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第3章〜新たな出発〜
第60話 ラストショー
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遠くに観覧車が見える。オープニングショーとヒュージ・ホイールが終わり、空中ブランコを披露しているあたりだろう。
今気づいたが私には何の道具もなかった。赤い鼻すらもない。本当に素顔のままでステージに出るしかない。路上パフォーマンスとは違う。化粧をしない生身の私を観られることは怖いけれど覚悟はある。暴漢に襲われかけ、海で死にかけた経験から見たら些細なことに思える。
遊園地の駐車場に車が停まる。
「スタッフに言っておくからショーを観に来て! 今日しか観られないから!」
走り去る間際の私の台詞にオーロラは躊躇いなく頷いた。
「観に行くわ、きっと」
『バザイラム・ランド』の入り口を入ってすぐのところに建つサーカステントが見えてきた。中から大きな拍手と歓声が聴こえてくる。
テントの裏から中に入る。作業していたスタッフの女性の1人が驚いたように私を見た。私が生きて現れたことに驚いたのか、それとも女性だと知り驚いたんだろうか。正直どちらでもよかった。今はそれどころではない。
「受付の人に伝えて、私の大切な人が観にくるから、テントの中に入れてあげてって!」
彼女は頷いて裏口を出て行った。
女性用控え室に入る。中にいたジュリエッタとシンディが私の顔を見てフリーズしていた。
「ネロ……あなた……生きてたの?!」
ジュリエッタは涙を流して私を抱きしめた。シンディも泣いていた。
「髪が長いあなたも素敵よ」
「ありがとう、ジュリー。会いたかった!」
シンディが皆を呼んできた。ルーファスとジャンが駆け寄ってきた。出番を終えたミラーとアルフレッドも。
「生きていたか……よかった、よかった」
ルーファスが顔をくしゃくしゃにして私を抱きしめ背中を叩いた。彼が泣いている姿を初めて見た。
「てっきり死んだと思ってたよ」とミラーが言いジュリエッタにハリセンで頭を叩かれていた。それを見たアルフレッドが涙を拭って笑った。
「ネロ!!」
ルチアが駆け寄ってきて私に抱きついた。ジェロニモもやってきてハグをした。ヤスミーナも続いた。遅れてトムとホタルも。2人はずっとイギリスで動物たちの世話をしていたが、最終公演に合わせてイギリスたら飛んできたらしい。
他の団員やスタッフも集まってきた。懐かしい顔ぶれを前に涙が溢れた。こんなに自分が泣き虫だったなんて旅を始めてから知った。
「皆、心配かけてごめん。突然辞めたりして迷惑かけてごめん。そして……皆に謝りたいことがあるの」
皆の視線が集まる。
「私、本当は女なの。男の子でいることが心地よくて、ずっと男の子のふりをしてたの。ずっと自分を偽って、皆のことを騙してて本当にごめん!!」
仲間たちは互いに顔を見合わせて言葉を探しているようだった。嫌われたらどうしよう。怒られたらどうしよう。マイムショーでは当たり前だった沈黙が今はすごく怖い。
今気づいたが私には何の道具もなかった。赤い鼻すらもない。本当に素顔のままでステージに出るしかない。路上パフォーマンスとは違う。化粧をしない生身の私を観られることは怖いけれど覚悟はある。暴漢に襲われかけ、海で死にかけた経験から見たら些細なことに思える。
遊園地の駐車場に車が停まる。
「スタッフに言っておくからショーを観に来て! 今日しか観られないから!」
走り去る間際の私の台詞にオーロラは躊躇いなく頷いた。
「観に行くわ、きっと」
『バザイラム・ランド』の入り口を入ってすぐのところに建つサーカステントが見えてきた。中から大きな拍手と歓声が聴こえてくる。
テントの裏から中に入る。作業していたスタッフの女性の1人が驚いたように私を見た。私が生きて現れたことに驚いたのか、それとも女性だと知り驚いたんだろうか。正直どちらでもよかった。今はそれどころではない。
「受付の人に伝えて、私の大切な人が観にくるから、テントの中に入れてあげてって!」
彼女は頷いて裏口を出て行った。
女性用控え室に入る。中にいたジュリエッタとシンディが私の顔を見てフリーズしていた。
「ネロ……あなた……生きてたの?!」
ジュリエッタは涙を流して私を抱きしめた。シンディも泣いていた。
「髪が長いあなたも素敵よ」
「ありがとう、ジュリー。会いたかった!」
シンディが皆を呼んできた。ルーファスとジャンが駆け寄ってきた。出番を終えたミラーとアルフレッドも。
「生きていたか……よかった、よかった」
ルーファスが顔をくしゃくしゃにして私を抱きしめ背中を叩いた。彼が泣いている姿を初めて見た。
「てっきり死んだと思ってたよ」とミラーが言いジュリエッタにハリセンで頭を叩かれていた。それを見たアルフレッドが涙を拭って笑った。
「ネロ!!」
ルチアが駆け寄ってきて私に抱きついた。ジェロニモもやってきてハグをした。ヤスミーナも続いた。遅れてトムとホタルも。2人はずっとイギリスで動物たちの世話をしていたが、最終公演に合わせてイギリスたら飛んできたらしい。
他の団員やスタッフも集まってきた。懐かしい顔ぶれを前に涙が溢れた。こんなに自分が泣き虫だったなんて旅を始めてから知った。
「皆、心配かけてごめん。突然辞めたりして迷惑かけてごめん。そして……皆に謝りたいことがあるの」
皆の視線が集まる。
「私、本当は女なの。男の子でいることが心地よくて、ずっと男の子のふりをしてたの。ずっと自分を偽って、皆のことを騙してて本当にごめん!!」
仲間たちは互いに顔を見合わせて言葉を探しているようだった。嫌われたらどうしよう。怒られたらどうしよう。マイムショーでは当たり前だった沈黙が今はすごく怖い。
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