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38. ゴンゾウ

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 今現在撮影している箇所の筋書きは以下の通りだ。

 私演じる召使いのポーラは真夜中に伯爵の書斎にこっそり忍び込み、庭師が登場するサイコスリラー系のホラー小説を読む。それが原因でタケオ演じる庭師のゴンゾウが実はシリアルキラーで、庭バサミを使った一家惨殺を目論んでいるのではないかというとんでもないストーリーを脳内で作り出してしまう。何故ならゴンゾウはポーラのことをいつも庭影からじっと見つめているからだ。

 ポーラはゴンゾウが自分を殺したあと、伯爵一家を惨殺しこの家と財産を乗っ取るつもりなのではないかと推察する。

 彼が殺人鬼かも知れない旨を告げると臆病で騙されやすい伯爵は本気にしてしまい、恐怖のあまり夜眠れなくなる。伯爵はポーラに庭師を監視するように命令をする。ポーラは探偵になったつもりでゴンゾウの後をつけ陰から行動を盗み見る。だがゴンゾウはポーラの行動を好意と勘違いし、ある日彼女の真意を確かめるべく庭バサミを持ったまま近づこうとする。彼が自分を殺そうとしているのだと勘違いしたポーラはゴンゾウから逃げて一家を救おうと奮闘するが、誤解が誤解を呼んで混乱が起こり空回りする。

「アクション!」

 チャドの一声でポーラとゴンゾウの中庭での誤解のシーンの撮影が始まる。

 庭で一人神妙な様子で考えごとをしているポーラの元に、庭バサミを持ったゴンゾウがやってきて声をかける。

『ポーラ……隠さなくていいんだ。私は(君の気持ちには)ちゃんと気づいている』

 彼の台詞を読み違えたために、シリアルキラーである相手の正体を見抜いてしまったことがばれ殺されると思い込んだポーラは、蒼白になって後ずさる。

『こ、来ないで……。私は何も知らない』

 ポーラが自分を殺人鬼と思い込んでいるとを知らないゴンゾウは、彼女の拒絶を好意の裏返しだと思い込む。

『何も怖がる必要なんてないさ』

 スーパー素人タケオの台詞があまりに棒読みすぎて恐怖をおぼえるレベルだ。このときの私は自分がポンコツ大根と呼ばれた過去は棚に上げ笑いを堪えるのに必死だった。

『私をどうする気なの?』

 笑いを殺そうとしているために声が自然に震えてしまう。彼の棒読みは一周回って武器になるレベルだ。

『何もしない。ただ仲良くなりたいんだ』

 殺人鬼がその家の人間に取り入ろうとするのはホラー映画ではよくある展開だ。ポーラはどうやって生き延びようかと必死で考える。そしてあることを思い付いた。ゴンゾウを催眠術にかけるのだ。

『ゴンゾウ、目を瞑って』

 ゴンゾウはポーラに言われた通りキツく目を閉じる。

『そう……。そして3回深呼吸をして。はい、いいですよ。そのあと、自分が深い森の中に入っていくことを想像してください。そのままあなたの魂は前世の記憶と結びつきます』

 ポーラはじりじりと後退を続けそのまま逃走することに成功する。ゴンゾウが目を開けた時には彼女の姿はなかった。
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