ライオンガール

たらこ飴

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第3章〜新たな出発〜

第59話 芸術ホール

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 バス停のベンチでバスを待ちながら寿司を食べた。途中反対側の歩道を歩く痩せた野良猫の姿が目に入り、ネタの上に乗った鮪の刺身をあげたらあっという間に平らげた。もう一枚あげたらそれも食べた。

 猫を可愛がっていたためにバスのことをすっかり忘れてしまっていた。反対側の路肩にバスが止まっているのが目に入り慌ててダッシュした。が、躓いてぬかるみに頭から突っ込み全身泥まみれになってしまった。最悪だ。そうこうしているうちにバスは行ってしまった。

 次のバスまであと1時間。愚かで不注意で不運な自分を呪った。

 仕方なく歩いて30分ほどのところにある駅から地下鉄に乗って芸術ホール最寄のキングス・クロス駅へ向かうことにした。ハリー・ポッターで有名なあの駅だ。

 途中公園の噴水で顔を洗ったが、途中で水が出なくなり全部の汚れは落とせなかった。ジムかどこかでシャワーを借りたいけれど、何せ初めて来た国だからどこで借りられるのか分からない。

 道中も駅に着いてからも四方八方から人々の視線が突き刺さった。そりゃそうだ。こんなに全身泥まみれの女が歩いているのだから、怪しい浮浪者と思われても仕方ない。こんな姿でオーロラに会いに行くなんて消えてしまいたいくらい最悪な気分だ。でも例えどんな姿だとしても、オーロラはこの汚い女を私だと分かってくれる。そして心から再会を喜んでくれるだろう。

 乗り込んだ列車内は空いていた。今すぐ座りたいくらい疲れ切っていたけれど、泥で座席を汚してはいけないから立っていることにした。乗客たちの冷たい目線を感じいたたまれなくなる。でも今を越えればオーロラに会える。全てはオーロラに会うためなのだと心に言い聞かせ窓の外を見た。

 列車を降りたらロンドンに着く。オーロラが住んでいる場所だ。心が浮き立った。ここに来るまで2年ほどの時間がかかった。相手が彼女でなかったら、私はこれほど命をかけた大きな旅を続ける覚悟を持てなかっただろう。

 早く彼女に会いたかった。何を話そうかなんてもうどうだってよかった。彼女の顔を見られるだけで、ただそれだけで特別で満ち足りた気持ちになるだろう。

 近くの席に座っていた女性が見かねてウェットティッシュを数枚渡してくれた。それで服を拭ったが完全に汚れは取れなかった。
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