ロマンドール

たらこ飴

文字の大きさ
上 下
18 / 75

16. ミシェル

しおりを挟む
 ミシェルが帰ってきたのは午後の3時過ぎだった。彼女は最初、出かける前よりも更に散らかった家の状態を見てあんぐりと口を開けていた。遊び疲れたベンとポニーはリビングのソファで寄り添い合いながら眠っている。

 私はミシェルと一緒に散らかった部屋の後片付けをしたあと、疲れ切って帰ろうとしたところを呼び止められた。彼女は私にメキシカン料理の店からテイクアウトしてきたらしい、中からチリソースの匂いのする金具の持ち手の付いたフードボックスを渡しお礼を言った。

「リオ、今日はありがとう。助かったわ。せっかくの休みを子守りに使わせちゃって、悪かったわね」

「ううん、何だかんだで楽しかった。ベンとポニーはどっちも面白い子ね」

「まぁね。いつも喧嘩ばっかしてるし、すごいうるさいけど」

「ニーナへのプレゼント、無事に見つかったの?」

「うん。アクセサリーも良いかなって思ったんだけど、彼女が本が好きだって言ってたから、ブックカバーと栞にしたわ」

「ナイスなチョイスだね」

 ミシェルはおもむろにこの間のウミ宅でのパーティのことに触れた。

「そういえばさ、あの時ウミとプールで何話してたの?」

「何って?」

「なんかプールサイドで並んで、いい感じで話してたじゃない」

 私の脇腹を突きながら、意味深な笑みを浮かべる友人に向かって首を振る。

「あぁ、別にそういうんじゃない。お互いのことをちょっと話しただけ」

「ふーん。実は私さ、昨日ウミに振られたのよ」

「マジ?」 

 その情報は初耳だった。ミシェルがウミと知り合いだということは知っていたが、彼女がウミに恋をしていたことすら知らなかった。

「1ヶ月くらい前からメールをしてて、好きだって告白したら振られた。理由は、『気になる人がいるから』だって」

 プールで話したとき、ウミはそんなこと一言も言っていなかった。第一に私と同じで恋愛に対してそれほど興味がなさそうだったし、誰かと付き合うなんてまっぴら御免というようにすら見えたのに。

「ウミって恋愛に興味なさそうなのに」

「私もそう思ってたわ。メールの返信も日に1回あればいい方だし、電話は基本仕事してるからって出ないし。だけど昨日分かった。彼女は私に興味がなかっただけ。そして、これは勘なんだけどーー」

 そのとき玄関でチャイムが鳴り響いた。ニーナが到着したらしい。ミシェルは言いかけた言葉をそのままにして、バタバタと玄関に向かって駆けて行った。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

短編集:失情と采配、再情熱。(2024年度文芸部部誌より)

氷上ましゅ。
現代文学
2024年度文芸部部誌に寄稿した作品たち。 そのまま引っ張ってきてるので改変とかないです。作業が去年に比べ非常に雑で申し訳ない

“K”

七部(ななべ)
現代文学
これはとある黒猫と絵描きの話。 黒猫はその見た目から迫害されていました。 ※これは主がBUMP OF CHICKENさん『K』という曲にハマったのでそれを小説風にアレンジしてやろうという思いで制作しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

私の神様は〇〇〇〇さん~不思議な太ったおじさんと難病宣告を受けた女の子の1週間の物語~

あらお☆ひろ
現代文学
白血病の診断を受けた20歳の大学生「本田望《ほんだ・のぞみ》」と偶然出会ったちょっと変わった太ったおじさん「備里健《そなえざと・けん」》の1週間の物語です。 「劇脚本」用に大人の絵本(※「H」なものではありません)的に準備したものです。 マニアな読者(笑)を抱えてる「赤井翼」氏の原案をもとに加筆しました。 「病気」を取り扱っていますが、重くならないようにしています。 希と健が「B級グルメ」を楽しみながら、「病気平癒」の神様(※諸説あり)をめぐる話です。 わかりやすいように、極力写真を入れるようにしていますが、撮り忘れやピンボケでアップできないところもあるのはご愛敬としてください。 基本的には、「ハッピーエンド」なので「ゆるーく」お読みください。 全31チャプターなのでひと月くらいお付き合いいただきたいと思います。 よろしくお願いしまーす!(⋈◍>◡<◍)。✧♡

【推しが114人もいる俺 最強!!アイドルオーディションプロジェクト】

RYOアズ
青春
ある日アイドル大好きな女の子「花」がアイドル雑誌でオーディションの記事を見つける。 憧れのアイドルになるためアイドルのオーディションを受けることに。 そして一方アイドルというものにまったく無縁だった男がある事をきっかけにオーディション審査中のアイドル達を必死に応援することになる物語。 果たして花はアイドルになることができるのか!?

鬼母(おにばば)日記

歌あそべ
現代文学
ひろしの母は、ひろしのために母親らしいことは何もしなかった。 そんな駄目な母親は、やがてひろしとひろしの妻となった私を悩ます鬼母(おにばば)に(?) 鬼母(おにばば)と暮らした日々を綴った日記。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...