ライオンガール

たらこ飴

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第3章〜新たな出発〜

ラストショー③

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 ホクのショーが大歓声のうちに終わり、彼が戻ってくると私の出番だ。ホクが私の肩を叩いて親指を立て、"Le‘a kulou a ka lawai‘a、ua mālieイ・ホレ・イア・ノ・カ・イエ・イ・ケ・カウ・オ・カ・ラー" と言った。そのあと「英語デ、タノシモウトイウ、意味」と付け足した。

「ありがとう、楽しんでくるわ」

 私はアーチ型のエントランスを潜り、リングに足を踏み出した。

 リングの手前、エントランス前に大きなスクリーンが降りてきて、流星群が一斉に降り注ぐような映像が流れる。

 そのあとで私の幼い頃の映像が流れる。家のソファで動物たちとトークショーを繰り広げるあのDVDの映像だ。

 私の声とアフレコが響き渡り、観客席から温かい笑いが漏れる。

 映像が終わると私はマイムを始める。背後から光が当たるために、私の姿は観客席からは黒い影が動いているように観える。

 ボールを追いかけて走り、ドリブルやヘディングをする私。だがやがて楽しくなくなり、リングの真ん中で立ち尽くしてがくりと首を垂らす。

 バレエをする私。爪先を立てて両腕を広げ、くるくると回ってみせる。でもまたすぐにつまらなくなり、落ち込んで膝を抱えて座り込む。

 手を曲げて動かし列車を表現する。梯子を登るように手脚を曲げて動かし、列車に乗り込む動作をする。

 次はサーカスに出会ったあとの私だ。ジャグリングをし、傘回しをする。しかし自分自身が分からなくなり絶望し、頭を抱えてリングに頽れる。

 沈黙が流れる。

 私はある日ついに逃げ出す。走る、走る、走るーー。

 兵士になったつもりで力一杯レバーを引き、大砲を撃ち上げた体で手のひらを額にあてて空を見上げる動作をする。

 泣き叫ぶ赤子の声が流れる。

 今度は2役で、最初は建物に押しつぶされ、腹ばいになり、叫ぶ女性が私に赤子を手渡す動作をする。

 次にそれを受け取り駆け出す私、赤ん坊を抱えた両腕を持ち上げて誰かに手渡す私を表現する。

 走る、走る。

 爆風に飛ばされたように背中を丸め、後ろ向きに勢いよく倒れる。 

 ぼんやりと佇む。

 10秒ほどの沈黙。

 口を開け、声を出そうとするが出ない。喉を抑え、何度も声を出そうとするが喋れなくなったと知り途方に暮れる。

 歩く。坂を登る。降りる。

 イスタンブールで牢屋に閉じ込められたときを表現するために、何もないところを拳でドンドンと叩き、檻の鉄の棒を両手で掴んで揺らす仕草をする。

 次に波を表現するように両手の指先を顎の前で突き合わせうねりながらで動かし、頭の上まで持っていく。それから腕を水中で平泳ぎをしているように動かしながら両膝を曲げゆっくりと歩き、海の中で泳ぎ続ける自分を表現する。やがて喉を抑えて苦しみ、顔を天井に向け、必死に浮上しようとするように両腕で水を掻く動作をする。

 船の汽笛が鳴り響く。

 起き上がる私。キョロキョロと辺りを見回す。

 船を降り、走る、走る。

 照明が上から当てられる。私の姿が観客から観えるようになる。

 3ボールジャグリングとクラブジャグリングを披露する。照明が落ちると裏手の梯子を急いで上る。

 やがてスポットライトが空中の綱渡り用のロープ前の台にいる私に当たる。

 今度は綱渡りだ。

 両腕を広げバランスをとりゆっくりと綱を渡る。感覚が鈍っていて危ない箇所がいくつもあった。

 3分の2ほど渡ったところでバランスを崩して落下用ネットの上に落ちてしまった。笑い声が上がる。失敗だ。

 ショックを受けていたらジャンが突然空中の台の上に現れて綱渡りをし始めた。そして間もなく落下してきた。今度はジュリエッタが綱を渡り始めすぐに落ちてきた。それに続いてルーファス、シンディ、アルフレッドなど他のメンバーも綱渡りをして失敗して落ちてきた。

 テントが大きな笑いに包まれた。

 最後はルーファスと2人で例の寸劇を披露し、クラウンショーは終わった。

 波のように広がり、いつまでも続く温かい歓声と拍手に胸がいっぱいになった。
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