ロマンドール

たらこ飴

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55. 議論

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 寿司が出来上がり皆でテーブルを囲んで食べていると不意にタケオが切り出した。

「チャドはロマンドールで外国語映画賞を取りたがっているが、そのためにはラストシーンをもっとインパクトのあるものにするべきだと思うんだ」

「ミュージカル風なのは無し」

 透き通った紅い鰹の寿司を醤油につけながら即答する。ミュージカルは正直苦手だ。

「いいじゃない、ミュージカル。私は好きよ」

 ジョーダンが醤油さしを手にとって皿に継ぎ足す。

「だけど、あの映画に感動のラストって難しいわよ」と言いながらふとリビングのテレビに目をやる。画面では明らかに服の中にボールか何かを入れているだろうと思われるわざとらしいほど腹が膨らんだスチュワーデスが、スーツ姿の男に何事か喚き散らしている。

 いっそスペインドラマ風の脚本にしてしまうのもいいのではないか。そう思いついた私は次の筋書きを提案した。

 メイドのポーラは捨て子だったが実は伯爵と不倫相手マツエの子で、マツエが子を孕っていることを知らずに別れた伯爵はポーラが実子ということを知らなかった。マツエは出産後貧しさのあまり赤子のポーラを修道院の前に置き去りにするが、20年後のある日偶然修道院を訪れた際、ポーラが現在伯爵の家でメイドとして働いていることを神父から聞かされる。

 マツエはそのとき病気で余命1ヶ月だったためポーラと腹違いの兄であるゴンゾウにポーラを見守ってくれるように頼み、そのひと月後に命を落とす。そしてゴンゾウは伯爵宅で働き始める。ゴンゾウがいつもポーラを見つめていた理由ーー。それは妹の身に何か危険なことが起きぬよう見守っていたのだった。真実を知ったポーラは、殺人を企てていると疑いをかけられてクビになったゴンゾウを探しに行くが、彼を探し当てたときゴンゾウはサンマ船に乗り込む直前だった。

 そこまで話すとジョーダンは「いい話ね」とハンカチで目頭を抑え、ミシェルは「泣けるわ」と鼻を啜り、タケオは「いいんじゃね?」と1つだけ余った海老を尻尾ごと口に入れた。

「そこに警察がやってきて、サンマ船が実はヤバい奴らが人身売買に使うための船だったと分かった。ヤバい奴らが船から引き摺り出されている間、ゴンゾウはどさくさに紛れてサンマ船から降りて逃げ出す。そしてポーラとゴンゾウは和解し一緒に暮らすことになる。そこでミュージカルが始まるってのはどう?」

 ジョーダンはどうしても歌って踊って要素を取り入れたいらしい。戯けて即興の歌をミュージカル風に歌い出したジョーダンと、手を叩いて笑うミシェル。

「ミュージカルは却下」

 即座にミュージカル案を切り捨てようとした私に対しタケオが反論を述べる。

「いや、ミュージカルはいいぞ。この世の中には明るさってやつが必要だ。最後をミュージカルにするってのは明るさを体現する意味でいい考えだ」

 私にはタケオの言うことが何だかよく分からない。明るさが必要というのは理解できるが、絶対にミュージカルにする必要があるのかが疑問だ。とりあえずチャドとルーカスに相談してみようという話になってそのミーティングは終わった。
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