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49. 祖母からの電話
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シャワーを浴びたあとウミとともにゲーム部屋に戻り、いつも持ち歩いているタブレットPCの電源を入れ液晶の動画配信サービスのアイコンを選択した。この『ビッグバン・セオリー』は、大学院で学ぶ理系の天才オタク男子4人が、ブロンド美女や製薬会社で働く聡明な女子、脳神経学を学ぶ個性的な子という3人の女の子と出会い恋愛や研究をしたり遊んだり皆で一つの部屋に集まりジョークを言い合いながらご飯を食べたりという、賑やかな日々を映したシチュエーションコメディだ。
「アハハハ、こりゃあいいや」
私の予想通りこのドラマはウミの笑いのツボを刺激したようで、始まって間もなく腹を抱えて笑い出した。普段テレビに出てインタビューを受けてもパフォーマンス中であっても滅多に笑顔を見せない超ミステリアス・クールガールのウミが大爆笑している姿をYouTubeにアップしたら、再生回数だけで億万長者になれるかもしれない。
「あなたの笑ってる動画私のインスタに上げてもいい?」
「それはやめて。アハハハハ、おかしい!!」
ウミは一度ツボに入るとなかなか抜け出せないタイプらしい。ちょっとしたシーンが可笑しく感じるらしく涙を拭いながら笑っている。
12時過ぎた頃ウミの笑い声に呼応するかのようにスマートフォンの着信が鳴った。電話に出るなり穏やかな祖母の声が耳に流れ込んできた。
『リオ、今どこにいるの? お父さんとお母さんがすごく心配してるわ』
しまった、遊ぶのに夢中で家に連絡をするのをすっかり忘れていた。
「ごめんおばあちゃん、今友達の家にいるの。今日は遅いから泊まってくわ」
慌てて告げると祖母のセシルはいつものゆったりとした声で尋ねた。
『もしかして恋人?』
「違うの、ミュージシャンの友達。ウミっていう……」
『おやまあ、Umiってあの面白い曲を作る子よね』
祖母はよくリビングの藤椅子に腰掛けてテレビを観ている。年齢の割に若い芸能人に詳しいのはそのためだ。
ウミと友人であることを私は家族に話していなかった。普段あまり家で友達や仕事の話をしない。かといって決して寡黙というわけではなく、むしろ他の話題に関してはよく喋る方なのだが。
「そうよ、ウミってめちゃくちゃ才能あるうえに超クールなの。ゲームもすごい沢山持ってるし私なんかよりずっと上手いの。ずるいと思わない?」
祖母はふふふと笑った。
『そういう大スターに限って孤独を抱えてたりするものよ。エルビス・プレスリーもそうだし、カート・コバーンも……」
そのほかにもプリンスやマイケル・ジャクソンなど往年の大スターの名を羅列したあとで、祖母は続けた。
『気をつけて見ていた方がいいわ。プライドが邪魔をして言葉にできないだけで、その子は本当はすごく寂しいのかもしれないから』
電話を切ったあとふとウミの方に目をやる。最初に会った時に目にしたウミの悲しそうな瞳を思い出す。あれはもしかしたら祖母の言うような孤独のためだったのかもしれない。少なくとも今私の横で笑っているウミからネガティブな感情は一切感じられない。この笑顔が一時的なものだとしても、私や誰かといることで彼女の孤独が和らぐのであればそれでいい。
「アハハハ、こりゃあいいや」
私の予想通りこのドラマはウミの笑いのツボを刺激したようで、始まって間もなく腹を抱えて笑い出した。普段テレビに出てインタビューを受けてもパフォーマンス中であっても滅多に笑顔を見せない超ミステリアス・クールガールのウミが大爆笑している姿をYouTubeにアップしたら、再生回数だけで億万長者になれるかもしれない。
「あなたの笑ってる動画私のインスタに上げてもいい?」
「それはやめて。アハハハハ、おかしい!!」
ウミは一度ツボに入るとなかなか抜け出せないタイプらしい。ちょっとしたシーンが可笑しく感じるらしく涙を拭いながら笑っている。
12時過ぎた頃ウミの笑い声に呼応するかのようにスマートフォンの着信が鳴った。電話に出るなり穏やかな祖母の声が耳に流れ込んできた。
『リオ、今どこにいるの? お父さんとお母さんがすごく心配してるわ』
しまった、遊ぶのに夢中で家に連絡をするのをすっかり忘れていた。
「ごめんおばあちゃん、今友達の家にいるの。今日は遅いから泊まってくわ」
慌てて告げると祖母のセシルはいつものゆったりとした声で尋ねた。
『もしかして恋人?』
「違うの、ミュージシャンの友達。ウミっていう……」
『おやまあ、Umiってあの面白い曲を作る子よね』
祖母はよくリビングの藤椅子に腰掛けてテレビを観ている。年齢の割に若い芸能人に詳しいのはそのためだ。
ウミと友人であることを私は家族に話していなかった。普段あまり家で友達や仕事の話をしない。かといって決して寡黙というわけではなく、むしろ他の話題に関してはよく喋る方なのだが。
「そうよ、ウミってめちゃくちゃ才能あるうえに超クールなの。ゲームもすごい沢山持ってるし私なんかよりずっと上手いの。ずるいと思わない?」
祖母はふふふと笑った。
『そういう大スターに限って孤独を抱えてたりするものよ。エルビス・プレスリーもそうだし、カート・コバーンも……」
そのほかにもプリンスやマイケル・ジャクソンなど往年の大スターの名を羅列したあとで、祖母は続けた。
『気をつけて見ていた方がいいわ。プライドが邪魔をして言葉にできないだけで、その子は本当はすごく寂しいのかもしれないから』
電話を切ったあとふとウミの方に目をやる。最初に会った時に目にしたウミの悲しそうな瞳を思い出す。あれはもしかしたら祖母の言うような孤独のためだったのかもしれない。少なくとも今私の横で笑っているウミからネガティブな感情は一切感じられない。この笑顔が一時的なものだとしても、私や誰かといることで彼女の孤独が和らぐのであればそれでいい。
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