ロマンドール

たらこ飴

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65. ミュージカル

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 翌朝私とニコルは、チャドとルーカスと個室にこもって話をした。だが2人はラストをミュージカルにするという意見を決して曲げることはなかった。

「どうせこれが俺の最初で最後の映画だ。どうせならパーっと明るく終わりたいんだよ」

 チャドのこんな言葉を聞いてしまったらこれ以上反論できっこなかった。私は腹を括ることに決めた。

「それなら私達と一緒に歌って踊ってくれる人たちを集めないといけないでしょ? 別にプロのダンサーやシンガーである必要はないし、たとえ一般人でも色んなバックグラウンドを持つ人たちを集めた方が良いような気がするんだよね」

 私はチャドにそんな提案をした。

「良い考えだ。その方がメッセージ性があるし、何より楽しそうだ」

 チャドは白い歯を見せて笑った。

 その後1週間でチャドはあちこちから一般人をスカウトしてきた。誰も彼もダンスや歌に関しては全くの素人だったが、ジャグリングで世界チャンピオンになったというメキシコ人のおじいさんや、夕飯の後にサンポーニャという民族楽器を使って『ガンジス川』を演奏することが日課というペルー人の中年女性、世界中のコインを集めるのが趣味というイエメン系の男の子など、個性豊かな顔ぶればかりだった。映画のラスト5分は、総勢100名ほどの一般人と私たち俳優陣が歌って踊るというかなりカオスな流れになるが、ユニークすぎる一般人たちと顔を合わせたときにはもうやるしかないと開き直っていた。

 一般人たちとの顔合わせの日、ブルーベルは脚本をもらって読んで一晩で書き上げたという曲を持って来た。どいつもこいつも天才か。天才なのか。

 ボイストレーナーや振付師を雇う予算は流石にないので、子供の頃にダンススクールに通っていた経験があるニコルが振り付けを考え、元々ミュージカル俳優になりたくてピアノと声楽をかじっていたジョーダンがボイストレーニングをすることになり、撮影と並行して練習が始まった。もちろん大勢の一般人も一緒に。

 最初子供のお遊戯会のようだったダンスも、ダンストレーナー顔負けのニコルの鬼のようなスパルタ指導により段々と見られるレベルに近づいてきた。リズム感も運動神経も皆無な私のダンスには、依然としてキレもメリハリもないが。
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