ロマンドール

たらこ飴

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61. 贈り物

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 夕方家に帰ると、キッチンにいた母がこちらを見もせずに言った。

「あなたに贈り物が届いてるわよ、部屋に置いといた」

 2階の自室の床の上にはプレゼントの入っているらしい箱が大量に置いてあった。そういえば昨日はバレンタインだった。しかし今年に限って何でこんなにが多いんだろう。クレアやミアから来ているのは純粋な友チョコというやつだろう。だがパーティーで少し話しただけの相手や、面識のない芸能人からも届いているというのは不思議な話だ。
 
「ちゃんとお返ししなさいよ」

 声のした方に目をやると、相変わらず憮然とした様子の母が腕組みしながら開け放たれた部屋の入口に立っていた。

「へいへい」

 適当に答えながら、ふと手に取った緑色の包みに目を留める。送り人の名前はない。まさか爆弾とかじゃないよな。警戒しながら恐る恐る封を切ると、中には新発売のavant-gardeアヴァン・ギャルドのポータブルゲームプレイヤーが入っていた。一緒に小さな手紙も。

『チョコレートの代わりに、愛を込めて』

 そこでピンときた。これを送って来たのはウミに違いない。私の趣味のストライクゾーンを抉ってくる人間は彼女以外に考えられない。問題はこれが3万円相当の品だということ。このような高価なものをもらうのは流石に気が引ける。返そう。そう思いウミに電話をかける。

『もしもし?』

 何コールか鳴ったあとでウミの声が届く。街中にでもいるのか、何やら辺りはがやがやと騒がしい。

「avant-gardeのゲーム機くれたのってあなた?」

『よく分かったね』

「あんな高いの、申し訳ないから返すよ」

『いや、いい。いつもお世話になってるし』

 むしろお世話になっているのは私の方だ。もう一度口を開きかけたときウミが早口で話し出した。

『今MVの撮影でバーミンガムに来てるんだ。申し訳ないけどそろそろ切るね、また』

 一方的に通話の切られたスマートフォンを側に置き、どうしたものかと考えあぐねる。こんな高価なものを貰っておいてお返しがチョコ1枚では流石に申し訳ない。ウミならそれでもいいと言ってくれるかもしれないが甘えすぎてはいけない。彼女には日頃相談に乗ってもらったり家に泊めてもらったり、映画の挿入歌まで歌ってもらって申し訳ないくらいの世話になりようだ。何か良いお返しはないものか。

 考えても考えても良いアイデアは浮かばなかったため母に相談したら、「何かご当地グルメをあげたら?」とトンチンカンな答えが返ってきた。ウミは同じロンドンに住んでいると言ったら今度は「洗剤とかコーヒーの詰め合わせはどう?」などと言い出した。親戚同士で贈り合うお祝いの品と訳が違うのだ。母に相談するんじゃなかった。

 ウミの最新の曲、大人気アニメの主題歌にもなった"Mud Scientistマッド・サイエンティスト"を聴きながら連想した。ウミといえば音楽、音楽に必要な道具は何だろう? 最初に会った日ウミがDJブースでつけていたものーーそうだ、ヘッドフォンをプレゼントしよう。何て良いアイデアなんだろう、今日の私はいつになく冴えているぞ。

 今日は母が目を光らせているからもう外出は不可能なので、この謹慎期間が明けたら買い物をすることにした。
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