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47. ゲーム部屋
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私はいつもの流れで勝手に黒いテーブルの上に置いてあるGS5の電源を入れ、持ってきたトワイライト・エクスプレスのソフトを入れたあとでウミの横に腰掛けた。テーブルの上、投げ出されるように置かれたワイヤレスのコントローラーを握りしめると、私は何か言いたげな雰囲気を醸し出している友人に向かってひと言忠告を入れた。
「過度なネタバレは禁止な」
今日のウミはやけに落ち着きがない。何があっても落ち着き払っているいつものクールな彼女とは別人のようだ。
「ネタバレはしない。ただあなたがここにいてくれるのが嬉しい」
ウミがこんな台詞を口にするのは非常に珍しい。ただ口にしないだけで私も同じ気持ちだった。生きるか死ぬかの瀬戸際の体験をしてみて身に染みて分かる。以前のように友人と同じ時間を共有し楽しみを分かち合える有り難みを。
「私も嬉しいよ。こうして生きて、友達とずっとやりたかったゲームができてることが」
神様は何を思って私と目の前のスターを出会わせたのだろう。確かなことはこの出会いが、一生のゲーム仲間を見つけるという以上の特別な意味を持っているであろうこと。
「考えたんだ、もしもあなたが死んでたらって。そしたら真っ暗だった。まるでマフィア映画みたいに、手足を縛られて車のトランクの中に放り込まれたみたいに。凄く苦しくて真っ暗で……いっそここまま消えてしまいたくなるような」
普段は感情の浮き沈みが少なくて私よりずっと大人びて見える友人が、今にも泣き出しそうな悲痛な表情を浮かべている。なお物言いたげなその瞳が私の姿を真っ直ぐに捉えたときある考えが脳裏を掠め、それを必死に打ち消した。
液晶画面にゲームの最初の画面が現れる。STARTの文字にカーソルを合わせ決定ボタンを押す。
「珍しくエモーショナルだね」
呑気な私のコメントにウミはやや憮然とした表情を浮かべた。
「そりゃそうだよ、大切な人が怪我して意識不明になってたなんて聞いたら誰だって……」
ウミは私の怪我のことをニコルからつい1時間前にメールで聞かされたらしい。そのとき最新のアルバムについてオンラインで打ち合わせ中だったが、私の元に駆けつけるため無理やり会議を中断し、出かけようとしていたところにちょうど私が来たらしい。
ウミと関わりを持ってからというもの、私はそれまで以上に彼女の曲を頻繁に聴くようになっていた。アルバムにしか収録されていない曲、デビュー前に作ったマイナーな曲も。ウミの音楽が好きなのは単純に彼女が歌う声と曲調と詩が好みだという理由もあるが、音楽と歌詞の中にウミという一筋縄ではいかない、複雑で屈折した人間性が現れている気がして興味深かったのだ。
ウミの口から出た「大切」という言葉は、彼女の曲の歌詞の中にすら滅多に見当たらないものだ。そんな言葉をかけるということは、少なくとも私のことをかけがえのない仲間の一人として認識してくれているということなのだろう。
私は俯いているウミに打ち明けた。
「テーブルの角に頭ぶつけたとき、ああ、私このまま死ぬんだなって思ったの。だけど生きてて。目が覚めて安心したのも束の間、やっぱりこの世は理不尽なんだってことに気付かされてすごく頭に来た」
ウミは静かに私の話に耳を傾けている。ゲームのプロローグ、紺色の背景に血液を思わせるどす黒い赤色のタイトル。画面の下、緑の線で囲まれた白い枠の中に黒い機械的な文字が次々と羅列されていく。文字を追うことをほとんど放棄している私の耳にウミの声が響く。
「私は音楽という手段で腐った世の中に立ち向かう。あなたはもっと別の方法なのかもしれない。どんな形であれ、その手段があるのとないのとでは違う」
先ほどよりいくらか落ち着いた、だが強い意志の込められた口調でウミは言った。祖父は行動を起こすことで世の中の理不尽さと闘った。多くの人を愛し、助け、導くことのできる類稀な存在だった。一方で私にはどんな武器があるのだろう。世の中のシステムを大きく変えることなどできなくても、その中で強く生きていくために必要なものを私は持っているのだろうか。
その後私はウミにガイドをしてもらいながら夢中でゲームをプレイし続けた。気づいたときには22時を過ぎていて、帰ろうと立ち上がりかけた私をウミは止めた。
「泊まってったら? こんな連休なんて滅多にないでしょ? せっかく会えたんだしもう少しいてよ。夜中までゲームしててもいいし、2階の部屋使ってゴロゴロしててもいいしさ」
ウミの提案は魅力的だった。この豪邸に一晩泊まるだけでも沢山な、ゲームを自由にしていいしホテルのような広い部屋を好き放題使って良いと言うのだから。
「仕方ないな、じゃあせっかくだから泊まってやろう。あ、ピザ頼んでもOK?」
尋ねるとウミは嬉しそうに頷いた。
「もちろん」
「過度なネタバレは禁止な」
今日のウミはやけに落ち着きがない。何があっても落ち着き払っているいつものクールな彼女とは別人のようだ。
「ネタバレはしない。ただあなたがここにいてくれるのが嬉しい」
ウミがこんな台詞を口にするのは非常に珍しい。ただ口にしないだけで私も同じ気持ちだった。生きるか死ぬかの瀬戸際の体験をしてみて身に染みて分かる。以前のように友人と同じ時間を共有し楽しみを分かち合える有り難みを。
「私も嬉しいよ。こうして生きて、友達とずっとやりたかったゲームができてることが」
神様は何を思って私と目の前のスターを出会わせたのだろう。確かなことはこの出会いが、一生のゲーム仲間を見つけるという以上の特別な意味を持っているであろうこと。
「考えたんだ、もしもあなたが死んでたらって。そしたら真っ暗だった。まるでマフィア映画みたいに、手足を縛られて車のトランクの中に放り込まれたみたいに。凄く苦しくて真っ暗で……いっそここまま消えてしまいたくなるような」
普段は感情の浮き沈みが少なくて私よりずっと大人びて見える友人が、今にも泣き出しそうな悲痛な表情を浮かべている。なお物言いたげなその瞳が私の姿を真っ直ぐに捉えたときある考えが脳裏を掠め、それを必死に打ち消した。
液晶画面にゲームの最初の画面が現れる。STARTの文字にカーソルを合わせ決定ボタンを押す。
「珍しくエモーショナルだね」
呑気な私のコメントにウミはやや憮然とした表情を浮かべた。
「そりゃそうだよ、大切な人が怪我して意識不明になってたなんて聞いたら誰だって……」
ウミは私の怪我のことをニコルからつい1時間前にメールで聞かされたらしい。そのとき最新のアルバムについてオンラインで打ち合わせ中だったが、私の元に駆けつけるため無理やり会議を中断し、出かけようとしていたところにちょうど私が来たらしい。
ウミと関わりを持ってからというもの、私はそれまで以上に彼女の曲を頻繁に聴くようになっていた。アルバムにしか収録されていない曲、デビュー前に作ったマイナーな曲も。ウミの音楽が好きなのは単純に彼女が歌う声と曲調と詩が好みだという理由もあるが、音楽と歌詞の中にウミという一筋縄ではいかない、複雑で屈折した人間性が現れている気がして興味深かったのだ。
ウミの口から出た「大切」という言葉は、彼女の曲の歌詞の中にすら滅多に見当たらないものだ。そんな言葉をかけるということは、少なくとも私のことをかけがえのない仲間の一人として認識してくれているということなのだろう。
私は俯いているウミに打ち明けた。
「テーブルの角に頭ぶつけたとき、ああ、私このまま死ぬんだなって思ったの。だけど生きてて。目が覚めて安心したのも束の間、やっぱりこの世は理不尽なんだってことに気付かされてすごく頭に来た」
ウミは静かに私の話に耳を傾けている。ゲームのプロローグ、紺色の背景に血液を思わせるどす黒い赤色のタイトル。画面の下、緑の線で囲まれた白い枠の中に黒い機械的な文字が次々と羅列されていく。文字を追うことをほとんど放棄している私の耳にウミの声が響く。
「私は音楽という手段で腐った世の中に立ち向かう。あなたはもっと別の方法なのかもしれない。どんな形であれ、その手段があるのとないのとでは違う」
先ほどよりいくらか落ち着いた、だが強い意志の込められた口調でウミは言った。祖父は行動を起こすことで世の中の理不尽さと闘った。多くの人を愛し、助け、導くことのできる類稀な存在だった。一方で私にはどんな武器があるのだろう。世の中のシステムを大きく変えることなどできなくても、その中で強く生きていくために必要なものを私は持っているのだろうか。
その後私はウミにガイドをしてもらいながら夢中でゲームをプレイし続けた。気づいたときには22時を過ぎていて、帰ろうと立ち上がりかけた私をウミは止めた。
「泊まってったら? こんな連休なんて滅多にないでしょ? せっかく会えたんだしもう少しいてよ。夜中までゲームしててもいいし、2階の部屋使ってゴロゴロしててもいいしさ」
ウミの提案は魅力的だった。この豪邸に一晩泊まるだけでも沢山な、ゲームを自由にしていいしホテルのような広い部屋を好き放題使って良いと言うのだから。
「仕方ないな、じゃあせっかくだから泊まってやろう。あ、ピザ頼んでもOK?」
尋ねるとウミは嬉しそうに頷いた。
「もちろん」
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