ロマンドール

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69. 銀の猫

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 午前10時から式が始まる。スペインの超有名な俳優や女優、歌手、モデルなどがカードを持って壇上に立ち受賞俳優や作品の名前を読み上げていく。司会者の言っていることや受賞者が涙ながらにするスピーチはスペイン語で何を言っているか分からなかったが、会場の空気と受賞者の感情に呑まれて何度も泣きそうになった。

 そうこうするうちに遂に外国語映画賞の発表の時がやってきた。

 私たちの制作した映画のタイトル『リンク』が読み上げられた時、私たち役者とチャドとルーカス、ルーシーとジョーダン、その他スタッフの面々は歓声を上げて立ち上がり互いに抱き合って喜びを分かち合った。

 舞台の上で銀色の猫のトロフィーを手にしたチャドは号泣していた。チャドは涙を何度も拭い声を震わせながらスペイン語でスピーチをした。

「俺はスペインから英国に渡った移民で、これまで沢山辛い思いをした。監督になるという子どものときからの夢を叶えるために必死で頑張ったが一筋縄ではいかなかった。そんなとき俺を励ましたのは今は亡き友達のーーパウロの背中だった。彼は俺と同じスペインの移民で、数え切れない苦難を乗り越えてホテルの最高責任者にまでなった。彼の姿を見ていたから俺もここまで頑張れたんだ。お陰で夢を叶えられた。ある監督にはクソ映画だとか言われたが、そんなことねぇぞ!幸せすぎて死んじまいそうだ! 俳優もスタッフもダンサーの一般人たちも皆最高な奴らばっかだ! 本当にありがとう! このトロフィーはパウロと、俺を支えてくれた関係者全員に送る!!」

 チャドは自分の左の手にキスをし、トロフィーを持った右手と左手を天に掲げてみせた。客席から観ていた私たちも感極まってもらい泣きした。祖父の名前が出てきた時点でもう私の涙腺は決壊していた。こんなに胸が温かくいっぱいになる受賞式は後にも先にもないだろうと思った。

 私の隣のタケオは涙と鼻水を垂らしまくって大声で泣いていた。後から聞いたところによると題名を呼ばれて勢いよく立ち上がったときに、ポケットに入れていた新品のスマートフォンを床に落とし画面が割れてしまったのだという。
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