51 / 75
49. 祖母からの電話
しおりを挟む
シャワーを浴びたあとウミとともにゲーム部屋に戻り、いつも持ち歩いているタブレットPCの電源を入れ液晶の動画配信サービスのアイコンを選択した。この『ビッグバン・セオリー』は、大学院で学ぶ理系の天才オタク男子4人が、ブロンド美女や製薬会社で働く聡明な女子、脳神経学を学ぶ個性的な子という3人の女の子と出会い恋愛や研究をしたり遊んだり皆で一つの部屋に集まりジョークを言い合いながらご飯を食べたりという、賑やかな日々を映したシチュエーションコメディだ。
「アハハハ、こりゃあいいや」
私の予想通りこのドラマはウミの笑いのツボを刺激したようで、始まって間もなく腹を抱えて笑い出した。普段テレビに出てインタビューを受けてもパフォーマンス中であっても滅多に笑顔を見せない超ミステリアス・クールガールのウミが大爆笑している姿をYouTubeにアップしたら、再生回数だけで億万長者になれるかもしれない。
「あなたの笑ってる動画私のインスタに上げてもいい?」
「それはやめて。アハハハハ、おかしい!!」
ウミは一度ツボに入るとなかなか抜け出せないタイプらしい。ちょっとしたシーンが可笑しく感じるらしく涙を拭いながら笑っている。
12時過ぎた頃ウミの笑い声に呼応するかのようにスマートフォンの着信が鳴った。電話に出るなり穏やかな祖母の声が耳に流れ込んできた。
『リオ、今どこにいるの? お父さんとお母さんがすごく心配してるわ』
しまった、遊ぶのに夢中で家に連絡をするのをすっかり忘れていた。
「ごめんおばあちゃん、今友達の家にいるの。今日は遅いから泊まってくわ」
慌てて告げると祖母のセシルはいつものゆったりとした声で尋ねた。
『もしかして恋人?』
「違うの、ミュージシャンの友達。ウミっていう……」
『おやまあ、Umiってあの面白い曲を作る子よね』
祖母はよくリビングの藤椅子に腰掛けてテレビを観ている。年齢の割に若い芸能人に詳しいのはそのためだ。
ウミと友人であることを私は家族に話していなかった。普段あまり家で友達や仕事の話をしない。かといって決して寡黙というわけではなく、むしろ他の話題に関してはよく喋る方なのだが。
「そうよ、ウミってめちゃくちゃ才能あるうえに超クールなの。ゲームもすごい沢山持ってるし私なんかよりずっと上手いの。ずるいと思わない?」
祖母はふふふと笑った。
『そういう大スターに限って孤独を抱えてたりするものよ。エルビス・プレスリーもそうだし、カート・コバーンも……」
そのほかにもプリンスやマイケル・ジャクソンなど往年の大スターの名を羅列したあとで、祖母は続けた。
『気をつけて見ていた方がいいわ。プライドが邪魔をして言葉にできないだけで、その子は本当はすごく寂しいのかもしれないから』
電話を切ったあとふとウミの方に目をやる。最初に会った時に目にしたウミの悲しそうな瞳を思い出す。あれはもしかしたら祖母の言うような孤独のためだったのかもしれない。少なくとも今私の横で笑っているウミからネガティブな感情は一切感じられない。この笑顔が一時的なものだとしても、私や誰かといることで彼女の孤独が和らぐのであればそれでいい。
「アハハハ、こりゃあいいや」
私の予想通りこのドラマはウミの笑いのツボを刺激したようで、始まって間もなく腹を抱えて笑い出した。普段テレビに出てインタビューを受けてもパフォーマンス中であっても滅多に笑顔を見せない超ミステリアス・クールガールのウミが大爆笑している姿をYouTubeにアップしたら、再生回数だけで億万長者になれるかもしれない。
「あなたの笑ってる動画私のインスタに上げてもいい?」
「それはやめて。アハハハハ、おかしい!!」
ウミは一度ツボに入るとなかなか抜け出せないタイプらしい。ちょっとしたシーンが可笑しく感じるらしく涙を拭いながら笑っている。
12時過ぎた頃ウミの笑い声に呼応するかのようにスマートフォンの着信が鳴った。電話に出るなり穏やかな祖母の声が耳に流れ込んできた。
『リオ、今どこにいるの? お父さんとお母さんがすごく心配してるわ』
しまった、遊ぶのに夢中で家に連絡をするのをすっかり忘れていた。
「ごめんおばあちゃん、今友達の家にいるの。今日は遅いから泊まってくわ」
慌てて告げると祖母のセシルはいつものゆったりとした声で尋ねた。
『もしかして恋人?』
「違うの、ミュージシャンの友達。ウミっていう……」
『おやまあ、Umiってあの面白い曲を作る子よね』
祖母はよくリビングの藤椅子に腰掛けてテレビを観ている。年齢の割に若い芸能人に詳しいのはそのためだ。
ウミと友人であることを私は家族に話していなかった。普段あまり家で友達や仕事の話をしない。かといって決して寡黙というわけではなく、むしろ他の話題に関してはよく喋る方なのだが。
「そうよ、ウミってめちゃくちゃ才能あるうえに超クールなの。ゲームもすごい沢山持ってるし私なんかよりずっと上手いの。ずるいと思わない?」
祖母はふふふと笑った。
『そういう大スターに限って孤独を抱えてたりするものよ。エルビス・プレスリーもそうだし、カート・コバーンも……」
そのほかにもプリンスやマイケル・ジャクソンなど往年の大スターの名を羅列したあとで、祖母は続けた。
『気をつけて見ていた方がいいわ。プライドが邪魔をして言葉にできないだけで、その子は本当はすごく寂しいのかもしれないから』
電話を切ったあとふとウミの方に目をやる。最初に会った時に目にしたウミの悲しそうな瞳を思い出す。あれはもしかしたら祖母の言うような孤独のためだったのかもしれない。少なくとも今私の横で笑っているウミからネガティブな感情は一切感じられない。この笑顔が一時的なものだとしても、私や誰かといることで彼女の孤独が和らぐのであればそれでいい。
20
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
短編集:失情と采配、再情熱。(2024年度文芸部部誌より)
氷上ましゅ。
現代文学
2024年度文芸部部誌に寄稿した作品たち。
そのまま引っ張ってきてるので改変とかないです。作業が去年に比べ非常に雑で申し訳ない
“K”
七部(ななべ)
現代文学
これはとある黒猫と絵描きの話。
黒猫はその見た目から迫害されていました。
※これは主がBUMP OF CHICKENさん『K』という曲にハマったのでそれを小説風にアレンジしてやろうという思いで制作しました。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
私の神様は〇〇〇〇さん~不思議な太ったおじさんと難病宣告を受けた女の子の1週間の物語~
あらお☆ひろ
現代文学
白血病の診断を受けた20歳の大学生「本田望《ほんだ・のぞみ》」と偶然出会ったちょっと変わった太ったおじさん「備里健《そなえざと・けん」》の1週間の物語です。
「劇脚本」用に大人の絵本(※「H」なものではありません)的に準備したものです。
マニアな読者(笑)を抱えてる「赤井翼」氏の原案をもとに加筆しました。
「病気」を取り扱っていますが、重くならないようにしています。
希と健が「B級グルメ」を楽しみながら、「病気平癒」の神様(※諸説あり)をめぐる話です。
わかりやすいように、極力写真を入れるようにしていますが、撮り忘れやピンボケでアップできないところもあるのはご愛敬としてください。
基本的には、「ハッピーエンド」なので「ゆるーく」お読みください。
全31チャプターなのでひと月くらいお付き合いいただきたいと思います。
よろしくお願いしまーす!(⋈◍>◡<◍)。✧♡
【推しが114人もいる俺 最強!!アイドルオーディションプロジェクト】
RYOアズ
青春
ある日アイドル大好きな女の子「花」がアイドル雑誌でオーディションの記事を見つける。
憧れのアイドルになるためアイドルのオーディションを受けることに。
そして一方アイドルというものにまったく無縁だった男がある事をきっかけにオーディション審査中のアイドル達を必死に応援することになる物語。
果たして花はアイドルになることができるのか!?
鬼母(おにばば)日記
歌あそべ
現代文学
ひろしの母は、ひろしのために母親らしいことは何もしなかった。
そんな駄目な母親は、やがてひろしとひろしの妻となった私を悩ます鬼母(おにばば)に(?)
鬼母(おにばば)と暮らした日々を綴った日記。
ハルのてのひら、ナツのそら。
華子
恋愛
中学三年生のナツは、一年生の頃からずっと想いを寄せているハルにこの気持ちを伝えるのだと、決意を固めた。
人生で初めての恋、そして、初めての告白。
「ハルくん。わたしはハルくんが好きです。ハルくんはわたしをどう思っていますか」
しかし、ハルはその答えを教えてはくれなかった。
何度勇気を出して伝えてもはぐらかされ、なのに思わせぶりな態度をとってくるハルと続いてしまう、曖昧なふたりの関係。
ハルからどうしても「好き」だと言われたいナツ。
ナツにはどうしても「好き」だと言いたくないハル。
どちらも一歩もゆずれない、切ない訳がそこにはあった。
表紙はフリーのもの。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる