようにと促され、レンカはおずおずと口を開いた。あがり症なのか、顔を赤らめ、恥ずかしげに視線を俯けている。

「か……葛木レンカです、じゅ、16歳です……しゅ、趣味は……映画鑑賞と、漫画を読むこと……。実家で猫を飼ってます……以上です」

 もじもじと話し終えたレンカに、担任は真ん中の列の一番うしろ、ティファニーの隣の席に座るようにと指示した。フレンドリーなティファニーはレンカに向かって「ここよ、お嬢さん」と右手を振った。くすくすと笑い声が上がる。

 俯いたまま後ろの席に向かい、腰掛けるレンカ。よろしくねと囁きかけるティファニー。私が転校生なら、ティファニーの隣の席なんて絶対に遠慮したいところだ。隣の席が気遣い精神に溢れた優しいクレアで、後ろがお調子者のオーシャンであることに心から感謝した。
しおりを挟む

処理中です...