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第3章〜新たな出発〜
芸術ホール⑤
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オーロラの目が驚いたように見開かれる。風が葉を揺らし爽やかな緑と露の香りを運んでくる。揺らぐ紫の瞳の中に私の顔が映っているのが見える。
「旅の途中で気づいたの。私はあなたのためなら何でもできるしどこにだって行ける。この世界を丸ごとあなたにあげたっていい。無理だって笑うかもしれないけどね。CDは私の気持ちの証よ。私と一緒に色んな国を旅した。だからどうしても取り返して渡さなきゃならなかった」
「ありがとう、アヴィー……」
オーロラが戸惑いがちに答える。もう一度オーロラを抱きしめる。できることならずっとこうして彼女の体温を感じていたかった。
「オーロラ、私はあなたを本当に大切に想ってる。あなたは前に言ってたわよね、愛する人と家族を作りたいって。もしも相手が私でいいんなら、私は喜んでその夢に乗るわ」
オーロラは真剣な顔で考え込んでいるみたいだった。それはそうだ、小学生時代からの友人から突然愛の告白を受けてすぐに答えが返せるわけがない。
「アヴリル、私もあなたが好きよ。あなたを大切に想ってる……」
「今すぐじゃなくていいの」
彼女の台詞を遮るように言った。この先を聞きたくなかった。それよりは猶予期間が欲しい。ここで振られるとかあまりに悲惨すぎる。これだけの時間と国を超えて命からがら彼女の元に辿り着いたのだから、待つことなんて屁でもない。
「答えはあとででいい。無理なら無理で仕方ないけど、絶対に諦めないわ。あなたの気持ちが変わるまで何回でも告白し続ける。それに私、行かなきゃいけないところがあるの!」
もう一度オーロラを抱きしめたあと立ち上がる。サーカスの最終公演は17時から。会場はロンドンの『バザイラム・ランド』だ。B級映画をモチーフにしたテーマパークで、オーロラがよく遊びに行くと言っていた。腕時計はすでに17時5分前を指している。時間を過ぎてしまうけれど滑り込めれば……。
「オーロラ、もしかしたら私、18時頃にショーに出るかもしれない。『バザイラム・ランド』でやってるわ、だからよかったら観に……」
「バザイラム・ランドってロンドンの? ここからだと遠いから車で送るわ」
「オーロラ、車持ってたの?」
「当たり前よ、免許くらい持ってるわ」
私たちは顔を見合わせて笑った。
「びっくりしたでしょ?」
猛スピードで走る車の中で私は運転席のオーロラに訊いた。もちろんあの告白のことだ。
「そうね、かなり。だけどよくよく考えてみたら、もしも私が逆の立場なら、ただの友達以上の何らかの強い想いがなければ遠くから会いに行きたいとは思わないわ」
「うん、確かに。めちゃくちゃ強い想いがあったんだろうね」
信号で車が停車する。オーロラが私に顔を向けて微笑む。
「凄く驚いたけど嬉しかったわ、こんな体験一生のうちに経験するかしないか……」
「私ももうこんな経験はしないと思うわ」
車が走り出す。街路樹や歩道、マネキンやアクセサリーの並ぶ店、街灯を通り過ぎていく。どこかへと急ぐ人の群れも。
オーロラの横顔を見る。唇が小さく微笑んで目が潤んでいる。
「だけど、もう海に飛び込むのはやめて。危険なことに飛び込んで行くのも……。あなたのことだから事情があったんでしょうけど……」
「事情はあった。大きな事情が。それについてはまたあとで話すわ」
あの赤ん坊は少し大きくなっているだろうか。もう名前がつけられていたりして。あの赤子をまた腕に抱きたかった。母になる覚悟も勇気もないけれど、あの子には幸せになってほしい。たくさん遊んで好きなことを見つけて勉強して、戦争のない世界で何にも邪魔をされずに自分の夢を叶えてほしい。
「旅の途中で気づいたの。私はあなたのためなら何でもできるしどこにだって行ける。この世界を丸ごとあなたにあげたっていい。無理だって笑うかもしれないけどね。CDは私の気持ちの証よ。私と一緒に色んな国を旅した。だからどうしても取り返して渡さなきゃならなかった」
「ありがとう、アヴィー……」
オーロラが戸惑いがちに答える。もう一度オーロラを抱きしめる。できることならずっとこうして彼女の体温を感じていたかった。
「オーロラ、私はあなたを本当に大切に想ってる。あなたは前に言ってたわよね、愛する人と家族を作りたいって。もしも相手が私でいいんなら、私は喜んでその夢に乗るわ」
オーロラは真剣な顔で考え込んでいるみたいだった。それはそうだ、小学生時代からの友人から突然愛の告白を受けてすぐに答えが返せるわけがない。
「アヴリル、私もあなたが好きよ。あなたを大切に想ってる……」
「今すぐじゃなくていいの」
彼女の台詞を遮るように言った。この先を聞きたくなかった。それよりは猶予期間が欲しい。ここで振られるとかあまりに悲惨すぎる。これだけの時間と国を超えて命からがら彼女の元に辿り着いたのだから、待つことなんて屁でもない。
「答えはあとででいい。無理なら無理で仕方ないけど、絶対に諦めないわ。あなたの気持ちが変わるまで何回でも告白し続ける。それに私、行かなきゃいけないところがあるの!」
もう一度オーロラを抱きしめたあと立ち上がる。サーカスの最終公演は17時から。会場はロンドンの『バザイラム・ランド』だ。B級映画をモチーフにしたテーマパークで、オーロラがよく遊びに行くと言っていた。腕時計はすでに17時5分前を指している。時間を過ぎてしまうけれど滑り込めれば……。
「オーロラ、もしかしたら私、18時頃にショーに出るかもしれない。『バザイラム・ランド』でやってるわ、だからよかったら観に……」
「バザイラム・ランドってロンドンの? ここからだと遠いから車で送るわ」
「オーロラ、車持ってたの?」
「当たり前よ、免許くらい持ってるわ」
私たちは顔を見合わせて笑った。
「びっくりしたでしょ?」
猛スピードで走る車の中で私は運転席のオーロラに訊いた。もちろんあの告白のことだ。
「そうね、かなり。だけどよくよく考えてみたら、もしも私が逆の立場なら、ただの友達以上の何らかの強い想いがなければ遠くから会いに行きたいとは思わないわ」
「うん、確かに。めちゃくちゃ強い想いがあったんだろうね」
信号で車が停車する。オーロラが私に顔を向けて微笑む。
「凄く驚いたけど嬉しかったわ、こんな体験一生のうちに経験するかしないか……」
「私ももうこんな経験はしないと思うわ」
車が走り出す。街路樹や歩道、マネキンやアクセサリーの並ぶ店、街灯を通り過ぎていく。どこかへと急ぐ人の群れも。
オーロラの横顔を見る。唇が小さく微笑んで目が潤んでいる。
「だけど、もう海に飛び込むのはやめて。危険なことに飛び込んで行くのも……。あなたのことだから事情があったんでしょうけど……」
「事情はあった。大きな事情が。それについてはまたあとで話すわ」
あの赤ん坊は少し大きくなっているだろうか。もう名前がつけられていたりして。あの赤子をまた腕に抱きたかった。母になる覚悟も勇気もないけれど、あの子には幸せになってほしい。たくさん遊んで好きなことを見つけて勉強して、戦争のない世界で何にも邪魔をされずに自分の夢を叶えてほしい。
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