48 / 75
46. 突撃
しおりを挟む
夕方アリーシャから貰ったゲームを自慢しようとウミの家に向かった。ゲームに関する情報収集に余念がない彼女には、いつも最新のゲームが出るたび先を越されていた。彼女はレアなゲームをいち早く手に入れさりげなく部屋に飾っていて、貸してと頼むといいよといつもあっさり貸してくれた。が、さすがの彼女も今日ばかりは驚くに違いない。
車を路肩に停めウミ宅のインターフォンを鳴らした。バタバタと廊下を走る音がして扉が開くなり、強い力で抱きしめられた。驚きのあまり暫く身動きがとれなかった。
「……どうしたん?」
思わず声が漏れる。手に持ったゲームソフトを見せびらかす間もなく棒立ちになる私。一体この状況は何だ。ウミはどうしてしまったんだろう。そういえば最近新しいアルバムの制作で忙しいと言っていたっけ。曲作りに疲れて頭がどうかしてしまったんだろうか。
「ニコルからあなたが怪我をして病院に運ばれたってメールで聞いた。良かった……生きてて」
ウミの声は震えていた。
「そりゃ生きてるよ。ここで死んだら何にもならんでしょーが」
感情的なウミに対し平然と言い放つ私。この温度差を国に例えるならばウミが夏のゴビ砂漠で私が冬のゴビ砂漠といったところか。国じゃないけど。砂漠だけど。
「あなたのことが心配でどうにかなりそうだった。今ちょうど会いに行こうと思ってたところだったんだ。本当はもっと早く行くつもりだったんだけど、オンラインでの仕事の打ち合わせが長引いて……」
「心配かけてすまんかった」
私は珍しく感情的になって涙目のウミの肩を2度ほど叩いたあと本題のゲームを見せた。
「これ友達がくれたんだ。すごくない? プレミアもんだよ」
友人はふっと目を細めて、「それなら持ってるよ」と答えた。
まるで隕石が頭に落下したかのような衝撃を受け、心の中でエクソシストに出てくる少女さながらの白目を剥く。
「マジ?」
「うん。言ってくれたら貸したのに」
とりあえず入って、とウミは中に入るように促した。
地下のゲーム部屋に向かいながら、普段やることでスケジュールが埋め尽くされているために休養1日目にして暇で暇で仕方なかった旨を話すと、ウミはだろうねと短く相槌を打った。
「私も忙しくしてるから、いざ休みになると何して良いかわからない」
ゲーム部屋に招き入れられ、相変わらず壁際の棚にぎっしりと並べられたゲームのコレクションを眺めながら「マジでここに住みたい」と漏らしたらウミは笑った。
「貸して欲しいのがあったらまたいつでも言って。家にいるのは退屈だろうし、万一借りパクされたとしても恨まないから」
冗談か本気か分からないがのび太に対するドラえもん並みに寛容すぎる台詞を口にしたウミは、よっこらしょという謎の掛け声とともにソファに腰掛けた。
車を路肩に停めウミ宅のインターフォンを鳴らした。バタバタと廊下を走る音がして扉が開くなり、強い力で抱きしめられた。驚きのあまり暫く身動きがとれなかった。
「……どうしたん?」
思わず声が漏れる。手に持ったゲームソフトを見せびらかす間もなく棒立ちになる私。一体この状況は何だ。ウミはどうしてしまったんだろう。そういえば最近新しいアルバムの制作で忙しいと言っていたっけ。曲作りに疲れて頭がどうかしてしまったんだろうか。
「ニコルからあなたが怪我をして病院に運ばれたってメールで聞いた。良かった……生きてて」
ウミの声は震えていた。
「そりゃ生きてるよ。ここで死んだら何にもならんでしょーが」
感情的なウミに対し平然と言い放つ私。この温度差を国に例えるならばウミが夏のゴビ砂漠で私が冬のゴビ砂漠といったところか。国じゃないけど。砂漠だけど。
「あなたのことが心配でどうにかなりそうだった。今ちょうど会いに行こうと思ってたところだったんだ。本当はもっと早く行くつもりだったんだけど、オンラインでの仕事の打ち合わせが長引いて……」
「心配かけてすまんかった」
私は珍しく感情的になって涙目のウミの肩を2度ほど叩いたあと本題のゲームを見せた。
「これ友達がくれたんだ。すごくない? プレミアもんだよ」
友人はふっと目を細めて、「それなら持ってるよ」と答えた。
まるで隕石が頭に落下したかのような衝撃を受け、心の中でエクソシストに出てくる少女さながらの白目を剥く。
「マジ?」
「うん。言ってくれたら貸したのに」
とりあえず入って、とウミは中に入るように促した。
地下のゲーム部屋に向かいながら、普段やることでスケジュールが埋め尽くされているために休養1日目にして暇で暇で仕方なかった旨を話すと、ウミはだろうねと短く相槌を打った。
「私も忙しくしてるから、いざ休みになると何して良いかわからない」
ゲーム部屋に招き入れられ、相変わらず壁際の棚にぎっしりと並べられたゲームのコレクションを眺めながら「マジでここに住みたい」と漏らしたらウミは笑った。
「貸して欲しいのがあったらまたいつでも言って。家にいるのは退屈だろうし、万一借りパクされたとしても恨まないから」
冗談か本気か分からないがのび太に対するドラえもん並みに寛容すぎる台詞を口にしたウミは、よっこらしょという謎の掛け声とともにソファに腰掛けた。
20
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
短編集:失情と采配、再情熱。(2024年度文芸部部誌より)
氷上ましゅ。
現代文学
2024年度文芸部部誌に寄稿した作品たち。
そのまま引っ張ってきてるので改変とかないです。作業が去年に比べ非常に雑で申し訳ない
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
私の神様は〇〇〇〇さん~不思議な太ったおじさんと難病宣告を受けた女の子の1週間の物語~
あらお☆ひろ
現代文学
白血病の診断を受けた20歳の大学生「本田望《ほんだ・のぞみ》」と偶然出会ったちょっと変わった太ったおじさん「備里健《そなえざと・けん」》の1週間の物語です。
「劇脚本」用に大人の絵本(※「H」なものではありません)的に準備したものです。
マニアな読者(笑)を抱えてる「赤井翼」氏の原案をもとに加筆しました。
「病気」を取り扱っていますが、重くならないようにしています。
希と健が「B級グルメ」を楽しみながら、「病気平癒」の神様(※諸説あり)をめぐる話です。
わかりやすいように、極力写真を入れるようにしていますが、撮り忘れやピンボケでアップできないところもあるのはご愛敬としてください。
基本的には、「ハッピーエンド」なので「ゆるーく」お読みください。
全31チャプターなのでひと月くらいお付き合いいただきたいと思います。
よろしくお願いしまーす!(⋈◍>◡<◍)。✧♡
【推しが114人もいる俺 最強!!アイドルオーディションプロジェクト】
RYOアズ
青春
ある日アイドル大好きな女の子「花」がアイドル雑誌でオーディションの記事を見つける。
憧れのアイドルになるためアイドルのオーディションを受けることに。
そして一方アイドルというものにまったく無縁だった男がある事をきっかけにオーディション審査中のアイドル達を必死に応援することになる物語。
果たして花はアイドルになることができるのか!?
鬼母(おにばば)日記
歌あそべ
現代文学
ひろしの母は、ひろしのために母親らしいことは何もしなかった。
そんな駄目な母親は、やがてひろしとひろしの妻となった私を悩ます鬼母(おにばば)に(?)
鬼母(おにばば)と暮らした日々を綴った日記。

ハルのてのひら、ナツのそら。
華子
恋愛
中学三年生のナツは、一年生の頃からずっと想いを寄せているハルにこの気持ちを伝えるのだと、決意を固めた。
人生で初めての恋、そして、初めての告白。
「ハルくん。わたしはハルくんが好きです。ハルくんはわたしをどう思っていますか」
しかし、ハルはその答えを教えてはくれなかった。
何度勇気を出して伝えてもはぐらかされ、なのに思わせぶりな態度をとってくるハルと続いてしまう、曖昧なふたりの関係。
ハルからどうしても「好き」だと言われたいナツ。
ナツにはどうしても「好き」だと言いたくないハル。
どちらも一歩もゆずれない、切ない訳がそこにはあった。
表紙はフリーのもの。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる