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第3章〜新たな出発〜
再会③
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2日後の午後にイギリスのヘイスティングス港に着いた。岸壁で船員たちと船医に何度もお礼を言った。
別れ際、ホクに言った。
「戻るかどうかはあなたの自由だけど……。私はあなたとまたショーを作りたい」
ホクはただ微笑んでいた。
ヘイスティングスの港街を歩いていたら冷たい潮風が肌を刺した。風で飛ばされてきた新聞を手に取って見ると、一つの記事が目に飛び込んできた。
『ロンドンの芸術ホールにて、世界の絵本展覧会始まる』
もしかしたらオーロラもそこにいるかもしれない。が、通行人に尋ねてみたところロンドンの芸術ホールまではバスで2時間以上かかるという。おまけにお金もない。何もかもをフランスのあの島の岬に置いてきてしまった。
道具がなくてもできるのはマイムしかない。人通りの少ない街の片隅で即興のマイムを始める。ちょうど近くに回転寿司屋があるので、それにちなんだものをやることにした。
空気椅子の体勢で、流れてくるネタを顔を動かしながら眺める。何度かその動作を繰り返したあと、近づいてきた寿司の1つに目を止め、パッと顔を輝かせ手で涎を拭う動作をする。
なんだなんだと漁師たちや買い物帰りの女性たちが集まってきた。回転寿司屋から大将らしき日本人の男性と女将さんらしき女性も出てきた。
近づいてきたネタを取ろうと手を伸ばしたが、隣の客に取られてああっ、と口を大きく開け絶望した表情を作る。3回それを繰り返す。くすくすと笑いが起きる。
4度目の正直で好きな寿司ネタを取れたはいいが、ワサビが辛すぎて大袈裟に鼻をつまみ顔を顰めて舌を出して見せる。その様子がおかしかったのか、笑い声がさっきよりも大きくなる。
次にきた寿司を手に取り2つ一気に口に運ぶと喉に詰まってしまい、喉を抑え白目を剥いてもがき苦しんだあと胸を拳でどんどんと叩く。
お茶を飲もうと目の前の棚にあるコップを手に取り、ボタンを押す仕草しお湯を注ぐ振りをする。一気に飲むも余りの熱さにコップを手から落としてしまう。お湯が脚にもかかり、熱くて立ち上がり慌てて濡れた場所をふきんで拭く。舌を出しながら手で顔を仰ぐ仕草をすると、観客たちはゲラゲラ笑っていた。
気を取り直してまた空気椅子に腰掛け、箸立てから割り箸を取り出して割ろうとするもうまく割れない。歯を食いしばり眉間に力を込め、
おかしな顔を作りながら割り箸を割ろうとする様子を見て、最前列の女性は涙を浮かべて笑っている。
ようやく箸が割れるが使い方が分からず寿司を刺したり、遂には遊び始め鼻に突っ込んだり、瞼を押し上げて可笑しな顔を作ったりする。口に手を当てておーいと店員さんを呼ぶ仕草をして、キョロキョロと辺りを見回したあとコソコソと店員に耳打ちをする真似をする。そのあと架空の店員に向かって確認の意味で右手の親指と人差し指でOを作って見せる。
少しして店員が何かを持ってきた体で、それを受け取るふりをする。
フォークとナイフを使って寿司を食べる仕草をし、最後にこの方がいいやという意味を込めて笑顔で観客たちに向けて親指を立てて見せる。
マイム終了時には、たくさんのコインが足元に落ちていた。
「ああ可笑しかった」
「腹が捩れたわい」
「なんだかお寿司が食べたくなったわね」
観客たちの半分はゾロゾロと近くの回転寿司屋に入っていく。
「君のおかげで今日は大繁盛だ!」と日本人らしき大将が声をかけてくれ、お礼にタッパーに詰められたお寿司を無料でくれた。
別れ際、ホクに言った。
「戻るかどうかはあなたの自由だけど……。私はあなたとまたショーを作りたい」
ホクはただ微笑んでいた。
ヘイスティングスの港街を歩いていたら冷たい潮風が肌を刺した。風で飛ばされてきた新聞を手に取って見ると、一つの記事が目に飛び込んできた。
『ロンドンの芸術ホールにて、世界の絵本展覧会始まる』
もしかしたらオーロラもそこにいるかもしれない。が、通行人に尋ねてみたところロンドンの芸術ホールまではバスで2時間以上かかるという。おまけにお金もない。何もかもをフランスのあの島の岬に置いてきてしまった。
道具がなくてもできるのはマイムしかない。人通りの少ない街の片隅で即興のマイムを始める。ちょうど近くに回転寿司屋があるので、それにちなんだものをやることにした。
空気椅子の体勢で、流れてくるネタを顔を動かしながら眺める。何度かその動作を繰り返したあと、近づいてきた寿司の1つに目を止め、パッと顔を輝かせ手で涎を拭う動作をする。
なんだなんだと漁師たちや買い物帰りの女性たちが集まってきた。回転寿司屋から大将らしき日本人の男性と女将さんらしき女性も出てきた。
近づいてきたネタを取ろうと手を伸ばしたが、隣の客に取られてああっ、と口を大きく開け絶望した表情を作る。3回それを繰り返す。くすくすと笑いが起きる。
4度目の正直で好きな寿司ネタを取れたはいいが、ワサビが辛すぎて大袈裟に鼻をつまみ顔を顰めて舌を出して見せる。その様子がおかしかったのか、笑い声がさっきよりも大きくなる。
次にきた寿司を手に取り2つ一気に口に運ぶと喉に詰まってしまい、喉を抑え白目を剥いてもがき苦しんだあと胸を拳でどんどんと叩く。
お茶を飲もうと目の前の棚にあるコップを手に取り、ボタンを押す仕草しお湯を注ぐ振りをする。一気に飲むも余りの熱さにコップを手から落としてしまう。お湯が脚にもかかり、熱くて立ち上がり慌てて濡れた場所をふきんで拭く。舌を出しながら手で顔を仰ぐ仕草をすると、観客たちはゲラゲラ笑っていた。
気を取り直してまた空気椅子に腰掛け、箸立てから割り箸を取り出して割ろうとするもうまく割れない。歯を食いしばり眉間に力を込め、
おかしな顔を作りながら割り箸を割ろうとする様子を見て、最前列の女性は涙を浮かべて笑っている。
ようやく箸が割れるが使い方が分からず寿司を刺したり、遂には遊び始め鼻に突っ込んだり、瞼を押し上げて可笑しな顔を作ったりする。口に手を当てておーいと店員さんを呼ぶ仕草をして、キョロキョロと辺りを見回したあとコソコソと店員に耳打ちをする真似をする。そのあと架空の店員に向かって確認の意味で右手の親指と人差し指でOを作って見せる。
少しして店員が何かを持ってきた体で、それを受け取るふりをする。
フォークとナイフを使って寿司を食べる仕草をし、最後にこの方がいいやという意味を込めて笑顔で観客たちに向けて親指を立てて見せる。
マイム終了時には、たくさんのコインが足元に落ちていた。
「ああ可笑しかった」
「腹が捩れたわい」
「なんだかお寿司が食べたくなったわね」
観客たちの半分はゾロゾロと近くの回転寿司屋に入っていく。
「君のおかげで今日は大繁盛だ!」と日本人らしき大将が声をかけてくれ、お礼にタッパーに詰められたお寿司を無料でくれた。
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