ロマンドール

たらこ飴

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46. 突撃

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 夕方アリーシャから貰ったゲームを自慢しようとウミの家に向かった。ゲームに関する情報収集に余念がない彼女には、いつも最新のゲームが出るたび先を越されていた。彼女はレアなゲームをいち早く手に入れさりげなく部屋に飾っていて、貸してと頼むといいよといつもあっさり貸してくれた。が、さすがの彼女も今日ばかりは驚くに違いない。

 車を路肩に停めウミ宅のインターフォンを鳴らした。バタバタと廊下を走る音がして扉が開くなり、強い力で抱きしめられた。驚きのあまり暫く身動きがとれなかった。

「……どうしたん?」

 思わず声が漏れる。手に持ったゲームソフトを見せびらかす間もなく棒立ちになる私。一体この状況は何だ。ウミはどうしてしまったんだろう。そういえば最近新しいアルバムの制作で忙しいと言っていたっけ。曲作りに疲れて頭がどうかしてしまったんだろうか。

「ニコルからあなたが怪我をして病院に運ばれたってメールで聞いた。良かった……生きてて」

 ウミの声は震えていた。

「そりゃ生きてるよ。ここで死んだら何にもならんでしょーが」

 感情的なウミに対し平然と言い放つ私。この温度差を国に例えるならばウミが夏のゴビ砂漠で私が冬のゴビ砂漠といったところか。国じゃないけど。砂漠だけど。

「あなたのことが心配でどうにかなりそうだった。今ちょうど会いに行こうと思ってたところだったんだ。本当はもっと早く行くつもりだったんだけど、オンラインでの仕事の打ち合わせが長引いて……」

「心配かけてすまんかった」

 私は珍しく感情的になって涙目のウミの肩を2度ほど叩いたあと本題のゲームを見せた。

「これ友達がくれたんだ。すごくない? プレミアもんだよ」

 友人はふっと目を細めて、「それなら持ってるよ」と答えた。

 まるで隕石が頭に落下したかのような衝撃を受け、心の中でエクソシストに出てくる少女さながらの白目を剥く。

「マジ?」

「うん。言ってくれたら貸したのに」

 とりあえず入って、とウミは中に入るように促した。

地下のゲーム部屋に向かいながら、普段やることでスケジュールが埋め尽くされているために休養1日目にして暇で暇で仕方なかった旨を話すと、ウミはだろうねと短く相槌を打った。

「私も忙しくしてるから、いざ休みになると何して良いかわからない」

 ゲーム部屋に招き入れられ、相変わらず壁際の棚にぎっしりと並べられたゲームのコレクションを眺めながら「マジでここに住みたい」と漏らしたらウミは笑った。

「貸して欲しいのがあったらまたいつでも言って。家にいるのは退屈だろうし、万一借りパクされたとしても恨まないから」

 冗談か本気か分からないがのび太に対するドラえもん並みに寛容すぎる台詞を口にしたウミは、よっこらしょという謎の掛け声とともにソファに腰掛けた。
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